第41話 秘密
無理なく接続する時間には限りがあるはず……手短に伝えたい。
「大神官様はじめ、皆様方……まずはご報告が遅れたことをお詫びいたします」
そう言ってアンドレアは、画面越しに軽く頭を下げる。
「この度、我が国の守護聖獣様に正式な聖女として認めていただき、無事に契約を結んだことを、ここにご報告いたします」
そして簡潔に、一番渇望していたであろう情報を伝える。
「おおぉっ、ようやくこの時が来ましたなっ。お祝い申し上げます、聖女様っ」
「「「おめでとうございます!!!」」」
「皆様、ありがとうございます」
祝福を一身に浴び、ニッコリときれいに微笑んだ。
「何とめでたいことかっ。聖女様、早速ですが、聖女就任を祝う式典の打ち合わせなど、直接お話ししたいことがたくさんありますのじゃ」
「大神官様、その事ですが……今は大神官様に大至急、ご相談申し上げたい重要な案件がございますの。申し訳ございませんが皆様には一旦、席を外していただきたいのですが……」
と、やや強引に人払いを求めた。
「聖女様のお望み通りに……」
大神官が迷うことなくそう言ったので、神殿関係者はすぐ引き下がってくれたのだが、公爵家からついてきた者たちは少し、渋る様子を見せた。
なので、後で必ず手紙を書くからと約束して、渋々納得してもらったのだった。
聖女就任を祝う式典は、守護聖獣との正式な契約が結ばれてから約一ヶ月後に行われると決まっている。
神殿関係者の他、王族や高位貴族を大神殿に迎えて行い、併せて民へのお披露目もする予定だ。
その性質上、大規模な式典になるので、早く細かな打ち合わせをしておきたいという事情もわかる。
それでも人払いをしてまで時間を取ってもらったのには、理由があった。
神竜様の御子たちが休眠から目覚めて孵化するときが、もうそこまで迫って来ているからである。
この大事な時期に、御座所の近くに大勢の人を集めて煩わせるわけにはいかない。
そもそも、守護聖獣である神竜にお子達がいることはこの国の最重要機密であり、厳重に秘匿されているのでほんの一握りの者しか知らない。
何故なら、幼くまだ力の弱い子竜は特に、強欲な人族に狙われやすいという厄介な事情があるからだ。
――竜との伴侶契約によって他種族でも大幅に寿命が延びることは、広く知られている。しかし正確な契約方法については知られていない。
そのため、幼竜のうちに親から奪い取り隷属の魔法でもかけて、無理やりにでも契約を結べば恩恵にあやかれると考える不埒な輩が後を絶たない。
竜の半身はこの世界に一人だけと決まっており、二人が出会った時、それぞれの額に神紋が現れる。それが出ないものと伴侶契約などしても意味がない。
強要して何とかなるものではないと言うのに、欲に目が眩んで後先考えない行動に出るものが何と多いことか……。
万が一にでも、そのような輩に神竜様の至高の宝が奪われでもしたら、比喩ではなく国が滅びる。竜一頭分の戦闘能力はそのくらい圧倒的なのだ。
――事実を知る者は出来るだけ減らした方が機密を守れる。
と言うわけで、代々の国王と大神官、そして神竜に選ばれた聖女の三人のみしか知らないのだ。
人前では絶対に話せなかったのには、そんな事情があったのである。
言うまでもないが、アンドレアが聖女になることで、ようやくその任を解かれる予定の前任の聖女様はご存知だが……。
――彼女も運命に翻弄された一人である。
先々代の王弟の娘で、長く次代が見つからず、老年まで聖女として務められた方。
ようやく聖女の素質を持つアンドレアが見つかり肩の荷を下ろせると思ったら、国の政策により引退出来なくなった。
国王がキャメロン公爵家に愛息子である第一王子の後ろ盾となってもらうため、策略をめぐらしアンドレアが聖女になる運命をねじ曲げた。その煽りをくって、理不尽にも長く聖女の地位にとどめ置かれたのだ。
最近は体調を崩しがちで自宅へと下がっていたのだが、聖女誕生の光の柱はそちらからでも見えたことだろう。今頃ホッとされているはずだ。
公式にはこれまで聖女候補の一人であったアンドレアは知る立場になかったのだが、彼女の場合、国王が無理やり聖女誕生を阻止した経緯がある。
人間たち権力闘争の煽りを受けて勝手に変更された事に気分を害していたラグナディーンは、彼女と公式な契約を結ばぬまま、子供達の存在を知らせ、遊び相手を頼んだのである。
これには国王も強くは反対出来なかったようで、事情を知るものにとっては公然の秘密だった。




