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第13話 悪用

 読者の皆様、いつもお読みいただきありがとうございます。


 9月26日(金)、『第13話 悪用』の後半部分~『第16話 まだ、負けていない』を加筆し、投稿しました。よろしくお願いいたします。



 そこで、彼女をより追い詰め能力の暴走を狙ってみたのだが……。


 元々魔力量も普通で聖属性の素質も少ないせいか、影響下にあった崇拝者達以外の周囲の貴族には、はっきりとした変化は現れなかったように思う。


 しかし、ジェフリーは何か掴んだようだ。


「……中々、面白いものをみせてもらったよ。彼女、器用だね。是非、直接調べてみたいな」


「ジェフリー兄様……」


 アンドレアは膨大な魔力を持っているが、聖魔法に特化している分、他属性の分析や魔力の見極めなどは苦手としている。


 その点彼なら、弱冠十八歳で魔法省にスカウトされ勤務しているエリートで、希有な複数属性持ちなため魔術に詳しく分析なども得意だ。

 

 今も美貌に加えてその才ゆえに、うら若き令嬢達から熱烈な視線を送られている次兄は、表情を変えず言葉少なに言った。


 アンドレアが感じとれなかった何かを掴んだようだが、この場で言うべきことではない、と言うことだろう。


「そうか。まあ、その判断は父上達がされるだろう。アンドレアもあまり思い悩まないようにね」


「はい、ユージーン兄様」





 二人の兄に付き添われ、小声で話しながら歩みを進めていると、進んで道を開けてくれる方々のおかげですぐにキャメロン公爵達がいる場所まで辿り着けた。


 王と王妃は既に退出されたようだ。その場にはまだ宰相閣下がいらっしゃったが、こちらに気づくとすぐに離れて来てくれた。


「来たか、三人とも」


「お待たせ致しました、父上。それで、どうなりましたか?」


「近衛を動かした。じきに捕縛の連絡が入るだろう」


「……そうですか」


「アンドレア、私の愛しい娘」


 そう言うと、愛娘を優しく抱き締めた。


「お父様、申し訳ございません。結局、殿下を始め皆様の目を覚まさせることは出来ませんでした」


 私の目には、割りと酷く醜態を晒されたように映ったのですが、十分ではなかったようです。


「いや、よく頑張ってくれた。辛い役目をさせて済まなかったね」


「いいえ、お父様」


 毅然と対処していたが、アンドレアはまだ十七歳の少女なのだ。王子妃になるためにと己を律して努力し続けて来た月日が一瞬で壊され、深く傷ついたことだろう。


 キャメロン公爵は、愛娘を思って優しく労った。


「簡単にいかないだろうことは、もとより承知の上だ。自分に都合のいい世界とは、いつまでもいたいと思うほどに居心地がいいのだろうさ。……疲れただろう? 後は任せて、今日はもう兄さん達とお帰り」


「はい、お父様。ありがとうございます」


「二人共、頼んだぞ」


「ええ、父上。お任せください」






 ◇ ◇ ◇






(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?)



 ユーミリアは、ドレスをたくしあげ、高いヒールの靴で転ばないように気をつけながら、王宮の廊下を必死に走っていた。



(なんでなの、どうして最後になって、急に上手くいかなくなったのよ!?)



 大勢の貴族たちの前でアンドレアの罪を指摘して白日の下に晒し、婚約破棄宣言をしてしまえば、国王もキャメロン公爵も認めざるを得ない。彼女がアンドレアに代わって王子の婚約者になれるとレオン達みんなが言っていた。


 なのに計画通りに行かず、むしゃくしゃする。


 頭を掻きむしりたい気分だった。



(……あの女がいけないのよっ。公爵令嬢アンドレア……家柄もお金も美貌も魔術の才能も何でも持ってる癖にっ。その上、王子様の婚約者の席にまで座ろうなんて、図々しいのよっ。一つくらい譲りなさいよ!)



 生まれた時からすべてに恵まれていて、何の苦労もしていないであろう、温室育ちのあのお嬢様が憎たらしかった。



(私はロバート王子に愛されているのっ。王子の恋人なのよっ。その私が反対に断罪されそうになって、ひとりで逃げなきゃいけないなんて、絶対おかしいわっ!!)



 ――あと少しだったのにっ。



 自分はこの国の第一王子を虜にすることに成功し、彼から婚約者になって欲しいと言われたのだ。


(王族の配偶者になるという、女性として最高の地位が、あと少しで手に入るところだったのに!

 そうしたら、今まで私を見下していた傲慢な貴族社会や、冷たい態度をとる令嬢や貴婦人達を見返してやれたというのに……どうして!?)



 ユーミリアは、完璧だったはずの計画がなぜ破綻したのかと、自問自答していた。






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