第12話 真偽
妹がそんな風に心の中で心底、容姿を取り替えたいなどと羨ましがっているとは知らずに、人好きのする柔和な微笑みを浮かべ、優しく手を差し出す。
「さ、こちらにおいで、父上が呼んでおられる」
「はい、兄様達」
周囲から先程とはまた別の、好奇の視線が刺さる中、ユージーンにエスコートされながら会場を横切る。
陛下のいらっしゃる方を不敬に当たらないようソッとお伺いしてみると、渋いお顔をなされながらも宰相閣下やお父様のキャメロン公爵と協議され、何やら指示を出されているご様子。
――多分、近衛を動かされたのでしょう。
全く、何度でも言いますが、ここはこの国で一番警備の厳しい王城でしてよ。
何処にも逃げられやしないというのに、何処へ行こうとされているのやら……?
実際に神竜様の裁きを受けさせるかとうかはともかく、真偽の程を明らかにするため、一度は彼女を捕らえなくてはならない。
これまでにも、ドリー男爵令嬢に関しては様々な貴族家から王家へと、彼女の処分を求める嘆願書が提出されていた。
ロバート王子に手を出した時点で、キャメロン公爵家でも噂の真相を確かめるため調査させていたが、他家の中には彼女が原因で破産に追い込まれたり、婚約破棄に至ったものまであった模様。
今日着ていたドレスも高位貴族御用達の服飾品店で作られたもの。男爵家では家格の低さから門前払いされてしまい、望んでも手に入らない種類のものなのだ。大方、取り巻きの青年貴族からの贈り物だろうが……。
彼女が今までにも宝石やドレスなど、高級品を扱う様々な店舗に異なる男性を連れて、頻繁に買い物をしていたことも調べがついている。
夢中になった崇拝者の中には、借金をしてでも言われるがまま高価なプレゼントを与え続けた者もいたようで、そんな事を続ければ破産もするだろう。
彼女に騙され、引っ掛かった青年貴族達には自業自得な面もあるが、たった数年で一人の男爵令嬢にここまで引っ掻き回されたのだ。
その数の多さからやはり、禁呪である魅了魔法の使用を疑う者もいる。
それに関して公爵家の調査では、魅了魔法そのものを使ってはいないのではないか、という結論を出した。
しかし、依然として何がしらの魔術を使っていた可能性は高いという疑惑は残っている。
ドリー男爵令嬢が聖魔法の持ち主だと言うことは分かっているので、それを使い悪用したのではないかと。
聖魔法には、心を落ち着かせ安心を与える効果のある共感魔法と呼ばれるものもあり、扱い方によっては対象者の共感を強く引き出し、承認欲求を叶え続けることで洗脳に近い状態にまで持っていける可能性があった。
――今回はそれが疑われているのだ。
アンドレアは、国王の横槍が入らなければ弱冠五歳で聖女に選出されていたかもしれない、突出して純度の高い聖魔法の持ち主である。
ユーミリアも同じ属性持ちだが、聖魔法以外に他属性の適性もあったらしく純度は低い。
一般的に、聖魔法で出来る事と言えば回復や治癒などが上げられる。ユーミリアが疑われているような、人心を煽動し操作するという洗脳に近いことが可能なのかは分かっていない。
稀少な属性のため先例が少な過ぎるのと、今回は他属性も持っていたので推察しにくかったのだ。
実は、ドリー男爵令嬢の処罰を求める嘆願書が王家に届き始めた頃から、機会があれば同じ聖属性持ちとして、彼女の魔術を見極めて欲しいと密かに要請されていた。
まさかこんな婚約式を祝う場で騒ぎを起こすとは思っていなかったが、確かめるには好機でもあった。




