第11話 決着
「まぁまぁ……語るに落ちるとはこのことですわね。元気いっぱいに力強く、走り抜けて行かれましたこと。あれのどこが深く傷つき、体調を崩されたご令嬢なのかしら? これでは彼女の行動そのもので、嘘を認めたのと同じことですわね」
結局、断罪はもう、よろしいのね?
あれだけ騒ぎ立て、私の罪を暴くと息巻いておられましたものを……。
肝心の罪人(笑)を置き去りにして、皆様風のように去って行かれましたし?
あまりにもお粗末な結末と言いますか……。
一方的な婚約破棄宣言から始まり、その後に行われた断罪では、婚約者を裏切って別の女性と不義を働いていたことを誤魔化すためか、冤罪を被せようと寄ってたかって悪役に仕立て上げて責め立てて……。
その割には、これといった成果も挙げることも出来ず、随分と呆気なかったですわね?
まぁ、相手がお花畑集団でしたし、ヒロイン気取りのユーミリア嬢の完全なる捏造ですから私が勝つのは当然として……。
しかし、このように敵前逃亡されますと、折角入れた気合が空回りし、不完全燃焼になってしまった感は否めません。
でもこれで一旦は、一件落着……ということでよろしいのかしら?
と言いますか、祝いの席を好き勝手に引っ掻き回していかれた方々のおかげで、舞踏会場の雰囲気はもはや最悪なのですが……。
一人、残される私の身にもなって欲しいものですわ。私だって、早くこの場から退出したい……。
突然始まり、唐突に終わってしまった尻切れトンボの茶番劇に、否応なく付き合わされる羽目になった貴族の皆様方も、この結末にはポカンとなさっていらっしゃいますし……気まずいですわ。
私も他人事のようにポカンとしたいですけれど、思いっきり当事者ですからよもや他人の振りなど出来ません。
そもそもこの舞踏会は私と第一王子殿下の婚約式を祝う、前夜祭だったわけですし?
王家から押し付けられた婚約を白紙に戻せる絶好の機会ですから、都合よく利用させていただきましたが、おバカさん達の相手は疲れましたもの……。
やれやれとため息をついたアンドレアに、彼女によく似た容姿の背の高い青年貴族が二人、近づいてきた。
「少なくとも深窓のご令嬢なら、町娘ような形振り構わない走り方をされるとは思えないな」
「そうだね、一人で保身に走ったところなんかも、随分と強かで逞しいじゃないか」
嘘を捏造し他人の婚約者を奪い取っておきながら、バレそうになるとその場から一番に逃げ出したユーミリアに向かって毒を吐く。
「お兄様達……」
「僕達の可愛いアンドレア、大丈夫?」
「ジェフリー兄様」
「よく頑張ったね。言われた通り、凄く我慢して手も足も口も出さなかったよ。だが、本当にこれで良かったのかい」
「ユージーン兄様。ふふふっ、はい。ありがとうございます。私もキャメロン公爵家の娘です。これくらい一人で対処できませんとお父様に怒られてしまいます」
「ああ、よくやった。立派だったよ」
そう言って長兄であるユージーンが、労るように優しく頭を撫でてくれた。多くの女性が思わず見惚れて溜め息をついてしまうような、甘くてキラキラした笑み付きで……。
ジェフリー兄様もそうですが、お二人揃ってそのように微笑まれてしまいますと、ま、眩しすぎますっ。 妹相手に、無駄に色気を振りまかないでくださいませ。
ほら、ご覧になった皆様方から、ほおぅ、などという感嘆の声が上がっておりましてよ。本当にお兄様達ったら人誑しなんですから!
凛々しさの中にも、愛嬌のある秀麗な顔立ち。家柄も才能も一級品の二人の兄には崇拝者が絶えない。 アンドレアと違い、見た目が優しげな顔立ちなのも人気なのだろう。
金の髪に緑の瞳という、王家の血が色濃く出た鮮やかな色彩は同じ。兄妹らしくパーツもさほど変わらないのに、与える印象がこうも違うのは、ズバリ、目付きの悪さ。
……何なのかしら、この違いは。
同じ母から生まれた兄弟ですのにっ。私だけキリッとした鋭い目つきで生まれてきてしまった為に、たった十七歳で威圧感に溢れた迫力ある容貌に……お兄様達だけずるいですわっ。
整った甘いマスクで、腹黒さを覆い隠していらっしゃるところなど、特にね!




