10.第一王子登場
「ダン王子。そんなに急がなくてもまだ始まりませんわよ。」
後ろから金色の長髪をさらりと風に流しながら馬を駆っている美しい顔の男が後ろから低く響く声で話かけた。
「何を悠長なことを言っているだヴォイ。レッドと同じ獣人の美少女が宿屋で強制労働をさせられているんだぞ。一刻も早く救い出さねば!」
ダンは銀色に輝く髪を後ろになびかせながら馬の速度をさらに上げた。
「王子まだ強制労働と決まったわけではありません。うわさでは強制労働ではなく使い魔として働いているということですから・・・。それなら何の問題にもなりませんよ。」
レッドは自分と同じ赤毛の巨大な軍馬の速度を上げダン王子の隣を並走しながら冷静な一言を発した。
「レッド馬鹿を言うな。うわさでは20体もの数なんだぞ。そんなに多くの使い魔と契約したなんて生まれてこの方聞いたこともない。なら強制労働で決まりだ。そうだなヴォイ。」
ダン王子は少し遅れて馬を駆けさせている美貌の魔術師に目線を送るとすぐに前方を向いた。
「王子。私は実例がないと言っただけで出来ないとは言っていませんわ。世の中は狭いんです。絶対なんてありません。」
「おいいまさら何を言っているんだ?」
ダンは馬首を左に向けて曲がろうとしてがそれを前に出たレッドに遮られた。
「なんで邪魔をするんだ?」
馬を急停止しながらレッドを怒鳴りつけた。
「ダン王子。まずはこの港街一帯を治める領主に挨拶し舞踏会に出席するのが先です。」
レッドは前方を馬で塞ぎながら真剣に説明した。
「なにを言ってるんだレッド。お前と同じ獣人の美少女が宿屋で強制労働をさせられているんだぞ。どう考えたってそっちを助けるのが先だ。」
ダンは前に進もうと馬を急かすがレッドにまた邪魔された。
「まだ証拠もないのに有力商人を捕縛なんか出来ませんよ。」
「お前は頭が固いなレッド。」
「あなたは柔らかすぎます。」
二人は分かれ道で馬上から怒鳴り合った。
「まあまあ二人とも。舞踏会の後にその商人が運営している宿に宿泊予約を入れておいたからその時に証拠を見つけて現場を抑えればいいでしょ。」
怒鳴り合っている二人の横をすり抜けて馬を走らせながらヴォイが叫んだ。
「さすが出来る男だなヴォイ。」
ダン王子は馬を領主館の方角にかえると先に馬を走らせるヴォイを追いかけた。
まったく。
ブツブツと文句を言いながら二人の後をレッドも追いかけていった。
三人が領主館に着くと中から真っ白な髪の執事と茶髪で小太りなクレッバ男爵それにかなりふっくらした彼の妻が現れて出迎えてくれた。
「お久し振りです。ダン王子。」
人の良さそうなクレッバ男爵が懐かしそうにダンに挨拶をしてきた。
「ああ久しぶりだな。」
ダンは昔何回か訪れた時の事を思い出していた。
そう言えば夫妻には俺と同じ年の子供がいたはずだが。
そう思って彼を見るとダンの疑問に答えるようにむこうからその事を教えてくれた。
「申し訳ありません。息子はただ今仕事で港の方に行っておりましてすぐに戻りますので・・・。」
クレッバ男爵は今にも頭を地面に擦り付けそうな勢いで謝ってきた。
「いや仕事なら仕方がないだろう。とにかく少し疲れたので休みたいのだが・・・。」
ダンは馬から降りると馬の手綱を近づいてきた馬屋番に渡すと目の前にいるクレッバ男爵に視線を向けた。
「ああ申し訳ありません。すぐにお部屋の方に。」
クレッバ男爵は隣にいる執事に目配せすると彼は胸に手をあててサッと三人を先導してくれた。
三人はそれぞれの部屋で軽く食事と湯あみを済ますと持って来た正装に着替え二人はすぐにダン王子が休まれている部屋に向かった。
「王子入りますよ。」
レッドとヴォイがドアを開けて部屋に入ると正装したダン王子が椅子にふんぞり返っていた。
「そろそろ始まるようですよ王子。」
「ああそうみたいだな。件の悪役商人を拝めるんだ楽しみだ。」
ダンはそう言いと立ち上がって舞踏会会場に向かった。
会場にはだいぶ招待客が到着していて賑やかな声が会場の外まで聞こえていた。
そんな中にダン王子が姿を現すとひときわ大きなどよめきが起こった。
キャーキャー
見てあれ。
王子様よ。
イヤーン、ステキ。
私、倒れそう。
あちこちから若い令嬢の悲鳴と叫び声があがった。




