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【R15版】淫獣大戦 ~聖人のボクは女たちをセックスで癒す~  作者: 夢乃
第2章

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30/59

030 脱出

 負傷者は頻繁に運ばれてくるけれど、ボクがセックスしなければならないほどの重傷者はほとんどいない。まだ2人だけ。重傷者にセックスするっていうのもどうなんだ、と思うけれど。

 代わりに、精液の方はどんどん出ていて、凍結保存されていたボクの精液のストックの方が心許無くなってきたので、ボクはひたすら手コキで搾られている。


 今も、救護部隊の隊員の1人が、ボクから搾精している。

「くっうっ、でっ、射精()ますっ」

 ボクの限界と同時に、彼女はビーカーを差し出して、精液を受け止めた。

 女はビーカーをテーブルに置いてラップで蓋をすると、すぐに次のビーカーを用意する。もはや、射精休息を取る余裕もないほどに、負傷者が増えているらしい。

 別の女が空のビーカーを2個持って来てテーブルに置き、精液の入った2個のビーカーを持って行った。ボクの剥き出しの下半身に意識を向ける余裕もないほどに、急いでいる。また誰か、運び込まれたのかも知れない。


 そして再び搾精が始まる。ここで一生分の精液を放出するつもりで、ボクはひたすら扱かれ、兵士たちの傷を癒す治療薬の生産を続けた。


 ◉ ◉ ◉ ◉ ◉ ◉ ◉ ◉ ◉ ◉ ◉ ◉


 どれだけ時間が経っただろう。どれだけの量の精液を提供しただろう。けれど、まだ夜も明けていないから、そこまで時間は経っていないのかも知れない。


 射精直後のひと息を入れている時、2人の女が搾精区画に慌てて入って来た。1人は救護部隊の隊員で、もう1人はボクの救出作戦にも参加していたボリーさん。2人とも、表情が焦っている。

「聖人様、すぐに退避してくださいっ。淫獣が迫っていますっ」

 この救護陣地の手前、50メートルほどにまで淫獣が迫っているらしい。淫獣が全力で走ったら、その程度の距離は数秒で走破してしまう。兵士が食い止めているはずだから、数秒ってことはないだろうけれど。

 搾精を担当していた隊員はすぐに片付けに入り、ボクも、開いたズボンの股間に急いで蓋をした。


「セリエスはこちらへ」

 ボリーさんがボクの手を取って、入って来たのとは反対側へと向かう。

「あの、ほかのみんなは」

「それぞれで退避に入っています。急いで」

 確かに、慌ただしい現場に男のボクがいたところで、女たちの邪魔にしかならないだろう。ボクは、ボリーさんに手を引かれて広い天幕を走り抜け、外に出ていくつも張られている天幕の間を縫って行った。深夜だけれど、臨時で何本も立てられた照明で、走ることが苦にならないくらいには明るい。


 途中、ボクの足の遅さに痺れを切らしたのだろう、ボリーさんに「失礼」と言われて抱きかかえられた。

 ボリーさんは天幕の間を風のように駆け抜ける。後ろから、悲鳴が聞こえる。本当にすぐそこまで、淫獣が迫って来ていたようだ。

 天幕の群れを抜けたところに、2輪のヴィークルが2輌と、2人乗りの4輪のヴィークルが1輌止まっていた。2輪ヴィークルには、人が乗っている。


 4輪ヴィークルは、ハイダ様の持っている2人乗りヴィークルのような左右に乗るタイプではなく、2輪ヴィークルのようにタンデムに乗るタイプだ。

 ボクは、その後席に押し込まれた。ボリーさんが前に乗る。

 すぐに、ヴィークルは走り出した。左右を2輪ヴィークルが並走している。左右のバックミラーには、さっきまでボクのいた救護陣地が、夜の中、簡易照明に照らされて佇んでいる。


 と、突然、ミラーに映る天幕の一つが空に吹っ飛んだ。何本か見える、ウネウネとした触手。淫獣が接触したらしい。

 戦闘の様子は、ほかの天幕が邪魔で直接は見えない。ヴィークルに乗った騎兵や、エクスペルアーマーを駆る乙女戦士(レディーウォーリアー)が戦っているのだろう。

 みんな無事でいて、とボクは祈らずにはいられない。




 しばらく走って、ボクはようやくヴィークルの向かう方角がおかしいことに気付いた。3輌のヴィークルは、ソーセスのある西ではなく、北に向かって走っている。

 少し前の事件が頭を過る。まさか……。

「ボリーさん、どこに向かっているんです? 後退して都市にもっと近い場所に救護陣地を作り直すんじゃ」

「いえ、このままエスタ方面に向かいます」

 ボリーさんは前を見たまま答えた。


「え。ソーセスには戻らないんですか?」

「はい、そうです」

 ボリーさんは感情のない声で答えた。

「何で……」

 呆然とするボクに、ボリーさんは相変わらず感情を殺したような声で話してくれた。


「ソーセスには、すでに全市に避難命令が出ています。すでに、エスタやソウトに向かう主幹道はソーセスから逃げ出す人々で渋滞しているでしょう」

 そう言われて左手を見ると、確かに光の列が見える。ソーセスから避難する人たちのヴィークルか。夜だから、脇道を通るのは避けているんだろう。


「ハイダ様は?」

 知っているかどうかは判らないけど、聞かずにはいられない。

「セリエスが折を見て避難することは知っています。と言うより、彼女からあなたのことを頼まれました。確実に避難させるように、と。

 彼女自身も、無理せずに戦闘から離脱するはずです。淫獣の後ろに人間、エタニア人がいることが判ったので、オシレイトブレードやヒルドネント・ジェネレーターの技術があちらに渡ると危険ですから、『死んでも撤退しろ』と命令が出ています」


 その命令は、事実上『死ぬな』と言うことであり、同時に、『いざとなれば民間人を見捨てろ』ということだと思う。前者の命令はともかくとして、後者の命令にハイダ様が素直に従うだろうか。

 ボクは頭を振った。そんなことを考えても仕方がない。今は、ハイダ様が無事であることを祈るだけだ。


 アルクスたちは無事に逃げただろうか。ハイダ様が連絡すると言っていたけれど。家があるのが都市の西の郊外だから、ソウトに向かったかも知れない。彼らも無事だといいんだけど。

 ソーセスにとって返したい気持ちをぐっと抑える。どっちみち、後席にはバックミラーはあっても操縦装置はないから、戻るならボリーさんを翻意させなければならないけれど、上からの命令を受けているらしい彼女を説得させる言葉は思い浮かばない。


 と、後方から爆音が響き、ヴィークルの窓がヒシヒシと振動した。ボクは思わず、後ろを振り向いた。暗くて良くは見えないけれど、都市の光を隠すように、煙が立ち上っている、ように見える。

「何かあったんでしょうか?」

 ボクはボリーさんに聞いた。

「あれは、大陸環状鉄道の軌道チューブを破壊した音です。淫獣があれを通ってほかの都市に侵攻してくると不味いですから」


 言われてみると、そうか、と思う。でも、と言うことは、それだけこの事態が重いと言うことだ。

 また、爆音が響いた。後ろを見ていたボクは、さっきの煙よりも遠くで炎が上がったのを見た。ソウト側の大陸環状鉄道も破壊されたのだろう。それを見て、ボクはもう一度、ハイダ様と仲間の従仕(じゅうし)たちの無事を祈った。

 ほんと、聖人だなんだともてはやされても、なんの力もないよな。ほんの少し、兵士たちの傷を癒しただけ。聖人ってなんなんだろう? スカーレットなら、何か知っていたのだろうか。もっとも、彼女の知識が正しいという保証もないけれど。


「……このまま、エスタに入るんですか?」

 しばらくの沈黙の後、ボクはボリーさんに聞いた。

「この後、適当なところで休息をとって、そこで身の振り方を決めたいと思いますが、エスタには入らない予定です」

「何でです?」

 ボクは首を傾げた。

「セリエスが聖人だからです。今までは、ソーセスが対淫獣の最前線でしたから、それを理由に政府はほかの都市からの聖人訪問要請を断っていました」

「そんな要請が来てたんですね……」

 つくづく、ボクは守られていたんだな。


「はい。それが、今回の件で最前線はエスタとソウト、両都市になりました。この状況で聖人がどちらかの都市に囲われると、もう一方の都市から突き上げられる可能性があります」

「ボクを寄越せ、ってことだね」

「ええ。淫獣の大群がすぐそこまで来ている状況で、都市間のいがみ合いなどしている余裕はありませんから、セリエスのことはどちらの政府にも隠しておくつもりです。これは、軍と政府からの命令でもあります」


「そう。でも、2つ疑問が」

「なんでしょう?」

「1つは、聖人がボクだってことは未公表ですよね。なら、難民としてエスタに入っても大丈夫じゃないですか? それと、淫獣という脅威が近くにあるのに、都市間で争ったりしますかね?」

 ボリーさんの、と言うより軍と政府の杞憂の気がする。


「セリエスのことは確かに未公表ですが、どの都市もソーセスに諜報員を潜り込ませているはずです。一般市民はともかく、各都市の軍上層部と政府高官は、セリエスのことを知っているでしょう」

「ああ、そうなんですね」

「もう1つは、実のところ淫獣の脅威を知っているのは、ソーセスだけなんですよ」

「え?」

「ソーセスがセレスタ地峡に一番近いですからね。エスタの人もソウトの人も、淫獣を見たことすらない。せいぜい、大型のクマ程度の危険性としか考えていないでしょう。ですから、淫獣を無視して、セリエスの奪い合いになることは十分に考えられます」


「そうなんですね……」

 確かに、淫獣はソーセスの郊外にすら来ないものね。その前に駆除されてしまう。だから、淫獣を直接見ているのは、軍人と、フロンテスの住民と、それにソーセスの東側の村や街の人たちくらい。

 ソーセスの人にしたって直接見た人はほとんどいないけど、都市圏の村が淫獣に襲われたことや、レディーウォーリアーたちが戦っていることを知っているから、危険性をほかの都市の人たちより知っているくらい。


「そろそろ、休憩します。今言ったことを他の2人とも相談する必要があるので」

「はい」

 3輌のヴィークルは、静かに停車した。

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