035 暫定管理者:ウェリス大陸・南東の都市で
「何とか、落ち着いてはいるようですね」
私は、都市を一望する高層ビルの上階で、独り言ちました。一時的に、都市の全域を闊歩した牡は、今は都市中心部から郊外へ、さらにその周辺へと退いています。私たち牝が、そう言い聞かせたからですが。何しろ、牡がウェリス人の男を見つけると、問答無用で触手を叩き付けて吹き飛ばし、十中八九、死に至らしめてしまうのです。殺さないように、と言明はしているものの、どうも牡の本能に刻み込まれているらしく、なかなかに抑えることが難しいようです。
牡を都市中心部から退去させたのは、それが主な理由です。何しろ男は、エタニア人の、私たち牝が生き残るために必要らしいので、徒らに数を減らすわけにはいきません。
さらに、エタニア人の牡を都市の郊外に遠ざけると同時に、ウェリス人の男を都市の中心部に集めました。接触がなければ、牡もわざわざ男を探し出してまで害そうとはしません。
必然的に、ウェリス人の女も都市中心部に集中することになりますが、一部は郊外に近い都市外縁部に住み続けている女もいますし、郊外の家にいる住んでいる者もいます。牡によるソーセス制圧の際、牡に襲われ牡との性交に溺れた者たちです。都市を維持するためにも、ウェリス人にはある程度は散っていて欲しいので、こちらとしても望むところです。
それよりも問題になったのは、都市の運営です。
私は、30年近く前にウェリス大陸南東の都市、ソーセスに送り込まれました。それからはずっと、ウェリス人の女としてソーセスで暮らし、ある程度の社会的地位を得ました。この地位が、任務のために必要と判断したからです。
今回の、牡の大群によるウェリス大陸の都市制圧も作戦の1つとして伝えられていました。その時に、私たち潜入している特務部隊員が何をすべきかも。
ソーセス議会に集まった特務部隊の隊員は、私を含めて11名。しかも全員が初対面です。他にもいるはずですが、私たちとは別の任務を負っているのでしょう、牡の襲撃があっても姿を見せません。11名でまとめるしかありませんでした。
11名で速やかに議会を制圧し、都市政府中枢を乗っ取ることに成功しました。緊急事態を受けて、深夜にもかかわらず主だった高官が集まっており、警備員も普段の夜よりは多かったのですが、『敵は淫獣』と思い込んでいる彼女たちの隙を突いて制圧することは容易かったのです。
市民を率いて都市を脱出した高官もかなりの数がいましたが、無理に探し出す必要もないので放置です。むしろ、拘束しておく人数が減って好都合です。
しかし、それからが大変でした。
ソーセスからはかなりの人数が脱出しました。私たちの目的のためにはまとまった人数に残ってもらう必要があるのですが、500万人丸々残られても手に負えないので、ある程度の妨害工作はしたものの、基本的には放置しました。結果として、都市に残ったのは210万人ほどです。概ね、女が65万人で男が145万人。ウェリス人の男女比からすると男の数がやや少ないですが、牡に遭遇してしまったことと、軍や政府に関係する女たちが、自分たちを待たずにソーセスを離脱するよう指示したからでしょう。
それなりに数が減ったと言っても210万人をわずか11人で管理するなど、できるものではありません。そこで、政府と軍の要人は拘束したものの、ソーセスに残った(取り残された)官僚たちにはそのまま仕事を続けてもらいました。
そのままとは言っても、もちろん策を講じたのも事実です。策と言うほど大したことではないのですが。
ウェリス人の女は、ウェリス人の男よりもエタニア人の牡を相手にした方が性的快楽を得られるらしいのです。逆に、私たちエタニア人の牝は、エタニア人の牡よりもウェリス人の男の方が肉体の相性がいいらしいのです。このことは、この任務に就く時に伝えられました。
実際、私もソーセスで2人の男を従仕としましたが、彼らとの性行為は牡を相手にするよりも、精神の内側から、より高揚するような快感を齎してくれます。この快楽を感じたら、牡との性交には戻れません。
……もっとも、私が牡との性行為に及んだのはこの任務に就く前、まだ十代前半でしたから、まだ肉体が未成熟で、快感をそれほど感じられなかっただけかも知れないのですが。
ともかく、これを利用しない手はないでしょう。牡の見た目は、女にとって嫌悪感を感じるものらしいのですが、一度味わわせてしまえば虜になるはずです。それは、これまで牡との戦闘で肉体を重ねたレディーウォーリアーの数少ない事例からも明らかです。一般市民には知り得ない情報でしたが、私はそれを入手できる立場にいましたから。
単に一度、牡と交わらせただけでは駄目な場合もあるでしょうけれど、その後で牡絶ちすれば、私たちに協力してくれることでしょう。
「こんな場所に連れて来て、何をするつもりなのですか?」
集めた4人のウェリス人の女が私を睨みます。彼女たちは官僚ですが、私たちにそれほど協力的ではありません。ですが、私たちには彼女たちの力が必要なのです。
私は、特務部隊の同僚2人──と言っても互いに見知ってから十数日ですが──と共に、女たちを前に立っています。同僚2人はレーザーライフルで武装し、女たちはもちろん非武装。エタニア人の牝はウェリス人の女に比べて全体的に小柄なので同じ土俵に立ったらひとたまりもありませんから。
この場所は、ソーセスの郊外にある比較的大きな家の庭です。ウェリス人の住民が逃げ出して無人になったそこを、私たちが拝借しました。この家は、広い庭に大きな池があったので、都合が良かったのです。池の真ん中に浮かんでいる物は、女たちには岩にでも見えるでしょう。
「本日は貴女方を歓待するためにお呼びしました」
「その割には殺風景だし、何もないようだけど?」
女の1人が挑発的に言います。けれど、すぐに従順になることでしょう。
「歓待の内容はすぐに判ります。では、服をお脱ぎください。下着も」
「は? なんで裸にならなきゃならないわけ?」
「無理にとは言いません。貴女方がそのままでよろしければ、それで構いません」
忠告はしました。それに従わなかったのは彼女たちなのだから、服がどうなろうと私に責任はないでしょう。
「では、ヤってください」
私は、池に向かって言いました。その途端、池の中央の苔むした岩を中心にして、波紋が広がります。岩は岸に近付きながら大きくなります。女たちが一歩、後退りました。
岩はさらに岸に近付き、そして水を滴らせながらガバッとその全身を現しました。
「きゃあああああああっ」
「ひいいいいいいいいっ」
「いっ、いいいい、淫獣っ」
そう、池に潜ませていたのは牡でした。ウェリス人たちは“淫獣”と呼びますが。
女たちはパニックを起こし、2人は尻餅をつき、1人は逃げ出そうとして自分の足に蹴つまずいて転び、もう1人はヨタヨタと後退りました。足はガクガクと震えています。
倒れた女たちも、牡から離れようと尻餅をついたまま後ろに這いずり、あるいは立ち上がって駆け出そうとします。
その女たちを、牡は2本ずつの触手を素早く伸ばして絡め取りました。
1人は右脚と左腕を拘束され。
1人は両足と胴体に触手が絡み。
1人は両足と右腕を掴まれ。
一番近くにいた1人は、両腕に絡み付いた触手で空中に持ち上げられました。
「いやあああああああああっ」
「離してええええええええっ」
「助けてええええええええっ」
「ひいいいいいいいいいいっ」
さっきまでの勢いはどこへやら、女たちは泣き叫びます。
「大丈夫です。貴女たちはこれから、これまでにない無常の快楽を味わうのです。身も心も、牡に委ねてください」
私の言葉が聞こえているのかいないのか、女たちは涙を流しながら触手を掴んで剥がそうとしますが、いくらウェリス人の女がエタニア人の牝より力があると言っても、牡の力には抗いようがありません。
牡はさらに淫口から触手を伸ばして、女たちを舐め回します。
僅か1時間後には、牡に与えられる快楽から逃れられなくなった官僚が4人、増えたのでした。




