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第36話 半身



 生まれてから成竜になるまでの成長速度は人間より少し早いくらいでそう変わらないが、羽化すると人間でいうところの二十歳前後……これは竜族が一番強く力を発揮できる状態……に固定される。


 長い時を生きる竜族は、魂を半分だけ持って生まれてくると言われており、残り半分の魂を持つ己の半身を探すことがまず、竜生の目標になるのだという。

 相手は同族とは限らず短命な種族に生まれている可能性もあるらしく、成竜になったら一刻も早く伴侶探しに向かうことは竜族の常識だと教えられた。


 どうやってその半身が分かるのかと問えば、本能で分かることになっているのだとか。そして、自分の半身に出会うと、それぞれの額にお揃いの神紋が現れるので決して間違えることはなく、一生添い遂げるのだと話してくれた。



「まあ、なんて神秘的な……素敵ですわねぇ」


 運命の人が現れたとして婚約破棄されたアンドレアとしては、竜族の絶対に間違うことのないという伴侶の判別方法は羨ましい限りである。


「そのたった一人の相手が同じ時代に生まれてこない時もある。長く探し続ける羽目になる竜もいてのぉ、こればかりは運に任せるしかないのじゃ」


「そんなこともあるのですか。では御子様たちにもその可能性が……お相手が早く見つかるといいですわね」


「うむ。そうじゃな」




 半身は竜にとって一番宝で、見つかるまでは心の飢えが満たされることはなく、愛しい魂を求めて世界中を探し続けることになるという。


 そうして神紋が刻まれ生涯の伴侶を得た竜は欠けていた魂を完全な形で持つことになり、精神が安定し、純粋な身体能力が上昇する。その力の全てを使って半身に尽くすのだ。




 ――だが、相手が同族でなかった場合は喜ばしいことばかりではない。



 神紋が現れ伴侶の儀式を行う際、同じ時を生きるために自らの生命力を分け与える魔法を掛けるのだが、相手側の種族との寿命差がどれだけあるかによって、番になってからの寿命が縮まってしまう。


 大半の種族は数十年で生を終えるので、千年近くを生きる竜と共に歩むために編み出されたものなのだが、竜にとっては過酷だ。




 この世界のあらゆる生命の頂点に立つ竜族は、人間をはるかに凌駕する知恵を持ち、強大な魔法を操る。


 内包する魔法総量も膨大で、その量が多いほど寿命が伸びるため、一番の長寿種族だ。強い個体だと千年以上の時を生きる。


 これが人族だと、いくら魔力が多いものでも二百年生きられればいい方である。

 記録に残っている純粋な人族の寿命としては最長記録になるそうで、それ以上はいくら魔力総量が多くとも人の器が持たないらしい。


 ただし、竜の半身となるとその理から外れ、五百年ほどに伸びる。過去の例もいくつか伝わっており、人族の子なら一度は竜に選ばれ、愛されることに憧れるものだ。


 この五百年と言うのは、平均的な竜族の寿命の半分ほどの短さになる。


 普通なら同じ時を生きられなくなる親兄弟たちから反対されそうなものだが、半身だけは例外だ。


 番を失った竜は喪失感に耐えきれずに狂い、理性を無くし暴れまわるので、苦しみから救うには殺すしかなくなる。



 そこで、愛する番と一緒に寿命を終えることを願い、狂竜化を阻止するためにこの契約魔法が創られたのである。


「竜の側に大幅な負荷がかかる為に、寿命を縮めてしまう結果を引き起こすのは悲しいことじゃ。しかし、それ以上に半身を失うことは心が引き裂かれるのと同じことでその痛みは耐え難い。皆、本能的に分かっておるからのう、無条件で受け入れるのじゃ」


「……はい」




 ――人と竜では、時間に関する考え方も価値観も違うだろう。


 だがもし、これから幼竜達が選ぶ半身が同族以外だった場合、親であるラグナディーンを置いて先に逝くことがあるかもしれない。

 その時、彼女はどうなるのか……その後も何百年と愛する我が子のいない時を生きていくことになるのは、どんなに辛いことだろう。


 話を聞いているだけでも竜族の伴侶探しは大変で、手間と時間がかかりそうだと感じた。

 アンドレアが生きているうちには、巣立った後の幼竜達と二度と会えなくなるかもしれない。それだけでも寂しくて、今からもう切なくなってしまうというのに……。



 我が子の入った繭を、愛おしげに眺めるラグナディーンを見ながら思う。


 人の国に住まうこの神竜は、今までどれほどの出会いと別れを繰り返してきたのだろうか、と……。






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