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vivre―黒い翼―  作者: すずね ねね
2章 les derniers adieux
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新天地へ【3】

シャガールの村々は、どこも酷い有様だった。無事だった人々は既に国外へと流出したのか残っていたのは焼け落ちた家屋や弔われることなく放置された遺体ばかりだった。

ジャレイン諸島へ一番近い航路は、砂漠を渡った先にある港町だ。

だが、その港町も今は閑散とし、無人の船が停泊しているだけだった。


「やはり誰もいないか」


青年が呟く。

放置されてから時間が経っているのか、水揚げされたまま放置されていた魚が異臭を放っていた。


「ふむ、船の動かし方は?」


アデライドが見回す。当然、そんな心得のある者はいなかった。


「であれば、アノルーを呼ぼう」


「ええ?猫なのに船を?」


ケットシーといえど猫だ。猫といえば水が苦手だとヴァレリーは言いたいらしい。


「まぁ、彼奴は何でも屋だからな。ふむ、少々離れているからすぐにとはいかんが、数日待てるか?」


アデライドが青年を見ると、青年がゆっくり頷いた。

幸いにして波止場に建つ建物はどれも無事のようだった。

青年は一際大きな建物を指差す。


「酒場だ。あそこで待とう」


頷きあうと、酒場の扉を開いた。

薄暗い室内は荒れていたが、アデライドを待つ間隠れるには充分であるように思えた。

ヴァレリーは散乱した酒瓶やゴミを片付けスペースを確保する。その手際は、さすが宿屋の娘というところか。

青年たちは酒場の隅に寝袋を広げられるスペースを確保し、荷物を纏めておいた。

寒冷地に棲むピィに砂漠の横断は堪えているようだったが、日の入らない酒場で休ませていると少し回復したようだった。


体毛の多いセバスチャンも、酒場に蓄えられていた大樽の水を無遠慮に飲みながら満足したようにピィと眠り始めた。


「ヴィーヴルの群れは、どこに向かったんだろうな」


「方角は北だが、レイダリアもクレイアイスも該当はするな……」


青年が沈んだ声で答える。


「何も無いといいんだけど……」


不安げにヴァレリーが呟く。

いずれにしても、今は確かめる術がない。


「アデライドが戻ったら、エドワールに連絡してみよう」


そう決め、交代で眠ることにした。

アデライドは転移門を開いて隠者の森に戻ったが、いくらアデライドといっても長距離の移動は疲労するらしい。

アノルーの手配を済ませ戻るのに、数日必要だ。


アデライドを待つ間酒場の中を見て回った結果、数日分の食料の備蓄を見つけた。

申し訳ないが拝借することにし、ささやかな晩餐とした。


「セバスチャンもピィちゃんも、ご苦労さま」


ヴァレリーが優しく頭を撫で、2匹にも食料をわけていた。


「そろそろオルガの結婚式が行われている頃か」


感慨深げにファブリスが呟く。少しアルコールが入っているのか、赤い顔をしていた。


「きっと綺麗だよ」


ヴァレリーが微笑む。無理に暗いことを考えないように振舞っているのだ。


「きっと……今は幸せに暮らしてるはず」


言い聞かせるように呟かれた言葉に、青年たちは静かに頷いた。




+++++++





数日後。アデライドが戻ってきた。

短期間の間の長距離移動に少し疲れた様子だったが、アノルーとその部下だというケットシーたちを連れてきた。


「お土産があるニャ」


アノルーは新鮮な食料を持ってきたのだ。


「ボクは姐さんには逆らえないニャ」


部下たちにウニャウニャと指示を出しつつ、アノルーが胸を張る。


「まぁ、ボクは何でも屋だからニャ!船乗りをしていた仲間だって沢山知っているニャ」


アノルーの言葉にケットシーたちを見ると、放置されていた船に乗り込みなにやら準備しているようだった。

やがて準備が終わり、青年たちが船に乗り込むと、猫たちは手慣れた様子で船を操作し始めた。

30人ほどは乗れる船だが、連絡船に使われていたのだろうか。

質素な客室が造られていた。


「2日くらいで着くはずニャから、ゆっくりしてるといいニャ!」


アノルーの言葉に甘えることにし、青年たちはエドワールへの連絡をとることにした。

アデライドが魔力を注ぎ込むと、宝玉が輝き魔術師と繋がる。

だが、残念なことにエドワールは不在だった。

ジャレイン諸島に着いたら再び連絡を入れることを告げ、魔力の供給を断つ。


「何かあったのかなぁ……」


ヴァレリーが不安げに呟く。


「まぁ、エドワールは忙しいだろうし、そうそう魔術師といっしょにいるわけでもないだろう。あんまり心配するな」


青年がヴァレリーの頭を優しく撫でる。

アデライドが目ざとくそれを見て、ニヤリと微笑んだ。


「おお、なんだ。そういう関係か?」


「も、もう!違いますってば」


赤面しながら否定するヴァレリーに、ファブリスも笑う。


「なんだ、ついにか」


「もうっ! ファブリスさんまで!」


ヴァレリーが頬を膨らませ抗議すると、青年が頷く。


「ヴァレリー俺と一緒にいることを選んだだけだ」


「ちょ……! ルーさん、余計ややこしくなるから黙ってて! これはあれなの、私はその……」


何故黙ってろと言われたのかがわからずに首をかしげる青年を他所に、ヴァレリーは必死に色々と弁明しているようだった。

もちろん、アデライドもファブリスも全く聞いていないわけだが。

賑やかな笑い声が船室に響く。

束の間、不穏な空気を払拭するように。


船は針路を南西へとり、海原を進む。

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