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12.変態、現れる。

 レッドはスティーヴンスと話を終えると二人の傍に戻ろうとしたがいかんせん、大勢の女性に囲まれた二人に近づくことはなかなか出来なかった。


 一方ダン王子はレッドが何かの情報を得て戻って来たのには気付いていたがこちらも若い令嬢に囲まれて彼の報告を聞くどころではなかった。


 レッドは仕方なく報告を諦めて何かあっても駆けつけられる位置に付くと舞踏会が終わるのをじっと待った。


 月がかなり傾き出した頃やっと舞踏会がお開きになり三人はダン王子の寝室に戻った。


 ダン王子は部屋に戻るとすぐにレッドの話を聞きたがった。

 そんな王子をレッドは手で制するとヴォイを見た。

 ヴォイは頷くとすぐに防音結界を張ってくれた。


 レッドは結界が張られたのを確認してから先ほど舞踏会会場で出会ったスティーヴンスとビア商会の件を話した。


「スティーヴンスか懐かしいな。」

 ダン王子はテーブルに載っていた酒を手酌で飲みながら城の庭であいつとやったいたずらの数々を思い出していた。


「ええ、そうですね。それでもスティーヴンスの話だと20体もの使い魔を召還している人物が現実にいるんでしょ。やっぱり信じられないわ。」

 ヴォイもダン王子が飲んでいる酒を勝手に自分のグラスに注ぐと口を付けた。


「まっいいわ。どっちにしろ明日宿に行けばそれが本当かどうかはすぐにわかるんだし。」

 ヴォイはそう言って残っていた酒を煽ると席を立った。


「じゃ明日は早いんで私はもう寝るわ。おやすみなさい。」

 ヴォイはそう宣言すると部屋を出て行った。


「やけに今日は早いな。」

 ダン王子はそう言いながらも酒を手酌でグラスに注ごうとして気がついた。


 ポタン


 もう一度瓶を振った。


 ポッタン 


 酒が空になっていた。


「あいつ・・・。」

 真っ赤な顔で喚きたてるが相手はすでにいなかった。


 くそっ!


 レッドは喚き続けるダン王子を一人残して自分も部屋を出るとすぐ隣のドアを開けた。


 今日も大変だったが明日はもっと大変そうだ。

 レッドは軽く湯あみを済ませるとすぐにベッドに横になった。


 窓からは輝く月が見えていた。

 明日は晴れそうだな。


 レッドは目を閉じた。



 翌朝ダン王子はクレッバ男爵たちと昨晩この領主館に泊まった貴族たちとの友好を温めるために気乗りしないながらも一緒に食事を摂った。


 その後すぐに今日泊まる宿に向かう予定だったが残っていた貴族の令嬢たちに邪魔され、結局領主館を後にしたのは夕暮れになってしまった。


 三人は馬に乗るとすぐ下にある宿に向かった。


 近づくにつれ道の雰囲気がガラリと変わった。

 馬で通りながらよく見ると道の両側に魔法で作られたクリスタルが吊るされそこから幻想的な光が周囲を照らしていた。


「まあなんてステキなの。この宿が流行はやるわけね。」

 ヴォイは馬上からうっとり顔でその光景を見つめていた。


「まあたしかにきれいだがそんなに素敵か?」

 ダン王子がうっとりしているヴォイに疑問顔で尋ねた。


「まったくそんなことを言ってるから初恋もまだなのよ。」


 えらそうなヴォイの発言にカチンと来たダン王子は彼に馬を寄せると怒鳴りつけた。

「えらそうにいうなヴォイ。お前も同じだろ。」


「あらいやだ。一緒にしないでほしいわ。」


「なんだと・・・。」

 二人が馬上で言い争っているのを横目で見ながらレッドは人の気配に気がついて声をかけた。

「お出迎えが来た見たいですよ。」


 三人の前にかなり高級な黒い服を着た犬耳の美少年たちが現れた。

「ようこそおいでくださいました。」


 獣人!

 ダン王子とレッドは現れた三人を唖然と見た。


「犬耳美少年!」

 ヴォイは狂喜乱舞するとひらりと馬を降りた。


 そこにスッと犬耳美少年の一人が移動するとヴォイが降りた馬の手綱を取った。


 ハッと我に返った二人も顔を見合わせると馬を降りた。

 すぐにもう一人の犬耳美少年が馬の傍に移動すると二人の馬の手綱を受け取った。


 それを確認した三人目の犬耳美少年は三人にニッコリ笑いかけるとスッと歩き出した。

「こちらでございます。」


 声をかけ終えると三人目の犬耳美少年はふさふさした尻尾を振りながら宿に案内してくれた。


 イヤーン触りたい!

 ヴォイは後ろから犬耳美少年のふさふさしっぽを見ながら悶えていた。


 ヴォイの後ろを歩く二人は彼のワキワキする手を見ながら不安に襲われていた。


 犯罪者になるなよヴォイ。

 レッドは自分の責任を持って彼が奇行に走るなら友として止めようと身構えていた。


 変態だ!

 ダン王子は改めて自分の部下の変態さ加減を見直していた。



 ガラガラガラ


 犬耳美少年が音を立てて引き戸を開けるとそこには猫耳美少女が待っていた。


「「「ようこそお越しくださいました。」」」


「猫耳美少女!」

 ダン王子は止めようと手を伸ばしたレッドを振り切って猫耳美少女の耳を鷲掴みした。


 キャー!


 宿中に六花(ろっか)の悲鳴が響き渡った。

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