052 新事実
南東の都市で暮らしていた頃にセックスした兵士が、最近淫獣に犯されて男でイケなくなったことで予想されていたけれど、聖人の精液に予防効果はないことが確認された。
ソーセス潜入の前に膣内射精した諜報員の1人が先日、ソーセスを脱出してこの基地に帰って来た。
その女は、任務の過程で淫獣とヤらざるを得ない状況になり、ソーセス郊外の家でまぐわったそう。その後、ソーセスに残っている男の何人かと関係を持ったけれど、イケなくなっていたらしい。
本当なら、報告も暗号通信で行うだけらしいけど、そんな事情で彼女はソーセスから戻って来た。
そして今、ベッドでボクと交わっている。
予防セックス(効果はなかったけれど)を行なった時と同じく、部屋には2人だけ。諜報員として、姿を晒す人数を抑えているんだろうな。
淫獣に犯されて性欲のおかしくなった女は、こうしてボクとセックスすることで元に戻すことができる。だけど、方法がそれしかないっていうことが難点。いくらボクが絶倫でも、ボクの身一つでは1日に相手をできる女の数なんてたかが知れている。淫獣は、ウェリス大陸に来ているだけでも何十万といるのだから、それが街や村を襲ってその住民を犯しまくったら、ボク1人では手に負えない。あ、ソーセス都市内はすでにそういう状況かも知れない。
でも今は、まだそこまで数が多くないから、こうしてボク1人でも対処できる。
「あっ、あっ、ああたあああああああっ」
何度も絶頂に達していた女は、ボクの5射目で一番大きい声で喘いだ。
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傷を治す治療セックスの要請はここのところないけれど、性欲を元に戻す治癒セックスの要請は時々ある。任務で基地の外に行く兵士が時々淫獣に犯される状況は続いている。以前と違って淫獣の数が違うから、それも致し方ない。
民間人の治癒セックスは、先日の遺跡街が襲われた件を除けばまったくない。軍が淫獣を上手く防いでいるのか、それとも犯された女は自らソーセスに行ってしまうのか……ボクには判断する術がない。
詳しい状況を与えられず、モヤモヤした気持ちのまま日々の生活を送っている時、また軍部から呼び出しがあった。
今度も治癒セックスかな、と思いつつも指定された時間に軍本部に向かうと、広い会議室に通された。今日は別の用件らしい。
ボクが会議室に通された時、すでに軍司令や参謀長だけでなく、臨時政府の高官も2人いた。他には聖人調査室のヘルミナさんとハイダ様。
ハイダ様はちょっと渋い顔をしている。ボクが来る前に、すでに何か話し合われていたみたい。
ボクがハイダ様の隣の空いている席に座ると、司令が前置きもなしに話し出した。
「ソーセスと淫獣に関する状況が、ここへ来て変わる気配を見せている。事は聖人に大きく関わるため、先ずはこの少人数だけで方向性を決めたい」
ボクはごくりと唾を呑み込んだ。何があったんだろう?
「最初に、政府から東の都市と南の都市に関する状況の報告がある」
そう言った司令が視線で政府高官を促すと、彼女は一つ頷いて話し出した。
なんでも、エスタやソウトの都市圏の小さい村落で、数人から十数人の女が従仕と共に消える事例が出ているらしい。それを聞いた時、かつてソーセス都市圏で起きていた“神隠し”の話を思い出した。今ではそれは淫獣に攫われたことが判明しているけれど、従仕、男も一緒とはどういうことだろう。
話の続きを聞くと、ソーセスの政府や軍では、彼女たちは自らの意思で南東の都市へ向かったと考えているらしい。そういう人々を防ぐことも目的として軍は防衛線を張っているけれど、防衛ラインが長すぎて穴だらけだから、捕捉できないんだろう。
それでも、消えた女たちの数を考えると、まったく捕捉できないとは考えにくいらしく、現在、ソーセスへの潜入経路を調べているそうだ。
もう一つ、エスタ、ソウトの両都市から、淫獣に犯された女たちの性欲を元に戻す方法を求められているのだそう。
エスタもソウトも、エタニア人に占拠されたソーセスの情報を得るために諜報員を送り込んでいて、その任務の一つに『淫獣とヤると男とのセックスに満足できなくなる』ことの事実確認、というのがあるらしく、何人か淫獣とセックスして来たらしい。
彼女たちはソーセスから帰って来たけれど、そのあと欲求不満が募ってしまい、このままでは任務に支障をきたすのも時間の問題らしい。
ボクに言わせてもらえば自業自得と思うけれど(そしてソーセス軍や政府も同じ考えらしいけれど)、その対策をソーセスは知っているのではないか、と突つかれているそうだ。
ボクとセックスすればいいだけだから、対策は簡単だけれど、それを知らせることでエタニア人だけでなく、両都市政府が本格的にボクの確保に乗り出す可能性が高く、ソーセスの政府と軍は知らぬ存ぜぬで通すそうだ。
エスタとソウトに、淫獣に襲われた女が何人いるか知らないけれど、人数によっては、ボクが毎日朝から晩まで腰を振っても間に合わない可能性があるもんね。
それだけヤりまくったら、いくらボクが絶倫でも体力が保つとは思えないし、ソーセス臨時政府としても、それは避けたいだろう。
凍結したボクの精液を注入して効果があるなら対応できるかも知れないけれど、生憎と、治癒セックスは本当にセックスしないと効果がないことは判っているし。
「以上が、ソーセスおよびエタニア人を巡る、エスタとソウトの状況だ。これを放置すると、エタニア人、ひいては淫獣の勢力圏が広がることになる。しかし、これに対抗する十分なリソースが残念ながら我々にはない。
ここでもう一つ、新たに判明した事実を聖人調査室室長から報告願う」
司令に指名されたヘルミナさんは、一つ咳払いをしてから徐に口を開いた。
「ソーセスが陥落してからずっと、ウェリス大陸の各都市で発掘された先文明の史料を可能な限り集めて調べていました。その結果、北の都市都市圏の遺跡で発見された史料を解読した結果が、これになります」
ヘルミナさんは、テーブル中央の空間に資料を投影して話し出した。その内容は、驚くべき物……とまでは言えないけれど、エタニア人の、聖女スカーレットの主張を覆す物だった。
「……これ、事実なんですか?」
ヘルミナさんが説明を終えてから一拍待って、ボクは聞いた。
「正直、判らないわね。けれど、エタニア人の主張よりは正鵠を射ているはずよ」
「その根拠は?」
ヘルミナさんに言ったのは、ボクではなく参謀長。ヘルミナさんは彼女に向き直って説明した。
「これは遺跡から発掘された先文明の史料を解読したものになります。解釈の誤りも多少はあるでしょうが、しかし、エタニア人の主張は憶測に過ぎません」
「史料についてはそうでしょう。けれど、彼女らの主張が憶測に過ぎないという理由は?」
今度は、政府高官の1人が聞いた。
「それは、彼女らに囚われた聖人の発言からです。セリエス、エタニア人たちは雌雄交換の根拠を何と説明していたかしら」
突然、ボクに話が振られた。ちょっと慌てつつも、言葉を紡ぐ。
「ええっと、近年、ウェリス人もエタニア人も、女男の出生比率のバランスが崩れている。それは女と男が入れ替わっているからだ、って」
「女男の出生比率など、食生活の変化で簡単に変わります。数世代の時間はかかりますが。そんな、変化しやすい状況だけを理由に、二つの種族の雌雄が入れ替わっているなど、荒唐無稽もいいところでしょう」
「けれど、聖人に言わなかっただけで彼女たちも我々の知らない史料を持っているかも知れないわよ?」
もう1人の政府高官が言った。
「その可能性は否定できませんが、彼女らにそれほど史料はないでしょう。先日の遺跡街の襲撃、あれは新しい史料を入手するとともに、それが自分たちにとって都合の悪いものであれば握り潰すためと考えます」
なるほど。そういうふうにも考えられるのか。
その後も新事実についていくつか話し合った後、司令がまとめるように口を開いた。
「以上の状況及び新事実から、エタニア人のこれ以上の勢力拡大を許す前に、ソーセス内に聖人セリエスを秘密裏に潜り込ませ、聖女との性関係を持ってもらうことを前提に、今後の作戦を検討する」
「私は反対です」
司令の言葉が終わるか終わらないかの内に、ボクの隣のハイダ様が立ち上がって言った。
そうか、ボクが来る前にこのことを話していたのか。
==用語解説==
■ノルス
ウェリス大陸の北側にある巨大都市。
※North




