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第58話 近衛騎士団第二分隊



「冤罪だって言ってんの! 何度も言わせないでよっ、バカなの!?」


 怒りを押さえきれないのか、眉を逆立て噛みついてくる。


「……っ、貴様!?」


「言葉が過ぎるぞっ、口を慎め!」


「何よ!? 私はただっ、幸せになりたかっただけっ。そのために自分の出来る事をしただけだわっ。それの何がいけないのよ!!」


 泣き落としが通用しないことをここ数日で学習したのか、今はもう嘘泣きをすることもない。


 目を怒らせて怒鳴り散らす様は、とても以前のような愛らしく可憐な美少女には見えなかった。


「私は王子妃になるのっ。そしていずれは王妃になる女なのよっ。こんなことしていいと思ってんの!? 早く解放しなさいよ!!」


「ふんっ。全く反省していないようだな」


 ギラギラとした本性も野心も隠さずにぶつけてくる囚人をみて、苦々しげに吐き捨てる。


「だが、いくら言い逃れをしようとも無駄だ。貴様の罪は重い。一生、死ぬまでここからは出られはないさ」


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ、邪魔しないでよぉ――!!!」






 狂ったように喚く彼女に、これ以上まともな会話は望めないと判断したのか、尋問官はため息をつくと片手を上げてみせた。今日の分は終わりという合図だ。


「……囚人を部屋に戻せ」


「はっ」


「止めてっ。触らないでよ! いやぁっ、離しなさいってば!!」


 激しく抵抗するものの、魔力を封じられたユーミリアはただのか弱い女性だ。女騎士に抵抗するすべはない。力づくで元の牢に戻されたのだった。




 最低限の食事と水しか与えられず、厳しく尋問される日々。


 飢えと乾きが彼女を苛み、悔しくて、悔しくて頭が沸騰しそうだった。


(私をこんな辛くて惨めな状況に追い込んだ、あの公爵令嬢っ。絶対に許さないんだからっ。きっと……きっと復讐してやるわ!!)







 怒り狂い、感情を爆発させたユーミリアが引きづられていった後、静かになった空間には、担当の尋問官を気遣う空気が流れていた。


 それと言うのも、囚人と尋問官の間には割りと深刻な因縁があるからで……まぁ、ユーミリアの方は多分、忘れているだろうが……。




 手元の書類に集中している彼女に、誰が声をかけるか仲間内で目と目を見交わし激しく譲り合った結果、妥当なところで副長に決まったようだ。


 一度息を吐いて気合を入れ直してから、遠慮がちに声をかける。


「お、お疲れ様です、分隊長! その、少し休まれてはいかがですか?」


「あぁ、レイラか……ありがとう。うん、そうさせてもらおうか」



 女性だけで構成された近衛騎士団第二分隊の分隊長の一人、マリエッタ・ソルジュ。


 彼女は書きかけの報告書から顔を上げると、レイラ・スタンフォード副長の気遣いに微笑んで頷く。


「シンディ、リリィ、お前達もご苦労だったな」


「「「はっ」」」


 それから一緒にユーミリアを尋問していた部下たち、シンディ・オーウェンとリリィ・ヴァシリーを労った。




 ――マリエッタたちが所属する近衛騎士団第二分隊、通称『レッドローズ』。



 近衛は実力重視ながらも王族の側に侍り、外国の要人を出迎えたり式典等の警護をすることが多いため、見目良いものが優先して選ばれている。


 そのためここにいる彼女達も皆、目の覚めるような美女揃いであった。主な任務は女性王族の警護である。




 そんな彼女たちではあるが、場合によってはユーミリアのような特殊な囚人相手の尋問を担当することもあった。


 そして、マリエッタ・ソルジュ分隊長の部隊は、エリート揃いの近衛の中で王宮勤務ながらも華やかな表舞台ではなく、皆が嫌がる地味で根気のいる裏方の仕事を割り振られることが多かったのである。


 それには理由があるのだが、ただ彼女たち自身と言うか、分隊長のマリエッタ自身にも少し……と言うかかなり問題があって……?






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