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vivre―黒い翼―  作者: すずね ねね
1章 des magouilles
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貴族会議【1】



【貴族会議】



エミリアンと王女マルグリットの婚姻について、どこから漏れ聞こえたのかクレイアイスの国民たちの間ではその噂で持ちきりであった。

クレイアイスの元老院とレイダリアの宰相リレウス、そしてエドワールを交えての交渉は難航していた。


レイダリアにとってオルガは使い捨ての駒ではなく、立派な王位継承権を持つ人物だ。

レイダリア王室としては、妃に出すのであれば王女ではなく、もう少し身分の下になる貴族の娘で手を打ちたい。

クレイアイスにとっては、オルガを妃に迎えることでレイダリアという大国と姻戚関係を結ぶことで他国から侵略される危機を減らすことが出来る。


両者の目指すところが違う以上、会議は何日も繰り返されていた。


それまで召使い用の部屋に泊まっていた青年たちは、エドワールの計らいで彼らの泊まる屋敷へと移っていた。

街に預けていたセバスチャンと子竜のピィも、庭にある馬車用納屋の一画を借りてそこで待機させることにした。


オルガはエドワールが滞在する屋敷であれば人目を気にせず会いに来れるので、会議が長引いているのもあり度々訪れていた。


「今日もエドワール様は遅いのかしら」


納屋でセバスチャンの為の干し草を新しいものに替えていたのは、ヴァレリーとファブリスだった。

セバスチャンの被毛の手入れは、もっぱらヴァレリーの仕事だった。

セバスチャンは巨体をゆったり投げ出し、気持ちよさそうに目を細めている。


「どうも、一筋縄ではいかないようだなあ」


干し草の束を分解しながら、ファブリスが呟く。

既にクレイアイスに来てから2ヶ月が経とうとしていた。


「オルガ……本当にいいのかしら」


「王女として決めちまったんなら、もう俺たちにはどうすることもできんさ」


「そうだけど……」


「あのお嬢ちゃんが背負うものは、俺たちじゃ背負いきれんものだ。わかってるんだろう?」


ヴァレリーは俯く。

本当はちゃんとわかっている。

オルガはレイダリアやクレイアイスのことを考えて、選んだのだということを。


「でも、私はオルガともう会えなくなるんじゃないかって……ううん。それだけじゃないの。オルガが、オルガ自身の気持ちがもし、結婚したくないのなら」


「それは本人に聞いてみねえとな」


ファブリスが優しくヴァレリーの頭を撫でる。

セバスチャンも、いつの間にか止まっていたヴァレリーの手を、優しく撫でた。


「2人とも、ありがとう」


ヴァレリーは微笑むと、気を取り直して干し草をばら撒いた。

考えていても仕方がない。

聞いてみればいいのだ。


「ピィー」


甲高い鳴き声を響かせて、ピィが納屋に入ってきた。

すっかり傷も良くなり、少しの距離なら飛んで移動できるようになった。

その飛行練習に付き合っているのは、意外にも青年だった。


「お帰りなさい、ルーさん、ピィちゃん」


遅れて納屋に入ってきた青年に声を掛けながら、ヴァレリーは微笑んだ。

ピィがここまで上手に飛べるようになったのも、青年のおかげだ。


「ピィ!ピィ!」


当然のようにセバスチャンの頭の上に着地する。

セバスチャンは動じない。


「ああもう、こんなに泥だらけになって。お湯を借りてくるから、ルーさんここお願い!」


ヴァレリーが泥だらけのピィを見て、慌てて駆けていく。

お陰でセバスチャンの頭も泥だらけになっていた。


「ピィ?」


ピィが首を傾げて青年を見る。


「お前が汚れてるから、洗うんだ」


「ピィ!」


不思議なことに、青年とピィにはある種意思の疎通が図れているようだった。

ファブリスはそんな青年とピィをしげしげと眺める。


「意外と面倒見がいいんだなあ」


「そんなことはないが、親を見つけると約束したからな」


「ははあん。義理堅いってわけか。俺は嫌いじゃないぜ」


ファブリスは笑うと、敷き終わった干し草を綺麗にならした。


「さて、俺は少しぶらついてくる」


ファブリスが出て行ったのと入れ替わりに、ヴァレリーが召使いに手伝ってもらいお湯の入った桶を持ってやってきた。


「さ、お風呂よ!」


袖を捲り、ピィを桶に入れる。

ピィは気持ちよさそうに目を細め、布で泥を落としてもらうのを待っている。


「偉いわねー。ピィが終わったら、次はセバスチャンね。でもあなたが入れる桶はないのよね」


困ったようにヴァレリーが言うのを聞いて、一瞬セバスチャンの毛が逆立ったのだが、ヴァレリーは気がついていない。


「さ、終わったわ!確か家畜用の温泉があるってきいたから、後でセバスチャンも使えないか聞いてみるわね」


ヴァレリーが楽しそうに話す横で、セバスチャンの鼻がクーンと哀れに鳴ったのは言うまでもないだろう。

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