40.もうすぐ
合流した私たちは船に乗るとすぐにストロング国の港を出た。
ここに来た前回とは違い追い風が吹いていて予定より早く着けると船長から伝言があった。
リョウとナガイはこの船のコックと一緒に調理室で何やらゴチャゴチャやっていた。
私はこれ幸いに一郎たちを私の船室に呼ぶとすかさず寝室で洋服を抜いで腕輪を外すように話した。
「えっここで腕輪を外すんですか?」
一郎がそう言うのも当然なのだが気づいたことを放置するのも後で問題になる。
もし一郎たちがマイルド国の言葉をよく理解できなければあの国の状況を調査するのにも支障をきたす恐れがあるからだ。
とは言え今更忘れたことを言うのもちょっと恥ずかしので言い訳した。
「それを作るのにあまり時間をかけられなくてここでもう一つ魔法文字を刻みたいのよ。」
「魔法文字ですか?」
「ええマイルド国の言葉以外の全ての国の言葉をすぐに理解出来るようにね。」
一郎たちの顔が私の言葉を聞いて嬉しそうに輝くと最初に一郎が寝室に入って服を脱いで腕輪を外した。
それを次郎が受け取って私に渡してくれた。
私は船室に備え付けられている机にその腕輪を置くと目を瞑って魔法文字を思い浮かべた。
相互翻訳
私が魔法文字を刻むと腕輪の文字を確認後すぐにそれを次郎に渡した。
彼はそれを受け取って寝室に行くと一郎に渡した。
一郎は腕輪をしてから着替えて寝室から出てきた。
実は腕輪の変身機能を使うとすぐに人間に変身できる代わりになんと着ているものが変化した瞬間に消滅するということが判明したのだ。
うーんなんでそうなるのか本当は原因を究明してから腕輪を渡せれば良かったのだがいかんせん時間がなかったのでそのまま使ってもらっている。
ちなみに逆に腕輪を外しても同じことが起きたので基本腕輪を外すときは部屋に入って人がいないのを確認してから外すように厳命した。
まっ基本マイルド国に入ってからは外すことがないはずなので問題ないだろう。
私は寝室から出てきた一郎にこの辺ではあまり聞かないカレイド国の言葉で腕輪を付けた状態は問題ないかと話しかけた。
「はい大丈夫です。問題ありません。」
一郎は素直に答え隣にいた次郎と三郎はそれを聞いて目を剥いた。
「なんで今の言葉がわかるんだ一郎。」
「えっなんでわからないんだ?」
二人のかみ合わない会話に私は突っ込んだ。
「どうやら上手くいった見たいね。次は次郎三郎の番よ。」
私がそう促すと二人はすぐに寝室に消えて一郎が二つの腕輪を持って来た。
同じように彼らの腕輪に魔法文字を刻むとそれを一郎に渡し着替えて出てきた二人にも先程一郎に言ったのと同じ言葉を投げかけた。
「はい大丈夫です。問題ありません。」
どうやらこっちも問題ないようだ。
「あっそうそう言い忘れたけど自分がわからない言葉が翻訳されるのと逆に自分が話すときは意識しないと自動的に相手の国の言葉で話しているからそこも忘れないで。」
「えっそうすると意識すれば母国語が出るんですか?」
「ええ、そうよ。だからもし向こうで不測の事態が起きてその国の言葉がわからないふりをするときは意識して母国語を話さないと全部相手の国の言葉が口から出るから気を付けるように!」
「「「はい。」」」
三人が返事した所に船室のドアがノックされた。
トントントン
三郎がドアを開けると一花たちがそこに立っていた。
「ここで何をしているんですかご主人様。」
「ああ良い所にきたわね、一花。寝室で指輪を外して来て頂戴。」
一花の顔が見る見るうちにこわばった。
動かない一花に焦れた私がもう一度促すと一花は指輪を手で庇いながら首を横に振った。
「嫌です。絶対にストロング国には帰りません。」
二花と三花も同じように力強く頷いた。
「えっストロング国に帰る?」
急に違う話題になって呆けた私と違い一郎たちはいち早く一花たちが心配していることを理解して先程私が説明したことを彼女たちに話してくれた。
聞き終わった彼女たちはホッとして体の力を抜くと順番に寝室に消えると指輪を渡してくれた。
すぐに彼らと同じように指輪に魔法文字を刻むと順番に出てきた三人それぞれにカレイド国の言葉で腕輪を付けた状態は尋ね問題ないことを確認した。
その後また私の船室をノックする音がして今度は一花が出るとリョウがちょうど私の船室に夕食を持って来てくれた。
一花たちと一郎たちも夕食を摂るために私の部屋から下がって行った。
よし早急にやらなければいけないことは終わった。
私はホッとするとリョウが持って来てくれた夕食を食べるとその日はそのまま就寝した。
それから二日後良い風に恵まれてすぐにマイルド国に隣接する砂漠に着いた。
船員の協力で馬車を浜辺に降ろすと冷却機能のついた魔道具を付けた馬を繋いで私と料理人の二人は馬車に乗り後のものは全員乗馬してマイルド国の国境に向かった。
砂漠はもう昼近くなのでかなりの暑さだが冷却機能の付いた魔道具を馬車にも装着して来たので中は快適だ。
「すごいですね師匠。馬車の中が涼しいなんて奇跡です。」
マイルド国に行ったことがある料理人のナガイは昔この砂漠を超えるのに熱さで死にそうになったとセツセツと語った。
大分苦労したようだ。
もっとも私も何年か前にこの砂漠を越えた時超えられなくてここで投げ捨てられたので人のことは言えない。
ふとそんな感傷的なことを考えているとあっと言う間に中間地点にあるオアシスに到着した。
やはりすべての馬に冷却機能の付いた魔道具を装着したのは正解だったようだ。
思った以上に早い時間に到着したが一旦ここで水の補給と休息をする予定だったのでオアシスに入った。
しかしそこは閑散としていて人どころか建物もなかった。
一体ここで何があったの?




