魔帝と魔人
ニュクスは、ベッドの上で全裸で胡坐をかき、左腕を閉じたり開いたりしていた。
純白の髪は櫛も通してないのに真っ直ぐで、青く透き通った瞳はとても美しい。
全体的なスタイルは細身だ。本人は「胸がもっと欲しかった」と言っているが、十分な大きさであり形も美しい。
そして───ニュクスは、左腕を巨大化させる。
「───……うん、いい。これで完成かな」
寄生型召喚獣『ドレッドノート』は、完全に適合した。
アルフェンの右腕とは違い、全体的に角ばっている。純白の甲殻に包まれた腕には青く光る血管のようなラインが光り、禍々しさというより神々しさを感じさせた。
ニュクスはベッドから降り、左腕を元に戻す。
脱ぎ捨てた下着、服を着直し、髪の毛を適当に縛る。
肉体年齢は十五歳ほど。かつて世界を滅ぼしかけた魔帝ニュクス・アースガルズは、大きな欠伸をして部屋を出た。
「お腹減ったなぁ……」
この『ひみつ基地』は、ベルゼブブがニュクスを匿うために作りだした特殊な空間だ。
ニュクスがいたのは寝室。そして、魔人たちの部屋とキッチン、浴室など、生活に必要な部屋は一通り揃っている。
ニュクスが向かったのは、キッチンだった。
「ベルゼブブ、アポー、いる?」
そこにいたのは、『強欲』の魔人ベルゼブブ、ニュクスが名を付けた『大罪』の魔人アポカリプスがいた。
二人はエプロンを身に着け、調理の真っ最中だ。
ニュクスが現れると同時に跪く。
「「ご主人様」」
「あーいいって、いちいち跪くの面倒っしょ? それより、ごはんー」
「はい。すぐに準備ができますので」
ベルゼブブはにっこり笑い、アポカリプスと目を合わせ頷く。
ベルゼブブはエプロンを外し、ニュクスをダイニングルームへ案内した。
「アポ、どう?」
「なかなかですね。飲み込みも早く従順です」
「ん、そういう風に作ったからね。たぶん戦闘能力はもっとすごいよ。ベルゼブブじゃ勝てないと思う」
「なるほど。それは頼もしい」
「ありゃ? 悔しくないの?」
「ええ。私にとって強さは競うものではなく、主をお守するためのもの」
「ふーん」
ニュクスは興味ないのか、ダイニングルームに到着すると席に座った。
そして、アポカリプスが食事を乗せたカートを押して入ってきた……が、その食事量があり得ない量だ。
ざっと、百人前。
ニュクスはじゅるりとヨダレを垂らし……さっそく目の前にあるステーキにかぶりついた。
◇◇◇◇◇◇
「あぁ~……おなかいっぱい!」
食後のお茶を飲みながら、ニュクスはお腹をさすった。
百人前を完食しご満悦のようだ。
ベルゼブブもご満悦だった。
「完全に回復されましたね」
「うん。あ、あと何日かな~?」
「あと四十日です」
「そっか。はぁ~……ちょっと長く見積もりすぎたかな」
ニュクスが言い残した期限まで、残り四十日。
完全に復活した今、その約束を守る理由はない。だが、ニュクスはそうしなかった。
「ま、約束は大事だからね……」
「……」
「……?」
アポカリプスは、軽く首を傾げていた。
そして、ニュクスは立ち上がる。
「お風呂入る。んで、寝る」
「かしこまりました。アポカリプス、支度を」
「はっ」
ニュクスは待つ。
来るべき戦いの日は近い。
湯船に浸かりながら、そっと左目を押さえる。
「ジャガーノート……ふふ、楽しみ」
漆黒の右腕を持つ少年を想いながら、ニュクスは湯船の中に沈んでいく。




