◇26◇ また助けられました(例によって物理)。
◇ ◇ ◇
一言で言って、お祭りはとても楽しかった。
あちこちで音楽を奏でる人がいて、男女がダンスをしている。
食べ物の出店がたくさんあって、いろいろないい匂いが流れてくる。
活気があふれる人々の声が行きかう。
みんな幸せそうだ。
屋台の食べ物は、どれも迫力のある大きさでびっくりした。
見たことがないほど大きなソーセージ、具材のうえにとろけたチーズがたっぷりかかったパン、生地のなかにクリームがこれでもかと詰まった焼き菓子、ハーブをたっぷりかけてベーコンを添えた揚げ芋。
とっても美味しそうだけど量が多いと食べきれないので、手を出すのをためらっていると、「ほら、フランカにも分けてあげる」と、分けてくださった方がいた。
そっか。分け合えばいいのね。
頭の中のお父様が『そんな行儀の悪いことを!』と叱った気がしたけど、ごめんなさい、いますごく楽しいんです。
そうやって、みんなと分け合った食べ物はどれもすごく美味しかった。
おしゃべりするのも、いつもにも増して楽しかった。
流れている音楽に、とても気持ちが盛り上がる。
「あ、ごめん、私ここで離脱するわ」
恋人を見つけたらしいジュリアさんが声をかけて、一団を離れた。皆さんブーイングの嵐。
射的ゲームでリュドミラさんの腕前をみせてもらったり(彼女はそのまま元傭兵仲間と飲みに行った)。
大道芸に見とれたり。
女の子同士でダンスしたり……。
どれぐらい時間がたっただろう。文字どおり時がたつのも忘れていた。
(ヘリオスはお祭りに間に合うのかしら?)
ふと、そんなことを考えていると、周りの女性の使用人の皆さんが、わっと声をあげた。
「キャー!この髪留め可愛い!」
「このネックレス、好き!」
「これ、あんたに似合うんじゃない?」
「うーん、私はもうちょっと派手な方が…」
金属細工のアクセサリーの屋台だ。
宝石が付いているわけではないけど、繊細で精密に描かれた飾りがキラキラと目を奪う。
こんなものもあるのね。
先にいた男女連れのお客さんが気おされる勢いで、みんなアクセサリーに夢中になっていた。
一方、男性陣も、お酒をだす屋台を見つけて目を輝かせる。
気が付いたら、増えた人波の中で、私は一人、みんなから離れてしまった。
(私も何か屋台を見ようかしら)
きょろきょろと周囲を見回すと、不意に、誰かが私の手を掴んだ。
(……?)
知り合い?かと思って掴まれた手の方を見ると、見たことのない男性がにやにやと笑っていた。
……ぞわ、と、気持ち悪いものが背筋を這いあがった。
手を引く。引き抜けない。
その男性の仲間らしい人が、彼を挟むように立っていたのが、私を囲むように回り込んだ。
「かわいいねぇ。お兄さんたちと一緒に行かないかい?」
「一緒に来ている方が! いますから!」
できるだけ大きな声を出す。
けれど周囲の人の声が騒がしくて、使用人の皆さんのところまで声が届いた感じはしない。
「ちょっと抜け出したっていいだろ?」
「女同士遊んでたってつまんないよー。こっちは楽しいよー」
「怖がらなくていいよぉ。何もしないからぁ」
(……囲んでいる時点で『何か』してますけど!?)
腕を掴んでいたと思ったら、今度は両肩に手を置かれた。
ゾワゾワと、背筋が冷たくなる。これは、恐怖だ。危ない。この状況は。
声を。できるだけ大きな声を。ゆっくり。息を吸って。深く。
「無理です!」
声をぶつけ、男性たちの手を一気に振りほどく……つもりだった。
現実には私は力負けし、男性たちの間から逃げることができなかった。
「……あ? なんだよ、コイツ調子に乗りやがって」
しかも、何か怒ってる!? 何も調子に乗っていないんですけど!?
「やめろよ、恐がらせちまうだろ?」
「さっさと連れて行こうぜ」
まるで引きずるように私をどこかに連れて行こうとする。
どこに連れて行って何をしようというのかわからないけど、たぶん、間違いなく私にとって悪いことが待ってる。
夢中になって、男性たちの身体をポコポコ殴った。なすすべなく引きずられていく。腕をひっかいた。手をねじり上げられた。どうしよう、これは……!?
うつむいた私の耳を、聞き覚えのある衝撃音が襲った。
(………?)
顔を上げた時、目の前にいた男性が、斜めに身体を倒しながら、ゆっくりと倒れていくところだった。
まるでそれは、ほんの一瞬前に誰かになぐりたおされでもしたような……?
ふいに、鼻腔をくすぐる覚えのある匂い、気配、体温。
次の瞬間、
「ごぐぎゃっ」
隣にいた男性が、顔面に何か鈍器を振り落とされたような声を出した。
一瞬だけ見た。誰かの振り上げた長い足の、革のブーツのかかとが、思い切り槌を振り下ろすようにその男性の顔面に落とされていた。
男性が倒れていくと同時に、私の身体は長い腕に絡み取られた。
いよいよ覚えのある匂い、胸、体温に包まれる。
「……ヘリオス?」
見上げると、かたちの良い顎と、傷跡。
綺麗な銀髪と、アイスブルーの瞳。手足の長い細身の身体、でも頼もしいぐらいしっかりした身体。
ヘリオスが私を抱きしめ、最後の一人の男性をにらみつけていた。




