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第42話 聖女のお仕事



「聖女様はこのまま御座所にお泊まりですかの?」


「はい。神竜様の許可をいただきましたので、そうさせていただく予定ですわ」


 本来なら、正式に聖女となった報告をしに、一旦、公爵家に帰るつもりだったのだが、殊の外、目覚めの時が迫ってきていたため、予定を変更して神殿に留まることになったのだ。


「実家にはその旨、手紙を書きますわ」



『それなら水の精霊達に頼むが良い。すぐに届けてくれる』



 二人の会話を聞いていたラグナディーンが、この神殿にいながら手紙が出せる方法があることを教えてくれた。


 大神殿の中にこの湖と繋がる「泉の間」があり、地下水路で繋がっている。水の精霊達がそこを通って手紙運んでくれるため、わざわざ対岸まで舟で戻らなくてもいいらしい。


 届けられた手紙は神官たちが受け取ってくれて、そこから公爵家のものが取りに来るまで預かっておいてくれるんだとか。



「前任の聖女様もよく利用されていましたなぁ。公爵家でも心配なさるであろうし、今から書かれてはどうかのう?」


「まあ、そうだったんですの。ありがとうございます、早速利用させていただきますわ」




 ◇ ◇ ◇




 これまでも度々、大神殿に通っては前任の聖女様に折に触れ、様々な事柄を聞かせていただいていたおかげで、つつがなく聖女業務を引き継ぐことができそうだ。

 彼女とは祖母と孫ほど年の離れていたことも幸いしたのか、殊更可愛がってくれたのである。




 先日の通信で、新たに聖女となったアンドレアと守護聖獣である神竜は、幼竜達が休眠から目覚めるのが時が迫っている件について、大神官を交え短い話し合いの場を持った。


 そこで、第一の儀式についてはすぐ終わるので、さっさとしてしまおうという結論になった。



 多岐にわたる聖女の業務のうち一番重要なのは、言うまでもなく神竜様にお仕えすることだ。


 その次に、魔物達が国内に入り込まないように張る、結界の補助をする国防の仕事があった。


 結界の維持と構築には、聖なる祈りの力をもって守護聖獣の力を増幅させる聖女の存在が不可欠だからだが、これには竜との相性も重要だと考えてられている。純度の高い聖魔法の持ち主ほど、合わせやすいらしい。




 儀式に向けて人払いを解き、大勢の神官達が通信の間に集まってきた。固唾を飲んで見守る人々の前で、第一の儀式である「魔力合わせ」を実演するのだ。


 寄せられる期待と不安の中、彼女達は一度で軽々と成功してみせた。



「おおっ、素晴らしい出来映えの聖域ですな。初合わせこれだと、もう何の問題もないかと……」


「よかったですわ。ありがとうございます」



 新たに構築された結界の魔法により、不可視の薄い魔力の膜で覆れていくのを肌で感じとった大神官は、後程、王へ結果報告すると言ってくれた。



 ――これで、契約初日の儀式は終わりである。



 運よくその場にいた皆にとっても、満足のいく結果となった。


 儀式の後アンドレアは約束通り手紙を書き、大神殿まで付き添ってくれた公爵家の者達に託すと、その日は帰ってもらったのだった。







 翌日からも着々と、お披露目までの期間を利用して引き継ぎ業務をこなしていった。



 ――その中には、聖女候補だった者たちを正式に神官に任命して統括するという役目もあった。

 聖女が誕生したことで候補者のいる意義がなくなり、新たな役職につける必要があるからである。


 今後、彼女達は聖女の補助と併せて、神殿を訪れる者達への聖魔法を用いた治療や浄化、祝福などを与える他に、孤児院の手伝いや各地への慰問などを神官と共に行うことになる。


 弱いながらも聖女と同じ力を持つ彼女達は、聖女を助けて神竜に仕え、この国の民を癒し、国防を支えていくのだ。




 ――そうして忙しく日々を過ごしている内に、ついにその時が来た。






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