048 集団治療
ハイダ様がボク以外の3人の従仕と息子に会いに行っている日。ボクは研究室の自分の部屋でドローンの映像を見ていた。
淫獣といえば、女と見れば犯し、男と見れば殺す、それも本能的に、と思っていた。以前から、ソーセス近隣の村や集落からの報告を見ていたからかも知れない。
けれど、大侵攻以降の淫獣はそこまで見境いがないわけでもなさそう。男とは出合わないようにしているようで情報がないけれど、少ないソーセス郊外の現在の映像を見ると、女が淫獣の傍に寄っても触手をゆったりと女に向けて伸ばすくらいで、襲い掛かりはしないことが多い。
それに、エタニア大陸でも淫獣と牝が同じ場所に暮らしていたけれど、常にまぐわっているわけではなかった。ボクに対しても、問答無用で襲いはしなかったし。
男に対して、と言うか、ボクに対しては牝に言い聞かされて理性で我慢していたんだと思うけど、女に対しては自制が効くらしい。
かつて、ウェリス大陸に来た淫獣の見境いがなかったのは、エタニア大陸からウェリス大陸まで、禁欲状態で旅をして来たからこそだろう。ボクも聖人認定される前は、ハイダ様が長期任務で家を離れていると、ヤりたくて堪らなくなっていたし。
淫獣の男に対する攻撃性も欲求不満によるものかも知れないけれど、これはサンプルが少なすぎて解らない。少ないというか、ない。
淫獣に攻め入られてからこっち、淫獣はソーセスの都市部から遠ざけられ、逆に男は都市の内側に押し込められているから、そもそも接触がないんだよね。誰かを実験台にするわけにもいかないし。
ソーセスの郊外を観察できる地点に物見櫓でも建てて、そこから淫獣を直接観察できないものだろうか? ……無理だよなぁ。そんな危険な場所に行けるわけがない。淫獣にトレーサーを付けるのも無理だし、ドローンの空撮映像を見るしかないか。
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セルフブレスに通話の着信が来た。基地の外との通信は禁じられているだけでなく、どうやってだかボクだけ通信遮断されているから、基地内からだ。
通話を受けると、相手はヘルミナさんだった。
「セリエス、今は研究室?」
前置きもなしに、ヘルミナさんが言った。
「はい、そうです。あと1時間もしたら帰りますけど」
空間投影される画像の隅の時刻表示をチラリと見て、ボクは答えた。
「悪いけれど、至急軍本部に来て。入口に案内を送っておくから」
「はい、解りました」
ボクはヘルミナさんの部下というわけではないから断ることもできるけれど、必要もないのにボクを呼ぶわけがないから、彼女の要求に素直に応じた。断る理由もないし。
それに、ボクを呼び出すと言うことは聖人が必要な何かということで、今の状況では淫獣関係である可能性が一番高い。ソーセスを取り戻す協力ができるのなら、むしろこちらから協力を申し出たいくらい。
すぐに支度を整えて所長に早退する旨を連絡し、研究所を出た。
軍本部に行くと、ヘルミナさんの言った通り、守衛に一言話すだけですぐに案内の人に引き合わされた。えっとこの人、軍司令の秘書官じゃなかったっけ? 普段はこんな仕事をするような役職じゃないと思うのだけれど。それだけ、大変なことが起きたのかな。
彼女の後について行った部屋には、案の定と言うべきか、司令官と参謀長とヘルミナさん、それに数人の軍人がいた。
席に着くと早速、今回の呼び出しについて説明を受ける。なんでも、ソーセス近くの遺跡が淫獣の群れに襲われ、20人以上の発掘作業員や考古学者、それに警備の兵士までもが犯されたのだそう。
「遺跡の資源は貴重ですから、ソウト側基地からエクスペルアーマー一個小隊も派遣されていたのですが、30体以上の淫獣に加えエタニア人の軍用車輌も含まれていて、抗いようがなかったとのことです」
兵士の説明してくれる内容に、ボクは頷く。ここ以外にも、基地が造られていることを、ボクはここで初めて知った。
「それじゃ、ボクの仕事はその人たちの治療ですね?」
エタニア人の思惑は気になるけれど、それを考えるのは軍人たちに任せておくしかない。ならばボクのやることは、といえば、ヤられた女とヤることしか思いつかない。
「ええ、その通りよ。そのためセリエスには、明々後日にソウト側の基地に移動し、翌日から治療に当たって欲しい」
予想した通りの依頼が、参謀長から告げられた。
「それは構いませんけど、ボクが向こうに行くんですか? ボク、ここから出るのを制限されてますけど」
ボクは首を傾げた。
「今回は、人数が多いことと、こんなことがあったので兵士は治療後、極力速やかに現場復帰させる必要があるので、今回は例外とする」
ボクの疑問には、司令が答えてくれた。
確かに、20人以上となれば移動も大変かも知れない。ボク1人が移動した方がずっと早いだろう。護衛やらなんやかんやで、10人くらいでの移動になるだろうけど。
何はともあれ、ボクのもう1つの基地への出張が決まった。
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ボクの出張に、ハイダ様は護衛として名乗りを上げたけれど、それは軍上層部から却下された。ボクとしてもハイダ様に護られたら安心なんだけど、乙女戦士の数が限られていて、隊員たちの休暇のスケジュール調整すらてんやわんやだそうなので、仕方がない。主姐、従仕揃って諦めるほかなかった。
軍は、ボクの移動にかなりピリピリしていたようだけれど(それならやっぱり、患者(?)を呼べばいいのに……)、ボクを乗せたヴィークルは計画された時間通りにソウト側に建設された基地に入った。
到着した翌日から、早速ボクは腰を振り始めた。初日は5人、次の日からは6人ずつ3日間、合わせて4日で23人に5回ずつ膣内射精する。そこそこハードなスケジュールだけれど、ぼくは絶倫なので問題はない。
見守る医師や看護師は、こっちの医療センターに勤務している人たち。やっぱり、こっちでも見守られながらヤるのね。まあ、妊娠していたら処置も必要だし。
襲われた遺跡は、以前ボクが調査に同行した、新しい遺跡らしい。あの時から日が経って常駐する人数も増えたそうだけれど、それなのに23人しか犯されなかったのは、兵士たちが頑張ってくれたからだろう。
それにしても、エタニア人たちはどうして遺跡を襲ったのかな? しかも、南東の都市から近いとはいえ、ソーセス軍が張っている警戒ラインの外側の遺跡を。
警戒ラインの内側にも遺跡は2つあるし、そこなら軍の目を掻い潜る必要もない。
確かに、防衛ラインは長大で軍もすべてを封鎖できているわけじゃないから、外の遺跡に来ることも不可能ではない。けれど、防衛ラインを越えて来ると、軍の反撃は苛烈なものになる。実際、今回も淫獣は半数くらいが駆除されたようだし。
そんな命の危険を犯してまで、わざわざ遠くの遺跡に来たのは何故だろう? おまけに今回は、牝も一緒に来ていたらしいし。今までになかったことだと思う。
スカーレットの演説では、占拠したソーセスをウェリス人とエタニア人の、謂わば共同生活特区のようにして、徐々に両者を融合し、やがては雌雄を交換していく、と感じた。
でも、淫獣ばかりか牝までもがソーセスから出て来たということは、真の目的は別にあるのかも知れない。
或いは、遺跡から見つかる先文明の遺産が目的だったのか、そこから得られる情報をウェリス人に知られないようにすることが目的か。
……駄目だね。考えても仕方がない。こういうことは、軍や暫定政府が考えているはず。一介の研究者のボクが頭を捻ったところで、正解が出てくるわけがない。エタニア人の行動の分析は、専門家に任せておこう。ボクが考えても、時間の無駄遣いにしかならない。
ボクが今考えるべきは、明日の治療セックスのことだね。明日からは1人増えて1日に6人になるから、今日よりも負担が増えることになる。25回の射精が30回になるだけだから、そう変わらないけれど、体調は万全にしておかないとね。




