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第14話 ユーミリアの誤算



 ――ユーミリアの人生が変わったのは、十歳の時だ。


 その歳になるとこの国の平民は、神から授かった能力について神殿で調べてもらうのだが、そこで稀少な聖属性を持っていることが判明したのだった。


 聖属性持ちは貴族の間でも珍しく、娘の能力に喜んだドリー男爵は、平民だったユーミリア母娘をさっそく男爵家に迎え入れたのだった。


「なんと言っても、聖属性持ちだからな。男爵家の血筋に出るとは珍しい!」


「……まぁ、それは確かにそうですけれども。恐れ多くも王家を筆頭に、高位貴族のお血筋に出ることが殆どですからね」


 一度は追い出したはずの妾を再度迎え入れると言い出した時は忌々しかったが、その娘に思わぬ能力があったとわかり、渋々、ドリー男爵夫人も利用価値を認めた。


「はははっ、そうだろう? これは成長が楽しみだ。上手くいけば私の血を引く娘が聖竜様に選ばれ、聖女様になるかもしれんぞ! 何しろ、聖女候補筆頭だったキャメロン公爵家のご令嬢は、第一王子殿下のご婚約者になられたことだしなっ。可能性はある」


「あなた! いい加減になさいませっ。さすがにそれは無謀ですわ」


「む?」


「あなたもご存じでしょう? 近頃、王妃さまがご実家であるブラントン公爵家のご令嬢を、聖女候補に推していらっしゃることを。あちらの御家も王家にご縁がありますし、聖女様は今まで王家に近しい御家から選ばれております。これがどういうことか、よくお考えくださいまし」


「う、うむむ。そうか……いや、しかしなぁ。こんなチャンス、もうないぞ?」


「これはチャンスなどではありませんっ。王妃様は逆らう者に容赦のないお方。あの子程度の力で下手に名乗りをあげれば、目をつけられて我が家ごと潰されてしまいますわよ!」


「ひぃっ。分かった、分かりましたよ」


 男爵婦人の勢いに押されて、浮かれていたドリー男爵も頭が冷えたらしい。ユーミリアに、聖女を目指させないことに一応、同意した。


「本来なら娼婦の生んだ娘などこの家に入れたくはありませんが、聖属性持ちなら仕方がありません。政略に利用する価値もあるでしょうしね。でも、本宅に入れるのは遠慮していいただきますからね!」


「わ、分かった。その通りにするよ」


 と言うわけで、ドリー男爵の正妻は二人が男爵家に名を連ねることは渋々了承したが、男爵の妾になるまでは娼婦をしていた母親とその子供であるユーミリアを、本宅に入れることは強く拒んだ。


 そのため男爵は仕方なく、母娘を本宅の離れに住まわせることにしたのだった。




 しかし、そんな大人たちの事情は、ユーミリアにとって些細なことであった。


 何故なら彼女を待っていたのは、夢のように贅沢な貴族の生活だったからである。




 毎日三食、たっぷりと用意される美味しい食事と、食事の合間に朝夕の二回、甘くて美味しいお菓子を食べられるお茶の時間。

 砂糖を惜しみなく使って作られるお菓子など、平民だった頃は、父が母の元に訪ねて来た時にしか食べられなかった贅沢品だ。


 それが今では毎日食べられるなんて信じられない。甘いものに目がない母と一緒に、今までの暮らしでは味わえない甘味を喜び、優雅な時間を楽しんだ。




 正妻の娘のお下がりだったが、きれいなドレスもたくさんもらった。


 ドレスだけではない。用意されていたユーミリアの部屋には、子供用の可愛いらしいデザインながら、高価そうな家具一式の他に、たくさんのぬいぐるみや素敵な恋愛小説、綺麗な装身具なんかも揃えられていた。


 これは、娘の将来への期待を捨て切れなかった父が、正妻に隠れてこっそりと用意してくれたものだった。全部、自分だけのものにしていいらしい。


「いずれはドレス一式、きちんと仕立ててやる。何と言っても、お前は聖女様になるかもしれない大事な娘だしなっ」


「うん。わたし聖女様になる!」


「ああ、きっとなれるともっ。ユーミリアはこんなに可愛いんだからな! ははははっ」


 正妻に言われて一度は冷静になったものの、ドリー男爵は全然諦めていなかったのである。


 そして、ユーミリアも父に乗せられるまでもなく、すっかりその気になってしまっていた。


 貧しい平民の生活から一変、まるで絵本に出てくるお姫様のような暮らしになり、子供だったユーミリアは舞い上がっていたのだ。



 ――聖属性持ちで本当に良かった、と彼女は思った。



 貴族って凄い、男爵家に引き取って貰えた自分は、なんて幸運な女の子なんだろうとその時は思っていた。







 貴族の令嬢としての生活をスタートさせたユーミリアには、もう一つ夢中になったものがあった。

 ツンと澄ました意地悪な貴族令嬢達から、想い人を奪ってやることである。



 ―― 初めてそれに愉悦を感じたのは、年の近い貴族の子女だけを集めて定期的に開かれるお茶会でのこと。



 そこでは同じような身分の令息、令嬢達がたくさん、親に連れられて来ていた。

 目一杯、おしゃれをして着飾ったユーミリアもワクワクしながら参加したのだが、そこで女の子たちから自分の思い描く未来を否定されたのである。


 このお茶会は、自分を上手に売り込んで人脈作りをするためにあるんだよ、と事前に父が教えてくれていた。


 だからユーミリアは、自分は聖属性持ちで将来は聖女様になるんですとみんなに教えてあげれば、友達になりたいと思う子はたくさんいるだろうと考え、実行したのだ。


 将来有望な自分と今から友人になっておけば、彼女達の未来も明るいだろうし、きっと喜んで受け入れてくれると思ったのに……。






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