第65話 残骸の中で
とにかく軍規的にも、明日からの尋問をスムーズに執り行う為にも、諸々の破壊行為は隠しておけることではない。
マリエッタたちは、重い腰を上げて後始末に奔走することになった。
まずはお隣にある白の塔へ行き、魔術師達に何を言われるかとビクビクしながらも壊れた魔道具達をソロソロと差し出す。
「ああぁぁぁっ、俺のっ、俺の可愛い子が何て姿にぃ――!?」
開発部の力作だったそうで、担当者に盛大に嘆かれてしまう。彼らにとって自らが作った魔道具は、我が子のように愛しく可愛いものらしい……。
本気で泣かれてどうしようかと思ったが、全面的にこっちが悪いので、平謝りして許しを乞うしかない。
「いいですかっ、くれぐれもっ、くれぐれも慎重に優しく丁寧に取り扱ってくださいよぉ!? 次はありませんからね!」
脅されはしたが、最終的に壊れた魔道具全ての修理と予備の備品貸し出しも許され、ホッとしたものだ。
そしてここを避けては通れないと言う最大の難関である経理部には、分隊長と副長の二人で向かった。
案の定、くだらない理由を聞かされた経理部長からは「また貴女たちですか!?」とキレられた。
特大の雷を落とされ、ここでも全力で謝るしかない。
今月何度目かになるお説教は迫力満点で、近衛の猛者として有名なマリエッタでも魂が抜けかけた。
這々の体で逃げ帰ってきた二人だが、待っていた部隊員達も給料カットは避けられない模様であると告げられ、同様に魂が抜けかけたのだった。
全員が精神的にヘロヘロになりながら、お昼休みを潰して机や椅子だったものの残骸を手早く片付け、新しい魔道具を搬入し終えたころ……。
マリエッタの部下の一人、カトリオナ・パークスがある書類を持って入ってきた。
彼女は今回、第二分隊と近衛本隊の間の伝令のような役目を担当していたおかげで、ちゃっかりと惨劇を免れてた要領のいい人である。
とはいえ、近衛騎士団第二分隊に所属しているという事は彼女にも何か相応の理由があると言うことで……。
実は、名門だが後ろ暗い噂が絶えない貴族家出身であったため、厄介事を抱えたくない部隊同士で押し付けあった結果、最終的にここに落ち着いたという経緯があった。
その上、本人にも問題があるというか……。
悪いことでは無いのだが、とにかく影が薄く周囲に気づいてもらえないのだ。
多分、普通にしていても気配が希薄なのに、自主的に隠密スキルを鍛え上げしてしまったのも良くなかったのだろう。
カトリアナ本人が諜報活動が好きだったためについ、やり過ぎてしまったらしく、周囲が気づいたときにはもう手遅れだった。
近衛が諜報活動をすることは滅多にないので、ここに所属している限り使えない能力だが本人は満足そうである。
「あ、隊長。至急、目を通していただきたい書類がありまして……」
「うわっ、びっくりした!」
今ではこのように同僚にも驚かれている始末だ。
マリエッタもレイラ同様ビクッとしたものの、努めて冷静に問いかける。
「あ、ああ。カトリアナ、いたのか。どうした?」
「午後から例の囚人のところに闇の神官が訪れるらしいです。面会の申し込みが来ています」
「なんだと?」
それを聞いて、分隊長は真剣な顔になった。
ユーミリアが収監されてまだ数日しか経っていないが、その間にもロバート王子達から面会は無理でもせめて差し入れだけでもと、何度も嘆願書が届いていると聞く。
それらは全て、宰相のところで差止めされている。国王の命令でそうなっていたはずだ。
しかし今回、面会を申し出てきたのは神殿所属の闇の神官。予想外だった。
――いったい誰が、何の目的で送り込んできたのだろう?
「上の許可が下りているのか?」
「あ、はい。内務大臣からの許可証がここに」
カトリアナは手にした書類を渡す。
「内務大臣? 宰相閣下からではなく?」
「はい、間違いなく」
確かに書類にはサインがしてあった。
「隊長、これは……」
「ああ。 厄介だな。内務大臣は……王妃様派だ」




