第21話 ようやくお会いできる
私の十年近くの努力は、あの子のたった半年に負けてしまったのかと。
――そう……冷静でいられなかったのは、実はアンドレアの方だったのかもしれない。
彼女が耳当たりのいい、実のない甘い言葉を囁くのを偶然、聞いたことがある。
『王子殿下だからって、私達と同じ一人の人間でしょう? どうして感情を押し殺し、我慢しなくてはいけないの。自分を偽っていては幸せになんて慣れないし、自分が幸せでなくっちゃ、人を幸せに出来ないでしょう? 私はあなたが自然に笑っている姿が好きです』
欲しがっていた、自分を甘やかしてくれる無責任な言葉……殿下はそれに縋りついてしまっていた。
普通なら、少しはハニートラップなどを疑ってもいいはずなのに、簡単に籠絡されてしまって……。
「まあ、調べてみないと分からないけど、引き返せる余地は何度もあったと思うよ。彼女自身の魔力総量は普通なのだし、殿下達の方が多いのは間違いないのだからね」
「魔力総量が多い方が魔法耐性もあるからな。例え複合魔法で精神汚染されていたとしても、本当に今まで一度も、彼女の本性に気づけなかったとは思えない」
「うん。もし、本当に彼女の本性に気づいていたとしても、殿下達も深入りしすぎた分、引くに引けない状態になっていたのかも」
「そう、ですわね」
賢い皆様方のことですもの、そう考えるのが自然なのでしょう。
ともかくこれで二人の婚約は白紙に戻され、アンドレアは当初の予定通り、聖女としての道を正式に歩むことになる。
「早ければ明日にでも父上に呼び出しがかかるだろう。ただ、君はそれに出席しなくてもいい。家同士の話し合いになるからね」
「はい、兄様」
「陛下もこの結末では、もう神殿に無理を言えまい。今度こそ、聖女候補から正式な聖女に登用されるはずだ」
「決まったら忙しくなるからね。明日は、ゆっくりと休んだらいいよ」
「ユージーン兄様、私お願いがございますの」
「うん? なんだい?」
「はい。明日は、神竜様の元へお伺いしようかと思いますの。事の顛末を早くお話ししたくて……」
「ああ、そうだね。彼の方も愛し子の訪れがないのをご心配なさっていることだろう。分かった。君がそれでいいなら行ってくるといい。ただし、無理をしないこと。いいね?」
「ええ、ありがとうございます」
彼の方と最後にお会いしたのはいつだったか……。
ユージーン兄様がおっしゃったように随分と経ってしまっているように思う。
ここ半年間は、殿下達とユーミリア嬢の醜聞に振り回され、中々時間が取れなかったのだ。
――早くお会いしたい。お元気だろうか……?




