049 集団治療終了
ボクがもう1つの基地に来て3日目、治療セックス2日目のこと、ソーセス臨時政府からウェリス大陸の全都市に向けて声明が発表された。内容は、エタニア人によって遺跡街が襲われ、女たちが淫獣に無理矢理犯されたこと。ソーセスに留まることなく、外部で無理に女と淫獣の交接を行なっていることから、エタニア人の主張を丸呑みすることは危険であり、ソーセスを出来るだけ速やかにウェリス人の手に取り戻す必要があることを訴える内容だった。
その翌日には、エタニア人がまたもや各都市の放送を一時的に乗っ取って、それに対する反論演説が行われたらしい。『らしい』というのは、相変わらずソーセス都市圏にはソーセスからの放送が届かないから、人伝てに聞いただけなので。
ほかの都市と都市圏では、最初のように何時間もとはいかないけれど、10分ほど乗っ取られたそう。セキュリティは強化しているだろうに電波ジャックされるということは、やっぱり内通者がいるんだろうな。内通者というか、工作員かな。モレノさんのような触手を切除した牝が入り込んでいるんだと思う。
各都市の通信セキュリティのことはそれとして、エタニア人の主張では、あの行動は単なる遺跡調査ということらしい。
ソーセス臨時政府・ソーセス軍の管理下にあることから、戦力としての淫獣を率いて行った。その結果、現地のソーセス軍と衝突、止む無く戦闘になった。
……ということらしいのだけれど、ボクが聞いても無理がある。だいたい、調査の護衛なら女を犯す理由がない。1人2人ならともかく、23人も犯された上、孕まされているんだから。遺跡の調査が嘘だとは言わないけれど、女を堕とすことも目的の1つだったはず。
エタニア人の電波ジャックが行われたその日の内に、ソーセス臨時政府はボクでも思いついたことを理由にして、エタニア人の主張には信を置けないこと、困窮する難民の生活を回復するために、然るべく速やかに南東の都市奪還の必要があることを、各都市に訴えた。
こういう訴えを打つということは、他の都市は未だにソーセスに積極的な協力をしていないということだろう。ソーセスの軍事力だけでは何十万もの淫獣に対抗しうるとは、とても思えない。それなのに他の都市の協力を得られないとなったら、南東の都市奪還は困難を極めるだろう。
ボクにも何かできないかな。ただの男だったらできることはないけれど、ボクは聖人なんだから、何かしらできることもあるんじゃなかろうか。今でも、治療セックスで協力してはいるけれど、もっと他にも。
そうは言っても、そうそう思い付かないし。淫獣の生態研究を進めながら、何か攻略のヒントになりそうなことを探すくらいしかできないかな。
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治療セックス最終日の6人目、つまり最後の相手は、ボクよりも若い女だった。ダリアンと同じくらいかな? 女にしては小柄──と言っても、ボクより拳1つ分くらいは高い──で、亜麻色のショートヘア。ちょっと自信なさそうに見えるのは、淫獣に犯された嫌悪感から……は、今までの女を見る限り、妊娠していなければないと思うのだけれど。
「あ、あの、よろしくお願い、します」
「任せてください。淫獣の影響を全部塗り替えますから」
おどおどと言う女を安心させるように、ボクは頷いた。
けれど、女の態度はそういうことではなかったみたい。
「あ、あの、違うんです」
「違うって?」
「そ、その……ちょっと、いいですか?」
女はベッドの周りに視線を送ってから、手を口に翳した。何やら、見守る医師たちに内緒で何かを伝えたいらしい。
ボクは頷いて耳を差し出した。
「あの、その、あたし、男の人との経験、なくて」
え? ボクは耳を疑った。表情に出さないように苦労する。
大抵の女は、10歳前後で身近な男を誘って性体験を済ませてしまう。何しろ、女男の出生比率はだいたい1:3だから、女からすれば相手は選り取り見取りだ。ヤりたくなったら、相手に困ることはそんなにない。20歳前後まで処女でいる女は珍しいと思う。
そして、それはつまり、この女は処女を淫獣に奪われたということでもある。男との快楽を知る前に淫獣の触手で身体中を睨め回されて、どんな気持ちだったろう。聖人がいなかったら、男との快楽を一生味わうこともなく、淫獣がいなければ欲求不満のまま生活を続けることになっただろう。
「大丈夫です。ボクが聖人として経験を重ねていますから」
彼女の耳に囁いて肩を抱き、そっと唇を重ねる。
正直な話、ボクの処女との体験は非常に少ない。姉が我慢できなくなって襲われた時と、妹が我慢できなくなって襲われた時、その2回だけじゃないかな。
ハイダ様に仕えるまでは何人もの女と肉体関係を持ったけれど、処女はいなかった、と思う。相手が黙っていたら、判らないけれど。
それより今は、この女だ。処女相手にどう責めればいいか解らないけれど(姉と妹には責められたし)、普通にボクが上位になるつもりでヤればいいかな。
キスをしたまま肩に掛けた手に力を込める。その気になればボクなんか簡単に払い除けられるだろう女は、ボクに抗うことなくベッドに横になった。
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無事に全員の治療セックスが終わった。数日は経過観察をするのだけれど、これまでの例から見ても何も問題はないだろうということで、明日の朝にはここを発つことになっている。
ここからだと、アルクスたちの落ち着いている街にも近い(と言ったって、300~400キロは離れているけれど)から、可能ならば会っていきたいところだけれど、無理は言えない。
ソーセスに住んでいた頃の状況ならともかく、今は、ボクはエタニア人に指名手配されているようなものだから。
軍が警戒しているのは、エタニア人よりも東の都市や南の都市の人々だと、何度も注意されてきたけれど、それもどうなのかな。今までに一度もそれっぽい接触もないし。それとも、ボクに知らされていないだけで、護衛をしてくれている諜報員たちが排除してくれているのかな。
ただ、今回のことで聖人の能力の一端──淫獣に犯され男でイケなくなった女を元に戻す──は勘付かれたのではないか、と思う。ソーセス暫定政府の発表に聖人の能力は含まれていなかったけれど、淫獣に犯された女が男との性交で感じられなくなることはすでに公表しているのに、今回の発表での広報官の態度はその懸念を感じさせなかったから。聖人のことは抜きにしても、『ソーセスは、暴走した女の性欲を元に戻す手段を持っている』くらいには、気付いた人もいるんじゃないかな。
こうなってくると、ボクの行動制限も余計にきつくなってくるかな。早いところ、ソーセスを奪還できるといいのだけれど。
「今回は遠方まで御足労戴き、ありがとうございました」
この基地の司令官、南東の都市では副司令を務めていた女が、ボクに頭を下げた。あっちの基地で見ることがないと思ったら、こっちを取りまとめていたんだね。
「いえ、気にしないでください。聖人としての仕事を全うしているだけですから。これからもボクにできることがあれば何でも言ってください」
ソーセス奪還のために他にもできることがあればいいのだけれど、今のボクは腰を振るしかできることがない。淫獣の生態調査も続けているけれど、ソーセス奪還の役に立つとも思えないし。
「そう言って戴けると助かります。この先も状況がどう転ぶか判らないままなので」
そうは言っているけれど、何かしら計画はあるんだろうな。軍に協力している立場とはいえ、厳密には部外者であるボクには言えないことも、色々とあるだろう。
「本来なら、今夜くらいは食事に同席して戴くところですが、生憎と仕事が立て込んでいて満足な持て成しも出来ず、申し訳ありません」
「いえ、気にしないでください。会食は、ソーセスを奪還できた時にでも」
「そうできるよう、誠心誠意、努めます」
ボクは副司令と握手をしてから退出した。
これで、ここでの仕事は終わりだね。明日の夜にはハイダ様と一緒だ。




