謁見【4】
どこかで見ていたのか優れた嗅覚の賜物か、セバスチャンが風のように駆けてきてヴァレリーに擦り寄る。
すっかり懐かれているようだった。
「一緒に連れて行っても大丈夫かな」
逞しい胸の辺りを撫でてやりながら、オルガが言う。
「元々そのつもりだったんだろ」
最早反対する気がないのか、青年が言った。
そもそもこの街道を待ち合わせ場所に指定した時、ヴァレリーはエドワールに荷馬車の用意を頼んでいた。
出来れば、引かせる動物の大きさが調節できるタイプでという注文つきで。
その段階で、青年には予想が出来ていた。
ヴァレリーは、セバスチャンに荷馬車を引かせるつもりなのだ。
「お待たせしました」
オルガがエドワールと数人の騎士、それに二頭の馬に引かせた荷馬車と共に現れた。
荷馬車は大人が2、3人なら余裕で横になれる程の広さがあり、雨よけの幌が張られていた。
「こんなに立派なものをお借りしていいんですか?」
「ああ、構わないよ」
「ありがとうございます」
ヴァレリーは嬉しそうに微笑むと、一緒に来た騎士たちに手伝ってもらいながらセバスチャンに荷馬車を引かせる準備をし始めた。
セバスチャンは嫌がるかと思ったが、そんな素振りも見せず大人しくしている。
留め金は複雑な造りをしているわけではなく、どうやら土の魔術を込めることによって固定したり解除したり出来るようだった。
これなら、急遽戦いになっても大丈夫だろう。
「いい子ね」
ご褒美なのか、ヴァレリーが荷馬車から干し肉を出してやると、セバスチャンは満足そうにぺろりと食べてしまった。
「それじゃあ急ごう。2、3日中には隣国へ着いていたい。どんなに遅れても一週間だ」
「気をつけて。連絡を待っている。ヴァレリー、この宝玉に魔力を込めれば我が騎士団の魔術師に連絡ができる。頼んだよ」
エドワールがエメラルドに似た宝玉を差し出す。
風の魔力を封じ込めたマジックアイテムで、遠くの者が魔力を感応させることで連絡を取りあえるのだ。
ギルドにある通信用の宝玉より感度は落ちるが、短距離であれば問題ない。
青年たちは改めてエドワールに別れを告げると、一路北へ向けて歩き出した。
最初に目指すのは隣国ミリューだ。




