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召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~  作者: さとう
第九章

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誓いのBe The One

 『完全侵食(エヴォリューション)』とは、寄生型召喚獣がその全能力を解放。宿主の身体を媒介に、召喚獣が究極の力を行使することである。

 寄生型召喚獣。本来、寄生型召喚獣というカテゴリはない。

 召喚獣は、『人の世界』で死ぬと肉体は滅び、魂は『召喚獣の世界』へ帰る。


 だが、ここに例外が存在する。

 召喚士が死ぬと、ヒトの魂は消滅する。だが、ヒトの魂が消滅する前に、召喚獣の魂が混ざりあうことで爆発的な生命力へと変換される。すると、召喚獣は姿を変える。

 意志は消え、召喚獣としては死ぬ。だが、新たな姿となり名前も変わり、普通の召喚獣とは一線を画す戦闘力を有する。それが寄生型召喚獣である。


 だが、本来召喚獣はヒトに対してそこまで命を賭けない。ヒトが死んでも召喚獣は『召喚獣の世界』へ帰り、再び召喚されるのを待てばいいのだ。

 召喚獣は、無限の存在。死ぬことはないし、老いることもない。

 どんなに召喚士が愛を注ごうと、召喚獣にとってはほんの一瞬の時間に過ぎないのだ。だから、命を賭けてまで、短い人生しか送らない人間を助けるなんて思わない。


 寄生型召喚獣は、例外中の例外。

 真に絆を深め合っても、覚醒することはない。

 それに、召喚獣から見ても、命を投げ出すなんて馬鹿のすることだ。そう思われていた。

  

 でも、召喚獣ですら知らない境地がある。

 完全侵食は、ヒトの魂が混じり合った意思なき召喚獣が、その力を解放した姿。だが……もし、もしも、その召喚獣に意志が残っていたら?

 召喚獣の王ジャガーノートの意志が、寄生型召喚獣となっても残っていたら?

 

 召喚獣は、ヒトの力があって初めてこの世界に現れる。

 召喚獣だけの力は、本当の力とは呼べない。

 だが……ヒトの力が合わされば?

 

 もしも、進化した召喚獣に侵食されただけの姿に先があれば?

 きっとそれは、人と寄生型召喚獣の『絆』が生み出した姿だろう。

 始まりの寄生型である、ニュクス・アースガルズでさえ知らない姿だ。


 アルフェンは、完全侵食を解除。

 人の姿で、静かに目を閉じていた。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 そこは、リグヴェータ家の裏庭。

 晴れ渡る青空。心地よい風。柔らかな草木の匂い。

 アルフェンは、目の前にある畑の傍にしゃがみ込んだ。


「モグ」

『もぐ!』


 そこに、可愛らしい一匹のモグラが、地面から現れた。

 そっと手を伸ばすと、モグは鼻先を近づけクンクン嗅ぎ、嬉しそうに手に乗った。

 アルフェンは、モグを抱きしめる。


「モグ───やっぱり柔らかいな」


 モグは鼻をスピスピさせ、にっこり笑う。


『アルフェン。私は……お前に抱きしめてもらうのが、大好きだ』

「うん……」

『このぬくもり、私はずっと忘れない……ずっと』

「うん……俺も」

『アルフェン。ドレッドノートを止めてくれ……いや、止めよう。この世界を守るために』

「ああ。俺たちの大事なものを、守るために」


 アルフェンは、モグを抱きしめたまま座った。

 柔らかなぬくもりを、身体と心に刻み付けるように抱きしめる。


『心を一つに』

「魂を一つに」

『我が名はジャガーノート。召喚獣の王』

「俺はアルフェン・リグヴェータ。ちっぽけな、ただの人間」

『今、ここに』

「俺とジャガーノートは、一つになる」


 モグの姿が、静かに薄れていく。

 ぬくもりが、徐々に消えていく。

 でも、寂しくない。

 モグは、ジャガーノートは……ここにいる。


「『究極合身(ビー・ザ・ワン)』」


 ◇◇◇◇◇◇


 それは、変化だった。

 アルフェンは上着を投げ捨て、上半身裸になる。すると、赤い帯のような細い管が刺青のように全身を駆け巡り、右腕だけジャガーノートの腕になった。

 通常の腕ではない。どこかスタイリッシュな右腕だ。

 魔獣のような禍々しさのない、ヒトの姿とジャガーノートの姿、その中間だ。


『……なに、これ?』


 ドレッドノートは、アルフェンの姿に首を傾げた。

 完全侵食でもない、通常の変化でもない、どこか中途半端な姿。

 アルフェンは、両目とも黄金に輝いていた。

 その眼が、ドレッドノートを射抜く。


「終わらせるぞ、ドレッドノート。お前をニュクスから引き剥がして、あっちの世界に送り返してやる」

『へぇ~? そんな半端な姿で戦うつもり?』


 ドレッドノートの左手が巨大化、拳となり飛んできた。

 ニュクスの時よりも速い。だが、アルフェンの表情は変わらなかった。

 右手を軽く前に突き出し、ドレッドノートの左手を受け止めたのだ。


『なっ!?』

「……無駄だ。今の俺は、お前より強い」


 ドレッドノートの左手を軽く払い、漆黒の右腕を開いた。


「『ジャガーノート・最終獣王形態キング・オブ・フレンズ・アーヴァロン』……これが、俺とジャガーノートの最終形態。人と召喚獣が交わった、究極の姿だ!!」


 アルフェンは叫び、ドレッドノートに向かって走り出した。


 ◇◇◇◇◇◇


「だぁぁァァァァァァッ!!」

『───ッ!!』


 アルフェンは、ドレッドノートに向かって全力で走り出した。

 全身に刻まれた刺青のような文様が真っ赤に輝き、漆黒の右腕がギリギリと握り締められる。

 ドレッドノートは、アルフェンに向かって『ギロチン』を飛ばした。

 背中から生えているギロチンは、アルフェンを両断せんと襲い掛かる。


「邪魔だぁ!!」

『なっ!?』


 だが、アルフェンは右手を振りギロチンを弾き飛ばす。

 さらに、槌が上空から落ちてくるが殴り返し、球体が飛んでくるが蹴り飛ばす。そして、五十二枚のカードが飛んでくるが全て両手で叩き落した。

 身体能力が、生身やジャガーノート態の比ではない。

 アルフェンは、拳を握りドレッドノートの目の前に来た。


「まずは一発!!」

『ぬっ……!?』


 アルフェンの右拳が、ドレッドノートの心臓を狙って放たれた。

 だが、ドレッドノートは両手を交差させてブロックする……その衝撃で、ドレッドノートの身体が浮き、弾かれる。

 アルフェンは追撃するためにさらに接近。両拳、連蹴りのコンボを繰り出す。


『こ、の、ガキッ!!』

「だらぁぁァァァァァァッ!!」


 アルフェンの連続攻撃。

 あまりの手数に、ドレッドノートは反撃できない。

 『我儘な女王(ローズハート)』を使おうと集中するが───。


「おぅらぁっ!!」

『ぎっ……!?』

「っしゃぁぁぁぁっ!!」


 沈み込んでからの突き上げフックが、ドレッドノートの十字受けを弾き飛ばす。そこからボディに一撃入れ、顔面に強烈なストレートが入る。


『ブガッ!?』

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 止まらない───。

 『我儘な女王(ローズハート)』を使うには、ある程度の集中が必要だ。だが、今のアルフェンは止まる気配がない。

 寄生型召喚獣との完全融合。肉体に侵食するのではなく、互いに理解しあった上での完全な同化。これが『完全侵食(エヴォリューション)』の先にある召喚士の最終到達系。

 『究極合身(ビー・ザ・ワン)』───恐らく、召喚獣の王ジャガーノートと、ジャガーノートを真に理解した存在であるアルフェンにしか発現不可能な力。

 一撃一撃に『硬化』と『終焉世界』が付与されており、ドレッドノート以外の召喚獣が受けたらまず一撃で即死だろう。


『これが、ジャガーノート───ッ!!』

「ジャガーノートだけじゃねぇ!! 俺も一緒だぁぁァァァァァァ!!」


 アルフェンの連続攻撃は、止まる気配がない。


 ◇◇◇◇◇◇


 アルフェンとドレッドノートの最終決戦が始まる少し前。

 フェニアたちは、メルを除いた全員がそろった。


「まったく。心配してたのに、一人で煙草吸いながらお酒飲んでるなんてね」

「……別にいいじゃねぇか」

「駄目に決まってるでしょ!! みんな一生懸命戦ってるのに!!」


 ウィルは、アネルに叱られていた。

 帽子を押さえそっぽ向く姿はどこか微笑ましい。

 フェニアは、サフィーにヒソヒソ言う。


「すっかり尻に敷かれてるわね」

「ふふ。二人ともすっごく仲良し……ううん、お似合いですね」

「そうね。ふひひ、ウィルをしばらくからかえそう」

「おい、聞こえてんぞ。そこの痴女」

「は? はぁ? 誰が痴女よ誰が!!」


 現在。フェニアは身体にシーツを巻いているだけの状態だ。

 『融合』で服が消滅したので、空き家にあったシーツをドレスのように巻いている。着替えなど準備していないし、仕方ない。痴女のようだと言われ、フェニアは恥ずかしくなった。

 すると、アネルがウィルの頭を叩く。


「っだ!? な、なにしやがる……」

「あんまり見ちゃ駄目!! まったく、スケベなんだから」

「は、ガキの身体に興味ねぇよ。それに、あの馬鹿の嫁に手ぇ出すほど飢えちゃいねぇ」

「よ、嫁……うふふ。嫁だって、嫁」

「むー……フェニア、ずるいです」

「ガキの身体って、二歳しか違わないのよ!! まったく、ウィルのスケベ……」


 なぜかアネルはそっぽ向く。

 すると、アネルの足に赤毛のもふっとしたトラが身体を擦りつけてきた。


『おい。こんなところで話してていいのか? あいつのところ行くんだろ』

「そ、そうだった!! フェニア、サフィー、アルフェンのところに行かないと!!」


 赤いトラことレイヴィニアを抱き上げるアネル。

 傍に、突っ伏して寝ているナマケモノことニスロクもいた。フェニアが抱き上げる。


「はぁ~モフい。レイヴィニア、アルフェンの居場所、わかる?」

『ああ。あっちから匂いする!!』


 レイヴィニアは、前足を遥か前方へ向ける。

 ウィル、アネル、フェニア、サフィー、レイヴィニア、ニスロク。誰も欠けることなく、この最終決戦を生き抜いてきた。

 そして最後。アルフェンが戦っている。


「行こう!! アルフェンのところへ!!」


 フェニアがそう叫び、走り出す。

 S級召喚士たちは、アルフェンの元へ向かう。

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