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第10話 遁走



「……王子たるもの、そう易々と意見を変えるものではありませんわ。それに殿下も仰られたように、神竜様は心の正しい正直なものには、大層お優しい方。 敬う心は必要ですが、過剰にご遠慮なさる必要はないのではありませんか? 身の潔白を証明するにはこれ以上ない方法なのですし……」


「それは、その通りだが……」


 アンドレアの言葉に、第一王子の心がまたしても揺れるのが見える。


 真実の愛を誓ったユーミリアの無実を証明出来る、絶好の機会だと分かっているが、繊細な彼女の精神がこの試練に耐えられるかどうかと思い悩んでいるようだ。




「……但し、虚偽は大嫌いなお方ですから、万が一、騙そうとされた場合には先程申し上げた通りの、それはもう恐ろしい裁きを受けることになりますけれど……?」


「ひいぃぃぃっ、いやぁっ。ま、まだ死にたくないっ。わ、私もう帰りますっ」


 あらあら、『悪い子は神竜様が食べてしまわれるよ』と言うのは、この国で子供のしつけによく使われる言葉なのですが、彼女は直接お会いしている分、効果があったようですわね。


「ユーミリア嬢!?」


「卑怯だぞ、アンドレア嬢。そんな言葉で彼女を怯えさせるなっ」


「そうですよっ。純真で心の綺麗なユーミリア嬢に、神竜様の裁きが下る筈が無いのにっ。貴女はどれだけ彼女を疑い、傷つければ気が済むんです!?」


「ユーミリア嬢。追い詰められた悪女の脅しの言葉になど聞かなくていいからっ」


「大丈夫だから落ち着いて。私達が彼女から貴女を守ってあげるから。可哀想に、こんなに震えて……」


 取り巻きの青年達は、口々にそう非難し、怯える彼女の視界からアンドレアを遮るように取り囲み、落ち着かせようとする。


 しかし、恐怖に駆られた彼女には、彼らの慰める言葉が耳に入っていないようだ。




「……こんなはずじゃなかったのにっ……。もう嫌だ……」


 下を向いて何やらブツブツ呟いていたと思ったら、キッと顔を上げてこう宣言した。


「えええっと……あのっ、そ、そうだっ。わ、私、貴女から嘘つきだと決めつけられて、とっても傷ついちゃって、あまりの理不尽さに衝撃を受けたんです。それで、急に気分が優れなくなっちゃいましたの! 神竜様の真偽の審判を受けられないのはとっても残念ですけど、権力を笠に着て、か弱い女の子をこんな酷い状態に追い込んだ、貴女が悪いんですからねっ。では失礼しますっ」


「えっ!?」


「あっ、ちょっ、ユ、ユーミリア嬢!?」


 一方的に宣言すると、さっさと身を翻す。


 王子を初めとした取り巻き達を置いてきぼりにし、成り行きを見守っていた貴族たちを掻き分け、脱兎のごとく駆け出していった……。




「ユ、ユーミリア、待ちなさいっ。そんなに走っては危ない」


「追いかけようっ。彼女を一人にするな! 早く守ってあげないと!」


「……っ! そうですねっ。彼女を虐げる不愉快な女のいる場所に、これ以上留まる必要はないですし。行きましょう!」


「あ、ああ。分かったっ」


 あまりの展開に暫し呆然としていた取り巻きの青年貴族達は、はっと我に返ると、すぐに彼女の後を追って舞踏会の会場から出て行ったのだった……。






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