19.推薦状と宰相様
みんなが呆れかけた頃やっと抱擁を解いたカンバーバッチに商会の中に案内された。
先導しながらもいい年をしているはずの二人は恋人つなぎをしながら商会の部屋まで私たちの存在を無視してイチャラブしていた。
豪華な家具が置かれた部屋に案内された私にカンバーバッチは王都随一と言われるお菓子とお茶を出してくれた。
それらを食べたり飲んだりして見たが全て前世で言うファミレスの味だった。
うーんいまいち。
私の顔色を見て苦笑いしたカンバーバッチはなぜかマカを膝の上に乗せながら彼女の生足をなでなでしていた。
はぁーこのバカップルって言いたいけどまだ話は終わってないし予定もあるし・・・。
私が悶々としているとカンバーバッチの膝の上にいるマカが彼の耳に何かを囁いた。
「馬車!」
どうやらここまで乗って来た馬車をおねだりしているようだ。
商売になりそうなのでバカップルを見ながらも我慢しているとやっとカンバーバッチが彼女を隣のソファーに降ろして口を開いた。
「馬車については俺宛に請求書を送ってくれ。それとこれだ。」
カンバーバッチはそう言うと立ち上がって机の引出しから書類を出して私に渡してくれた。
見るとそれはラゲッティ商会の推薦状だった。
「こんな簡単に渡していいの?」
思わず受け取りながらそう言ってしまった。
「俺はこれでも人を見る目はある。それにマカがそうしろと言うなら犯罪者にでも俺は推薦状を出すよ。」
今の発言スゴッ。
どんだけ愛妻家なのこいつ。
でもきっぱりしすぎていて何も言うことないわ。
私はありがたくそれを受け取るとまたイチャラブし出した二人をそこに放置してラゲッティ商会が用意してくれた宿屋に向かった。
さすがラゲッティ商会だ。
王都で一番いい宿屋をとってくれたようだ。
私は六人の獣人を連れて一番いい部屋に入った。
部屋の扉は一つだが中に入ると広々とした寝室がいくつもあって調度品も最高級品を使っていた。
部屋まで案内してくれた従業員は設備の説明をすると黙って下がって行った。
「御主人様お夕食はいいのですか?」
三花が心配そうに私を見た。
「大丈夫よ三花。食事ならもう用意してあるわ。」
一花はそういうと魔法の袋から出来立ての食事を取り出した。
「ですが・・・。」
まだ何か言いたそうにしている三花に私は背景を説明した。
「一応王都にも獣人がいるらしいけどそれは男性だけ見たいなの。だから万が一よからぬ考えを持った者が寄って来ない様に念の為王宮からの使者が来るまではこの部屋からあなたたちは出ない様にしなさい。もし出るようなら必ず一郎たちと一緒に出ること良いわね。」
私の命令に三人は頷いた。
本当はこんな命令はしたくないのだが王都での知名度なんてまったくない私たちに何かあればラゲッティ商会かあの第一王子たちに頼るしかなくなる。
まだ恩も売ってないのに負債を抱え込みたくもない。
それに攫われるだけならまだしも暴行やレイプもあり得る。
やはり念には念を入れてこの宿屋から出ない方がいいだろう。
そこで私はふと後悔した。
一郎たちには用心棒も兼ねて剣術や武術に対する漢字を生成する時に練り込んだのだが一花たちには接客に必要ないと思ってしなかったのだ。
もう少し考えれば良かった。
とはいえ生成が完成したものに後からそんな漢字を練り込むことが可能かどうかもわからない。
下手に追加して何か不都合があったら・・・。
「御主人様。」
私は一花の声掛けにやっと意識を戻した。
「ごめん何?」
一花はドアに視線を向けた。
どうやら何度もドアを叩いている人物がいるようだ。
私は一郎に目線でドアを開けるように促した。
一郎は頷くと隣にいた次郎と三郎が腰の剣に手を置いたのを確認してドアの前に動いた。
一郎はドアに手を置くとそっと開いた。
そこには下級貴族の恰好をしたヴォイとマントを深々と被った背の高い人物が一人立っていた。
「そちらの方は?」
一郎が暗にフードを外すように言うとその人物はかたくなにそれを拒否した。
私はドア上に設置した武器探査機が光っていないのを確認すると一応自分と猫耳美少女の三人には防護壁を展開してから入室を許可した。
私が防護壁を展開した途端そのマントの人物から驚きの声が聞こえた。
「これはすばらいい。」
その声と共にマントを脱いだ男に度肝を抜かれた。
その男はヴォイを数十年分年を取らせたような顔をした人物だった。
ということはこの男はヴォイの身内。
それもこの洗練された物腰からして思い当たる人物は一人しかいない。
「宰相閣下!」
私の呟きに一郎たちと一花たちがビクッと肩を竦めた。
そりゃそうだろう。
王宮にいる最重要人物がここにいるんだから。
私たちの心境を知らぬげに男は白い歯を見せるとキラッと光らせて笑顔で私に対峙した。
「さすが我が息子が師匠と仰ぐ人物だね。」
私の目線に一郎がサッと動くと宰相を部屋に備え付けられていたソファーに先導した。
「ありがとう一郎君。」
宰相閣下はそう言うとソファーに腰を降ろした。
ヴォイもそれに倣ってその隣に腰を落ち着けた。
「それにしてもさすが師匠ですね。半分の日程でこの王都に来られるとは思いませんでした。おかげで父を連れて来るのに少々時間がかかりましたよ。」
時間がかかった?
私が宿屋についてすぐに現れたように思うけど。
私が疑問符を顔に浮かべていると王都に入る前に通過した門から直接王都に重要人物がそこを通った際には連絡が入ると教えてもらった。
そう言えば王都の門からここまでの距離は通常の馬車なら一日半はかるく掛かる。
それを私たちは半分の時間できたからなるほど私たちがここに着くのは明日の午後だと思っていたわけだ。
ならなんで彼らはここにいるんだろうか?
「一応ラゲッティ商会に師匠が寄ってくれたんでそこから王宮に連絡が来たのよ。おかげで父に無理言ってここに来てもらえたって言う訳。」
ヴォイはそう言って経過を説明してくれた。
彼らがここに来た経過はわかったがなんでまた王宮ではなくここに来たのかがわからない。
そこに宰相閣下がここに来た事情を説明してくれた。
「一応ここは高級宿屋なんでそう物騒なことは起こらないとは思うが猫耳美少女の君たちをそのままここに置いておいて何かあると色々不味いんで宿泊場所を移動してもらいたいんだ。」
確かにここは王都の中心で賊が襲いかかって来るとは思えないが一花たちにはそんな危険を冒してでも攫う価値があると考える輩がいるかも知れない。
なら宿泊場所を移動しろと言うのも一理ある。
私は頷くと六人を従えて宰相閣下が用意した馬車で公爵邸に向かった。
公爵邸は高級宿屋があった地区よりさらに王城に近い場所にあった。
堅牢な塀に囲まれた通路を奥まで行くとそこには重厚な趣の公爵邸が建っていた。
私たちは黒服の執事に迎え入れられて公爵邸の応接間に通された。
そこには白銀の髪を結い上げた迫力美女が立っていた。
「デルダ!」
宰相閣下はそう言うと部屋に立っていた迫力美人に抱きついた。
「ラッシュ。」
迫力美人は抱き付いてきた宰相閣下と熱い抱擁を交わすと私たちに目を向けた。
スッと目を細めて一瞥した後音もなく近づくと私を庇うように前に出た一花に抱き付いて第一王子と同じようにその猫耳をサワサワと触り出した。
イヤァーン!
一花が悲鳴を上げあまりのことに一郎以下私たちは棒立ちとなった。




