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26/66

◇26◇ また助けられました(例によって物理)。

   ◇ ◇ ◇



 一言で言って、お祭りはとても楽しかった。



 あちこちで音楽を奏でる人がいて、男女がダンスをしている。

 食べ物の出店がたくさんあって、いろいろないい匂いが流れてくる。

 活気があふれる人々の声が行きかう。

 みんな幸せそうだ。


 屋台の食べ物は、どれも迫力のある大きさでびっくりした。

 見たことがないほど大きなソーセージ、具材のうえにとろけたチーズがたっぷりかかったパン、生地のなかにクリームがこれでもかと詰まった焼き菓子、ハーブをたっぷりかけてベーコンを添えた揚げ芋。


 とっても美味しそうだけど量が多いと食べきれないので、手を出すのをためらっていると、「ほら、フランカにも分けてあげる」と、分けてくださった方がいた。


 そっか。分け合えばいいのね。

 頭の中のお父様が『そんな行儀の悪いことを!』と叱った気がしたけど、ごめんなさい、いますごく楽しいんです。


 そうやって、みんなと分け合った食べ物はどれもすごく美味しかった。

 おしゃべりするのも、いつもにも増して楽しかった。

 流れている音楽に、とても気持ちが盛り上がる。



「あ、ごめん、私ここで離脱するわ」



 恋人を見つけたらしいジュリアさんが声をかけて、一団を離れた。皆さんブーイングの嵐。


 射的ゲームでリュドミラさんの腕前をみせてもらったり(彼女はそのまま元傭兵仲間と飲みに行った)。

 大道芸に見とれたり。

 女の子同士でダンスしたり……。


 どれぐらい時間がたっただろう。文字どおり時がたつのも忘れていた。



(ヘリオスはお祭りに間に合うのかしら?)



 ふと、そんなことを考えていると、周りの女性の使用人の皆さんが、わっと声をあげた。



「キャー!この髪留め可愛い!」

「このネックレス、好き!」

「これ、あんたに似合うんじゃない?」

「うーん、私はもうちょっと派手な方が…」



 金属細工のアクセサリーの屋台だ。

 宝石が付いているわけではないけど、繊細で精密に描かれた飾りがキラキラと目を奪う。

 こんなものもあるのね。


 先にいた男女連れのお客さんが気おされる勢いで、みんなアクセサリーに夢中になっていた。


 一方、男性陣も、お酒をだす屋台を見つけて目を輝かせる。

 気が付いたら、増えた人波の中で、私は一人、みんなから離れてしまった。



(私も何か屋台を見ようかしら)



 きょろきょろと周囲を見回すと、不意に、誰かが私の手を掴んだ。



(……?)



 知り合い?かと思って掴まれた手の方を見ると、見たことのない男性がにやにやと笑っていた。

 ……ぞわ、と、気持ち悪いものが背筋を這いあがった。

 手を引く。引き抜けない。


 その男性の仲間らしい人が、彼を挟むように立っていたのが、私を囲むように回り込んだ。



「かわいいねぇ。お兄さんたちと一緒に行かないかい?」


「一緒に来ている方が! いますから!」



 できるだけ大きな声を出す。

 けれど周囲の人の声が騒がしくて、使用人の皆さんのところまで声が届いた感じはしない。



「ちょっと抜け出したっていいだろ?」

「女同士遊んでたってつまんないよー。こっちは楽しいよー」

「怖がらなくていいよぉ。何もしないからぁ」



(……囲んでいる時点で『何か』してますけど!?)



 腕を掴んでいたと思ったら、今度は両肩に手を置かれた。

 ゾワゾワと、背筋が冷たくなる。これは、恐怖だ。危ない。この状況は。


 声を。できるだけ大きな声を。ゆっくり。息を吸って。深く。



「無理です!」



 声をぶつけ、男性たちの手を一気に振りほどく……つもりだった。

 現実には私は力負けし、男性たちの間から逃げることができなかった。



「……あ? なんだよ、コイツ調子に乗りやがって」



 しかも、何か怒ってる!? 何も調子に乗っていないんですけど!?



「やめろよ、恐がらせちまうだろ?」

「さっさと連れて行こうぜ」



 まるで引きずるように私をどこかに連れて行こうとする。

 どこに連れて行って何をしようというのかわからないけど、たぶん、間違いなく私にとって悪いことが待ってる。

 夢中になって、男性たちの身体をポコポコ殴った。なすすべなく引きずられていく。腕をひっかいた。手をねじり上げられた。どうしよう、これは……!?



 うつむいた私の耳を、聞き覚えのある衝撃音が襲った。



(………?)



 顔を上げた時、目の前にいた男性が、斜めに身体を倒しながら、ゆっくりと倒れていくところだった。

 まるでそれは、ほんの一瞬前に誰かになぐりたおされでもしたような……?


 ふいに、鼻腔をくすぐる覚えのある匂い、気配、体温。

 次の瞬間、


「ごぐぎゃっ」


 隣にいた男性が、顔面に何か鈍器を振り落とされたような声を出した。

 一瞬だけ見た。誰かの()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、思い切り(つち)を振り下ろすようにその男性の顔面に落とされていた。


 男性が倒れていくと同時に、私の身体は長い腕に絡み取られた。

 いよいよ覚えのある匂い、胸、体温に包まれる。



「……ヘリオス?」



 見上げると、かたちの良い(あご)と、傷跡。

 綺麗な銀髪と、アイスブルーの瞳。手足の長い細身の身体、でも頼もしいぐらいしっかりした身体。


 ヘリオスが私を抱きしめ、最後の一人の男性をにらみつけていた。


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