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「何よあなた?その手をはなしなさいよ!」
「私はクレイ様の妻です!あなたの方がはなしてください」
「ふ、フロー」
「ああ、あなたがクレイ様から十年も放っておかれたっていう人ね。ふーん……」
そう言いながらアイラ王女は、私のことを品定めするかのような視線で見ている。そしてある一点を見て鼻で笑った。
「ふふっ。そんな貧相な身体だから放置されるのよ」
アイラ王女には、私にはない膨らみが激しく存在を主張している。
「うっ……」
まさかここで的確にコンプレックスを突かれるとは思っていなかった。思わず言葉に詰まってしまう。
「それにそんなものをつけているくらいだから、よっぽどお顔も残念なんでしょうね」
「なっ!」
たしかにアイラ王女は、私なんかと比べ物にならないほどの美人だ。だけどこんな人を馬鹿にするような人が、一国の王女だなんて信じられない。
「アイラ王女!私の妻に何て失礼なことを」
「おやおや、ペンゼルトン公爵。あなたの妻はまもなくアイラ様になるのです。妻には優しく接しないとダメですぞ?」
クレイ様が私を庇おうと言葉を言い掛けたその時、後ろから声が聞こえてきた。
「……ヴィード侯爵。これは一体どういうことだ」
「!」
(この人が私たち家族を……)
名前は知っていたが、姿を見るのは初めてだ。私はグッと手を握りしめた。
「はて。どういうこととは一体なんのことでしょう?」
「しらばっくれるな。なぜアイラ王女がここにいるんだ」
「なぜって、それはアイラ様が聖女だからに決まっているからじゃないですか」
「だが王女はこの国の人間では」
「この美しく輝く銀の髪が君には見えないのかい?」
「それは」
「まぁ今から聖女の力を目の当たりにすることになるさ。……さぁアイラ様、あなたのそのすばらしい力を皆に披露してさしあげましょう」
ヴィード侯爵がアイラ王女に手を差し出すと、王女は渋々侯爵の手を取った。
「……はぁ、仕方ないわね。クレイ様。もう少しだけ待っていてね。侯爵、さっさと終わらせるわよ」
「ええ。参りましょう」
そのまま二人は何事もなかったように、王太子殿下のもとへと歩いていった。




