033 家族たちの状況
南の都市の都市圏に近い、比較的大きな街のホテルにひとまず落ち着いた。もちろん、アルクス、ダリアンと、まだ幼いエイトも一緒だ。
ハイダ様からの連絡を受けてから4人ですぐに家を出て、途中からソウトへと向かう主幹道に乗り、深夜に近くの街に乗り入れた。主幹道は片側5車線の広い道路なので、夜間でもそれほど危険はないが、野生動物が入り込んだり、そうでなくても眠気を抱えたまま運転していては操作ミスをしかねない。
それに、バッテリーの問題もある。まだ余裕はあったが、深夜のため車体のソーラーパネルはほとんど仕事をしていなかった。いざという時に動けない、などということがないように、余裕があるうちに充電しておきたかった。
しかし、情勢にそれほど余裕がないことは、すぐに判った。
深夜の客という面倒な訪問者を、ホテルの従業員は少なくとも見かけは暖かく迎え入れてくれたが、案内された部屋に落ち着こうとした途端、全員のセルフブレスが小さくもけたたましい音を立てた。政府からの緊急通報だ。
それは、南東の都市全市に対する緊急避難指示だった。さらに、避難指示はソーセスの周囲50キロメートルの都市圏までが対象とされ、その外側、150キロメートル圏内には避難準備が指示されている。オレたちが泊まった街は、ソーセスから200キロメートル離れていたから、避難指示にも避難準備の範囲にも入っていないが、それが出るのも時間の問題に思えた。
安らかに眠るエイトを起こさないように、オレたち三人は今後のことを相談した。ハイダ様からの指示は『南の都市か東の都市に向かえ』だったが、ソーセスからの避難民、その半分が押し寄せたら、いかに巨大な都市といえど、ソウトには収まらない。ソウトまで辿り着けたとしても、大部分は都市には入れず、都市圏の街や村にも押し寄せることになるだろう。いや、ソウトの都市圏に限らず、ソーセス都市圏でも都市から離れた街には、避難民が殺到することが容易に予想できる。
さしたる情報のない中での話し合いに結論を出すことは難しいが、しばらく話し合った後、アルクスが『ソウト都市圏に近い、大き目の街にいったん落ち着こう』と結論付けた。オレより歳は下だが、オレよりずっと頼りになる奴だ。ハイダ様の従仕に最初になっただけのことはある。
オレもダリアンも、アルクスの決定に異を唱えず、翌朝早くに再び車上の人となり、ソーセスから400キロメートルほど離れたこの街まで来た。
オレたちがこの街に着いた時には、他にも都市からの避難者がやって来ていたが、主幹道からやや外れた街を選んだこともあって、それほど多くはない。これから避難民が増えるかどうかは未知数だ。
さすがにここまでは避難指示が出るようなことはないと思うが、油断はできない。
「ハイダ様とセリエスは大丈夫かな」
ホテルに備え付けの端末を操作しながら、ダリアンは不安そうに言う。その不安は良く解る。オレだって不安だからな。しかし、不安がっていても仕方がないし、エイトの教育にも悪いだろう。
「ハイダ様を信じろ。大丈夫、ハイダ様はいつだってオレたちの元に帰って来たじゃないか。これからだって同じさ」
オレは、部屋のあちこちを物珍しそうに見て回っているエイトから目を離さずに言った。
「ベルントはそう言うけど、心配なんだもん。それに、ハイダ様はともかく、セリエスは自分の身を守れるのかな。男だし」
「自分で守れなくても、護衛が付くさ。何しろ、聖人だからな」
セリエス一人だけなら、オレだって見かけだけでもこんなに落ち着いていられないが、護衛が付かないわけがない。何しろ、重要人物だからな。
情報収集のために外に出ていたアルクスも、夕食の前に戻って来た。ダリアンがネットワーク経由で調べた情報も合わせて状況を確認したが、ソーセスからの避難民のことは数あれど、ソーセス自体の状況は大して判らなかった。
けれどこの時、アルクスのセルフブレスに入った通信が、ソーセスの、いや、ハイダ様の状況を伝えてくれた。
「誰……ハイダ様っ」
アルクスの驚いた声に、オレもダリアンも即座に反応した。アルクスのセルフブレスが空中に投影する映像を正面から見ようと、オレとダリアンはアルクスの左右に寄った。あちこち見回っていたエイトも、大人たちの様子に何事かとやってきたので、オレが抱き上げた。
『アルクス、ベルント、ダリアン、みんな無事か』
「「「はいっ」」」
「だぁっ」
オレたちは声を揃えて返事をし、エイトも画面に向かって手を振った。
『エイトも元気そうだな。お前たち、今はどこにいる?』
ハイダ様の問いに、代表してアルクスが答えた。
『そこまで離れれば当面は大丈夫だろう。時間がないから良く聞け。お前たちは当面、その街で生活するつもりでいろ。私も落ち着いたらお前たちの所に帰る。居場所を替えた時はメッセージを送っておいてくれ。私が迷子にならないようにな』
ニヤリと笑みを浮かべて、ハイダ様は言った。
「解りました」
アルクスが短く答えた。落ち着いているように見えて、ハイダ様に時間が限られていることは画面越しにも伝わってくる。きっと、すぐに出撃なのだろう。
「ハイダ様、セリエスは? それと、ソーセスに帰れないんですか?」
思いつめたような声でダリアンが言った。
『セリエスの行方は不明だ。だが、諜報部隊員が確保しているはずだ。今は無事を信じよう。そらから、ソーセスへはしばらく帰れない。が、絶対に取り戻す。それまでは、その街で頑張ってくれ』
「……はい、解りました。ハイダ様、お気を付けて」
ダリアンも、もっとハイダ様と話していたいだろうが、そこは弁えている。
『お前たちもな。そう遠くないうちに、一度はそこに行く。ではな』
慌ただしく、通信は切れた。
「……良かった。ハイダ様、無事で」
ダリアンが胸を撫で下ろした。
「セリエスのことは心配だけどな。でも、ハイダ様の様子からすると、その諜報員に任せておけば問題ないだろう」
オレも頷いた。
「取り敢えずでも腰を落ち着けるとなると、住む場所も見つける必要があるな。いつまでもホテル住まいというわけにもいかないから」
アルクスが、オレから渡されたエイトを抱いて言った。彼の言う通りだな。しばらくはここに滞在するとして、長期に渡るなら住居も仕事も必要になる。男ばかり3人で貸家を探すのは骨が折れるだろうし、男のオレたちがフルタイムで働くことも厳しい。しかし、3人いれば何とかなるだろう。いや、何とかしなければ。
ハイダ様も、落ち着いたらオレたちの様子を見に来ると言っていたし、その時にオレたちだけでもきちんと暮らせているところを見せなければ。オレたちの心配をしたまま淫獣を相手にしては、痛手を被らないとも限らないからな。
ハイダ様の無事を確認できて安心したオレたちは、明日から本格的に活動を始めることにして、その日は早めに床に就いた。
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アルクスへ連絡して3人の従仕と愛息子の無事を確認した私は、すぐにエクスペル・アーマーの駐騎場へと向かう。駐騎場といっても、ただの平原だ。野戦用のテントが何張りも張られている。
ソーセスは、淫獣によって占拠された。半数近い住民を残したまま。現在、軍部はソーセスから撤退し、50キロメートルほど離れた地点に陣を張り、エクスペル・アーマー部隊が交代で出撃しては、偵察と嫌がらせ程度の攻撃をしている。
ソーセスの周囲は淫獣でいっぱいだ。一般市民を残して撤退せざるを得なかったことには胸が痛んだが、戦力を減らしてしまえば都市の奪回もままならない。
軍部は、ここよりさらに30キロメートル後方に本格的な基地の建設を進めている。今、私たちがここで踏ん張っているのは、基地が完成するまでの時間稼ぎだ。何しろ、こんな野戦陣地ではエクスペル・アーマーの満足な整備もできず、いつかは淫獣の拡散を許してしまうだろう。
淫獣は、ソーセスの周囲30キロメートルほどまでを活動範囲にしている。例外は東方だ。ソーセスの東側は、フロンテスまで、その先のセレスタ地峡まで、淫獣で犇いている。
東側を除けば、今のところ、淫獣はソーセス周辺に留まっているが、油断はできない。これ以上の淫獣の拡散を防ぐためにも、また、こちらから本格的な奪還に打って出るためにも、基地の建設を急ぐ必要がある。
気がかりなことと言えば、セリエスの行方が知れないこともある。司令の話では、諜報部隊から三人を付けたと言っていたから、今は無事であることを信じるしかない。おそらくエスタやソウトに情報が漏れることを恐れているのだろう、セリエスへの通信は繋がらない。
アルクスたちへは通じたのだから、ネットワークは繋がっているはずだ。にもかかわらず繋がらないということは、意図的に隠していることに他ならない。今は、諜報部隊を信じて任せる他はない。
「隊長、準備できました」
駐機場へ到着する前に、リチルがベルリーネと共に報告に来た。
「解った。すぐに出撃する」
「「はい」」
淫獣に一撃を入れるため、私はまた出撃する。
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「それじゃ、挿れますよ」
ボクは、ひとまず落ち着いた街の小さな家の寝室で、街の女を相手に身体を重ねようとしていた。ハイダ様やアルクスたちのことが気になるけど、この女も放ってはおけない。だって、右腕を上腕も下腕も骨折していて、見ていられないんだもん。
「あっ、ああんっ」
筋肉質の女の太腿を掴んで腰を合わせると、女は苦痛でか快楽でか、喘ぎ声を上げる。ボクは怪我をしている腕に負担をかけないよう、ゆっくりと腰を動かして、女の膣内に何度か射精した。




