019 初めての体験
ここはウェリス大陸ではなく、エタニア大陸だろう。モレノさんもはっきりとは言わないけれど、淫獣の存在と広大な湖沼地帯が、それを如実に表している。
5匹の淫獣に曳かれた船は、太陽から判断すると、南に向かっている。時速50キロメートルくらいは出ているのかな? 流れる景色を見ているとそんな感じ。
淫獣は、地面を走ると時速約25キロメートル、水中を泳ぐ時は時速約40キロメートルと言われている。もし、本当に時速50キロメートル出ているとしたら、ボクたちは淫獣の能力を過小評価していたことになる。情報の更新が必要かな。……無事に帰ることができたら。
淫獣たちは、時々別の個体と交代しつつ、休むことなく船を曳いている。ずっと湖というわけではなく、川と思しき細長い水面を通ったり、湖というには狭い沼らしき場所を進んだりしている。すでに3昼夜が経過しているけれど、目的地はまだ遠いらしい。
船の広い甲板には1日1回程度、淫獣が上がって来て、その度にモレノさんと淫らな時を過ごしている。モレノさんの反応を見る限り、毎回、同一の個体みたいだ。ボクには区別がつけられないけれど、モレノさんには判るらしい。
ボクにとっての淫獣は、相入れることのない、怖ろしい敵対者、としか言いようがないんだけれど、モレノさんにとっては愛しい存在らしい。
そう言えば、淫獣に犯されたハイダ様を見舞った時、淫獣に喰われている間も身の危険は感じなかった、とか言っていた。女と男で、淫獣から受ける感覚が違うということだろうか。
水の中を別の淫獣が泳いでいたり、岸を淫獣が歩いているのを何度も見た。エタニア大陸は、本当に淫獣が多いらしい。ボクは嫌悪感を無理に抑え込み、おっかなびっくりその姿を視界に納め、観察し、可能な限り記憶した。何しろボクの本業は淫獣の生態研究、それを間近に見られる機会を逃すわけにはいかない。怖いけれど。
ビデオカメラが欲しいな。記憶力にはそこそこ自信はあるけれど、見たもの聞いたことをすべて記憶できるほどじゃない。せめてスケッチでも、とモレノさんに尋ねたけれど、ペンも鉛筆もないと言われてしまった。こうなれば、頑張って記憶するしかない。
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船旅が始まって8日目、随分と南に来たらしく、かなり暑い。そして、ゴールらしき場所が見えた。この船が舫ってあった小屋に似た、高床式の木造の小屋。最初の小屋よりも大きいかな。
ここに来るまでにも、木造の家が集まった集落や、石造りの家が建ち並んだ村をしばしば見かけた。淫獣が建てたとも思えないから、人がいるのだろう。実際、遠目に人影も見かけた。距離があったので、女男の区別もつかなかったけれど。
今まで、エタニア大陸に人間の存在は確認されていなかった。と言うより、淫獣がいるためにまともに調査されなかった。でも、今回初めて、人間の存在が確認された。淫獣が間近にいるのに慌てることなく暮らしているのだから、上手く共存しているのかな。
モレノさんも、淫獣の扱いから考えると、元々エタニア大陸に住んでいたのだろうか。多分そうなのだろう。毎日のようにまぐわっている淫獣とは昔からの“顔見知り”のようだし。
そんなことを思い返している内に船は桟橋に着いた。驚いたことに──考えてみれば驚くことでもないんだけど──小屋から2人の女が出てきてモレノさんが投げた綱を受け取り船を係留した。
2人とも、化粧の取れたモレノさんと同じように、薄褐色の肌と赤茶色の髪を持っている。髪はモレノさんよりも赤に近い。
そして特徴的なのが、お尻から生えている尻尾。70~80センチメートルくらいかな。尻尾と言うよりも、淫獣の触手のように、ヌメヌメしている感じがある。先端は、男根と言うよりはユリの花の蕾のような形。
それにしても……2人とも随分と涼しそうな格好だ。ベスト……なのかな? 前だけでなく腋も開いているから、むしろ布を肩に引っ掛けただけのような。そして腰の部分をベルトで締めてある。胸と腰に下着を着けているのがチラチラと見える。素材は綿? そっち方面は詳しくないので、見ただけでは良く判らない。
原始的とも言える服とは対照的に、彼女たちが肩に掛けている小銃は、軍で使っているレーザー銃とそう変わらないように見える。文化レベル、工業レベルがどうなっているのか悩むな。
モレノさんは船から桟橋に飛び移ると、姿勢を正して右手を胸に当てた。
「雛を回収しました」
相手の2人も同じポーズを取った。
「御苦労様です。足は用意してあります。彼が?」
まだ船室にいるボクに視線を向けた女の人が言った。
「はい、そうです」
「拘束はされていないようですが」
「危険はありません。不要と判断しました」
「了解しました」
『雛』と言うのは、ボクのことなんだろう。聖人を表す隠語かな。でも、質問して答えてもらえる雰囲気ではないので、口を噤んでいる。
女の1人と一緒に船に戻って来たモレノさんに促されて、ボクは船から降りた。モレノさんに導かれるまま小屋に入り、足を止めることなく別の扉から小屋を出ると、小屋の前に止まっていた4人乗りのヴィークルの後席に乗せられた。隣にはモレノさん、前席には先ほどとは別の女が2人、乗り込んだ。
ヴィークルが走り出す。道は、石で綺麗に舗装されていて、乗り心地は良かった。森の中の道だけれど、適度に空間がある。元々密集していないのか、それとも伐採して適度な密度にしたのかも知れない。
休むことなく2時間ほど走った後、石造りの建物が見えて来た。船旅中も見たけれど、今度のは随分と立派な街、いや、都市と言っても過言ではない。ボクの住むソーセスには及ばないけれど、かなりの規模だ。どの建物もそれほどの高さはなく、高くてもせいぜい4階程度。
ヴィークルは街の中心部は通らず閑散とした通りを走った。窓ガラス越しに他のヴィークルや街を歩く人の姿が見える。みんな涼しそうな服装なのは気温が高いからだろう。男は見られず、女ばかりだ。みんな、お尻から触手のような尻尾が生えている。
ヴィークルは、街の中でも大きな建物の敷地へと入った。表口ではなく、裏口らしい。
車庫らしき建物の中に入ってヴィークルは止まった。
「すみませんが、これを被ってください」
モレノさんにフードを被せられたボクは、彼女に従ってヴィークルを降り、建物の中を歩いて行った。ヴィークルの前席に乗っていた女が、ボクたちの前後を固めていた。
稀にすれ違うのは女ばかり、みんな薄褐色から褐色の肌で、赤から茶色の髪を持ち、そして触手のような尻尾を持っている。男はまったく見かけない。女だけの種族なのだろうか。エタニア大陸にこんな人間がいたなんて。
前を行く女が分厚い木製の扉の前で止まった。ノックし、中からの応答を待って扉を開ける。ボクはフードを取られてモレノさんに続き室内に入った。女2人は、扉の内側左右に控えた。
「特務部隊、雷3號、ただ今帰還しました」
「御苦労。そちらが?」
「はい」
大きな机に向かって椅子に座っていた女が、立ち上がって机を回り、ボクの前に来て、深々と頭を下げた。は?
「聖人様、ようこそおいでくださいました。ここの指揮を執っているルージュと申します。少々強引になってしまったことは申し訳ありません。追って、聖女様との面会の場を設けますので、それまではこちらにご逗留ください。行動は制限させていただきますが、何かございましたら、専属の侍女にお申し付けください」
え? え? 誘拐しといてこの人、何言ってるの? 聖女って誰? 侍女? 専属? ボクってどういう扱い?
混乱して、何を言っていいのかわからないうちに、ボクはモレノさんに別の部屋へと連れて行かれた。
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ボクが連れていかれたのは、机や応接セットや巨大なベッドなどが揃った豪華な部屋だった。浴室とトイレもある。間仕切りが透明なガラスなのはいただけないけれど。多分、監視のためだろうな。天井に監視カメラらしき物がある。
モレノさんと小銃で武装した女2人は、ボクをここに案内すると去って行った。扉を確認したけれど、当然のように施錠されていた。
窓がないのは、逃亡対策かな。
手持ち無沙汰になって椅子に座っていると、扉がノックされ、誰何する前に女がワゴンを押して入って来た。ボクの前で一礼する。
「マローネと申します。聖人様のお世話をするように、申しつかりました」
つまり、この女がボク専属の侍女と言うことか。まだ幼く、12歳前後に見える。
「その御召し物では暑いですよね。お着替えをお持ちしましたので、お召し替えを」
「あ、はい」
ボクはほとんど何も考えずに立ち上がった。彼女、マローネがすっと寄って、ボクの服に手を掛ける。
「あ、あの、自分で脱げるから……」
「いいえ、聖人様の御手をわずらわせるまでもありません」
ボクは歳下の女の手で、上着を瞬く間に脱がされた。さらに、下着に手がかかる。
「こ、これはそのままでいいからっ」
「遠慮なさる必要はありません」
「いや、遠慮じゃなくて」
抵抗虚しく、ボクは全裸に剥かれた。股間を両手で隠すボクを、マローネはベッドへと誘導した。ここで変だと思うべきだったんだけど、色々ありすぎて頭の整理が追いついていないボクは、彼女の言う通りにベッドに腰掛け、そして……押し倒された。
「はひっ!? ま、マローネさんっ!??」
「マローネで構いません」
「いや、そうじゃなくて、んむ」
マローネはボクをベッドに押し付けると、唇を重ねた。唇が舐められ、こじ開けられて、舌が容赦なく挿入り込んでくる。なんとか彼女の身体を引き剥がそうとするけれど、小さな身体に似合わないほどの力があって、押し返せない。ボクはされるがままに口内を蹂躙された。
マローネは、キスを続けながらボクに跨った。彼女の服も、素肌にベストもどきだけ、しかも下着を着けていない。ボクの下半身に、少女の幼い股間が押し付けられる。
「んー、聖人様、柔らかいですね。興奮すると硬くなるんですよね。あたし、魅力ありませんか?」
「そういうわけじゃ……」
「でも、あたしも勉強して来ましたので、大丈夫です」
勉強って、何の勉強っ!? 絶対に大丈夫じゃないよねっ!?
マローネの後ろに蠢く物。何あれ? え? アレって触手?
その触手が、ボクのお尻に当てがわれた。
「コレで、硬くなりますよね」
「あひぃんっ」
その日ボクは、1人の女の子に前と後ろを同時に犯されるという生まれて初めての行為を体験した。射精と同時に女の子の触手から何かを注入される。今までに知らなかった快感に、ボクは朦朧としたまま肉体を震わせた。
==登場人物==
■ルージュ
モレノの上司に当たるらしい女。
■マローネ
誘拐されたセリエスにつけられた侍女。12歳くらい? セリエスよりも背が低く小柄だが、力はセリエスよりもある。
※エタニア大陸の女たちの名前は、外国語の色の名前から取っています。
モレノ :西語・moreno(褐色)
ルージュ:仏語・rouge(赤)
マローネ:伊語・marrone(茶色)
==用語解説==
■エタニア大陸の人間
今のところ、女しか姿を見せていない。肌は薄褐色から褐色が多く、髪は赤から茶色が多い。
ウェリス大陸の女とほぼ同じ姿形をしているが、尻から淫獣の触手に似た尻尾が1本生えている。先端は、淫獣の亀頭のような形状とは異なり、ユリの花の蕾のような形をしている。




