第29話 それぞれの処分
「彼女に関しては、自業自得で同情の余地はない」
「そうだな、妥当な処分だろう」
歴史的に見てもこの国では貴族階級の女性だと、余程のことがない限り極刑にはかけられず修道院送りになるのだが、ユーミリアの場合は犯した罪が大きすぎるため、身分を剥奪され、貴族女性としての権利を奪われても仕方が無かっただろう。
「そうですわね。では、殿下を含めた他の方々の処分は……どこまで決まっているのでしょう?」
「ああ、彼等は……」
――まず、ロバート第一王子は王城の自室にそのまま軟禁される。
そして、取り巻きの青年貴族達も、王城内の近衛騎士団の宿舎にある牢に入れられることになった。
幸い、ユーミリアは庶民と変わらないような、一般的な魔力量しか持っていない。
大貴族の子弟のように膨大な魔力がないため、彼女の魔術は、術者である彼女自身とある程度の距離が離れたり、時間が経つことによって自然と薄まり、効果が切れていくと考えられている。
その為、ユーミリアの魔術が解呪できるまでは、暫くそのまま様子を見守る予定だ。
それでも、長らく思考範囲を狭められていた後遺症が出る可能性があり、思考能力の回復に時間がかかるかもしれない。
魔導師長の見立てだと、日常生活には、さほど支障がない状態に数日で戻るのではないかということだった。
――そして、彼等は解呪が成功した後、魔獣討伐の最前線である北の砦へ兵士として送られる予定になっている。
「まあ……随分と、そこまでの処分が決まるのが早かったように思いますが……?」
「長引けば長引くほど、王妃派のゴリ押しが入ってしまうからね」
「あまり厳しく処罰してしまうと、次代の権力が一点に集中し過ぎてしまうのを恐れたんだろう。王妃派が力をつけすぎると、第二王子が傀儡の王になる危険が上がってしまう。今回、処分の対象になった令息達の家は、反王妃派……政治バランスを考えれば簡単に排除は出来ない」
「そうだね。王妃様は相当、反発なさったようだけど。陛下や宰相は自分の息子達の処分という事もあるし、なるべく穏便に済ませたいという意図が伝わってくる」
「キャメロン公爵家としても、元凶となったユーミリアの処分については譲れないが、それ以外は父上も妥協なさったようだ」
宰相の三男であるレオン・パーシー侯爵令息と、宮廷魔術師の息子であるアンディ・バース伯爵令息、白の騎士団長の次男、ルーフェス・ブクナー子爵令息、新興貴族であるキース子爵家の跡取りであるオリバー・キース子爵令息の四人も、今回の事で貴族籍の剥奪こそ免れたものの、実家との縁は切られてしまった。
「数年間を北の砦で過ごし、一定の成果を出せればまた、彼等は中央へ戻って来られるだろうけれど……」
「アンドレア、きっと君からしたら甘い処分に映るだろうね……不服かい?」
「……いいえ、ユージーン兄様。妥当な決定だと思いますわ」
素行に問題ありとされ、家に不利益を与えた者に、体面を重んじる貴族社会で生きる道は無いに等しい。
それでも、廃嫡や国外追放などの自由があるはずはない。外で子を残されたりしたら、家督相続などの新たな火種になる可能性が出てきてしまう。最悪の事態を防ぐ必要があるのだ。
それぞれの家の跡取りに新たに子供ができるか、後継者の確保が出来るまではスペアとして監視され、その後、魔法で子供ができないように処理されることが決まっている。
親の保護下で安穏と守られていた若者が、見知らぬ土地で後ろ楯の無い只の一兵士として、ロバート王子と共に、危険な魔物討伐の任務に就き、国のために働くことが求められる。
その決定は、何とか更正の機会を与えてやりたいという国王の意図が感じられる処罰だったし、十分納得出来た。
ユーミリアに夢中になったのが、魔術による洗脳の前か後かは今の段階では不明だが、いずれにしろ、盲目のあまり周りが見えなくなかった方々も、治療を終えれば徐々に冷静になられるだろう。
ロバート王子達が立ち直る切っ掛けになればいい……素直にそう思えた。




