047 淫獣被害の拡大
淫獣の生態研究は、遅々として進まない。ドローンによる映像しかないし、淫獣が本来の生態に近いだろう生活をしているソーセス近郊の映像は少ないし。
それでも、以前のエクスペルアーマーに捉えられた映像しかないかつての状況と比べれば、雲泥の差だけれど。
それと、最近は時々、淫獣に襲われた兵士たちへの手当て──要はセックス──も依頼される。エクスペルアーマーを駆る乙女戦士にはその被害はないけれど、ヴィークルで淫獣の索敵に出ている兵士たちが、たまに襲われることがあるみたい。
それで判ったことが1つある。一度ボクとセックスしていても、淫獣に犯されると男では満足できないらしい。ボクが誘拐される以前に“治療”した兵士が、再び襲われたことで判明した。
ソーセス潜入の任に当たる諜報部員たちへのセックスは無意味だった……と思ったけれど、今回の兵士は前にセックスしてから長い時間が空いているから、完全に無意味かどうかは検証の必要があるみたい。
こんなとこがあると、全兵士と毎日セックスさせられる羽目になるかも……と不安になったけれど、そういう依頼は来なかった。最初から考慮されなかったか、もしくは、流石に無理だと判断されたのだろう。いくらボクが絶倫でも、毎日何十人もの女たちとセックスを重ねていたら、精も根も尽きてしまう。
淫獣に対抗するための新しい兵器も複数開発されているらしい。詳しいことは判らないけれど、開発は難航しているんじゃないかな。何しろ、ソーセス都市圏の工業力は、都市ソーセスがほとんどすべてを担っていたのに、そのソーセスを陥とされてしまったのだから、遅々として進まないんじゃないかと思う。ソーセスの次に大きいフロンテスも陥ちてしまったし。現在のソーセス都市圏の工業力は、本来の数パーセントでしかないと思う。
こんな状況なのだから、他の7つの都市、特に東の都市と南の都市は危機感から協力してくれそうなものだけれど、どうも協力は得られていないっぽい。
スカーレットの演説は、エタニア人たちはソーセスに留まると思える内容だったから、触らぬ神に祟りなしとばかりに静観を決め込んでいる、のかも知れない。
淫獣と、あるいはエタニア人の牝とのセックスを目的にソーセスに入ろうとする人は、今のところいないみたい。軍が、淫獣の哨戒だけでなくソーセスに入ろうとする人々の警戒も行うようになったから、それに引っかかっているのかも知れない。あるいは、その警戒網をすり抜けてソーセスに入った人はいるけれど、公表していないだけ、ということも考えられる。
そして今日も、ボクは医療センターに呼び出された。理由は、淫獣に襲われた兵士の治癒。本当に最近は多い。
ボクの“治癒”は、淫獣に犯されてから4日後になるので、彼女が……彼女たち(今日は2人いたので)が淫獣と遭遇したのは4日前になる。
諜報部隊員に行なった予防(?)セックスと違って、治癒セックスの時には医師や看護師、それに聖人調査室のメンバーがいる中で行う。ボクはもう慣れたけれど、相手の女はヤりにくいだろうな。
ちなみに、重傷者にはストックされたボクの精液を使っているらしく、今は治療セックスを行うことはない。凍結した精液では間に合わないほどの重傷なら依頼されるだろうけれど、幸いにもそこまでの重傷者は出ていないみたい。
2人のうち1人は淫獣の仔を孕まされているらしく、悲壮な表情を浮かべてボクを待っていた。
淫獣に犯されると、その快感でセックスすること自体への嫌悪感・拒否感は減少するらしいけれど、両生類のような姿の淫獣を自分が産むということに対しての嫌悪感は、セックスの快感程度では薄められないらしい。
それも無理ないよね、と思う。人間ではない、得体の知れない生物を自分が産むとなったら、どんな女でも気後れするだろう。
ボクは、数人の人たちが見守る中で、2人の女と身体を重ね、絶頂に導いた。孕んだ女からは、2つの淫獣の卵が排出された。
これで、2人はこれまで通り従仕とのセックスで性欲を発散できるはず。従仕がいなくても、適当な男を相手にして。
それにしても、これからもこういう人は増えるのかな。今はまだ大丈夫だけれど、あまり増えると、いかなボクでも精が尽きてしまうかも知れない。それとも、聖人の精は尽きないのかな? どちらにしろ、淫獣による被害者が極端に増えないことを祈ろう。
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ボクが基地から出られない上に外との連絡すら禁止されているので、アルクスたちの新居は、ハイダ様が手配してくれた。と言っても、近隣の街の不動産業者に依頼して、いくつかの物件を紹介してもらったようだけれど。
紹介された物件の中から、ハイダ様とボクとでさらにいくつかに絞り込み、アルクスたちとも連絡を取り合って情報を共有し、最終的に1つの物件を選択し、そこを借りることに決めた。最終的にはソーセスに帰るつもりだから、購入ではなく賃貸にした。
ただ、その物件も建築中なので、すぐには越して来られない。ソーセスが淫獣に陥されてから、この辺りからエスタまでの街や村落で難民受け入れのための建築ラッシュが起きているのだけれど、資材も人材も有限なので、なかなか追いつかないみたい。
ボクがボリーさんたちに匿われていた時に滞在先を見つけられたのは、よほど運が良かった……と言うより、ボリーさんたちが苦労して探してくれたんだろうな。
それでも、ソーセスに近いこの辺りに留まる難民はそれほど多くはなく、まだマシらしい。
聞いた話になるけれど、ソーセス都市圏やエスタ都市圏の端に近い街や村落は、元々の人口が少ないのに大勢の難民に押しかけられて仮設住宅の建設も間に合わず、テント住まいの難民が大量にいるらしい。
都市エスタの近郊まで行けば、多少の余裕はあるのだそう。そこまで行く元気いっぱいの難民が少ないってことだろうな。
多分、南の都市側も似たような状況だろう。アルクスたちも、運良く住まいを見つけられたのは、ソーセスからすぐに離れて早目に落ち着き先を探したからだろうな。
そのアルクスたちもこっちに越して来る目処が付いた。ハイダ様とボクは基地の宿舎でアルクスたちは近隣の街だから、以前のような暮らしにはならないけれど、家族が近くに住めるだけでも一歩前進だ。
けれど、移動までにはまだ時間がかかる。そこで、月に一度、ハイダ様はアルクスたちに会いに行くことにした。本当はもっと頻繁にアルクスたちに会いに行って欲しいけれど、状況が状況なので、長期間(と言っても3日だけれど)の休暇を何度も取れない。妥協点が月に1回。
アルクスたちがこっちに越して来れば、週に一度くらいは会ってもらえるだろう。日帰りできる距離でもあるし。
ハイダ様がアルクスたちに会いに行っている間は、ボクは基地で留守番。何しろ、基地から出ることを基本的に禁じられているから。ハイダ様と一緒なら(ボクがいるから護衛もつくだろうし)問題はないと思うけれど、顔が公表されてしまったので危険を少しでも犯さないように、と言われている。
エタニア人たちに襲われることは多分ないだろうけれど、他の都市の人間を軍や臨時政府は警戒しているみたい。公表している聖人の治癒能力だけでも狙われるに十分な理由になるし(女の外傷限定でも、現代医学を遥かに凌ぐ治癒能力だから)、公開していない『淫獣に犯された女の性欲を元に戻す』能力を知られたら、予防のためにも聖人を確保しようと考えるだろう、とヘルミナさんが言っていた。
ボクとしては、それは考え過ぎじゃないかな、と思うけれど、ボクはそういうことについてはまったくの素人だから、知っている人の話を聞こうと思う。
ヘルミナさんも専門は医師だけれど軍医だから、ボクよりはずっと、そういうことを詳しく知っているだろう。
何はともあれ、また家族みんなと一緒に暮らしたいな。そのためには、ソーセスを取り戻さなければならない。聖人として、ほかに出来ることはないかな?




