◇15◇ 美味しいものは大好きです!
◇ ◇ ◇
「オレンジー!! チェリー!! プラム!!
美味しそう~!! いただいていいんですか、これ!?」
時には、他の使用人の皆さんと美味しいものをいただくこともある。
今日はお城の厨房に呼ばれたと思ったら……テーブルの上に、果物が並んでいた。
「先代の領主さまがご存命の時に植えた品種がようやく実ったんですって。
というわけでみんなで試食しましょう」
「新しい品種ってことですか?」
「同盟国の王族とご親戚だったとかで、お願いして気候に合う品種の苗を贈っていただいたそうですよ」
「へぇ……」
私は綺麗にカットされたオレンジにフォークを突き刺して、口に入れた。
美味しい! すごく美味しい。
じゅわっと口に広がる甘酸っぱい果汁とさわやかな香りが最高。
「新鮮な果物は、王都でも結構ぜいたく品でしょ?
ここは王都から比較的近いから、生産が軌道に乗ったら結構がっぽり儲かるわよね」
料理人のリュドミラさんがプラムをかじりながら笑う。ヘリオスよりも背が高い女性で、たぶんお歳は40歳ぐらい。元傭兵だとか。
「試しにマーマレードとアプリコットジャムも作ってみたから、こっちもパンに塗って食べてみてよ」
「嬉しい! ありがとうございます!」
「カスタードクリームに合うじゃない、このチェリー」
「貴族のお茶会のケーキなんかにいいんじゃないかしら」
「ねぇ、どう思う? フランカ? お茶会出たりもしていたんでしょう?」
いきなりあさっての方向から話を振られて、ビクッとする。
「そ、そうですね、お茶会のお菓子は、……ジャムか、ドライフルーツか砂糖漬けが多かったから、新鮮な果物はたまに入ると嬉しくて……やっぱり喜ばれると思いますよ…」
と、どうにか返した。
ふんふん、と皆さんはうなずくと、
「なるほど、普段使われているのはジャムやドライフルーツや砂糖漬けね。お菓子の材料として両路線で売り込めるね」
「そうだな、日持ちがして馴染みのある商品で入り込みつつ、生の果物を売り込んでいく感じで」
「エルドレッド商会が、最近外国で開発された固形チョコレートの輸入に力を入れてんだっけ。こっちも果物と相性いいと思うんだよ」
「お誕生日パーティーとか、ちょっと見栄を張りたいお茶会とか、財布のひもが緩むポイントを突きたいわね」
と、ぐいぐい話が進んでいく。
(……土地を潤わせるために、みんないろいろなことを考えるのね……)
大変勉強になります。
(…………お父様も、何かやってたのかしら。
あんまり記憶にないけど)
そんなことを考えていると、また不意に、
「フランカは王都にいたんでしょう?
いま、どんなものが流行っているの?」
と尋ねられる。
困った。私、そんなに流行に詳しくない……。
娯楽にふけるのは堕落だと教えられて、そうなんですねと従ってしまっていたから。
流行っている小説ぐらいしかわからないわ。
あとは……。
「ホットチョコレートが……美味しくて……あと」
ヘリオスが連れて行ってくれたカフェのことを思い出していると、その時、一緒にごちそうになったものを思い出した。
「最近食べたケーキが美味しかったです。
クリームの上を、ふわっと軽いゼリーがコーティングしていて、とってもくちどけが良くて。それで」
……というと、皆が顔を見合わせた。
あ、あれ? 私、何か変なこと言った?
「ゼリーって何?」
「私、食べたことない~」
「私はあるけど、もっとしっかりした食感の、料理に入ってくるやつじゃない? ケーキに?」
おおお……。まさかの、食べたことない人がいた。
そう、確かに、ゼリーは料理にも使うけれど……デザートとしてはあんまり広がっていないの?
「あ、そっか。
王都は冷やす技術が進んでいるから、この季節でも、あんまりゼラチンを入れなくても綺麗にゼリーが固まるんだ。
それでケーキと組み合わせたり…」
農学者のデインさんが、うなずきながらつぶやく。
「あ、あの……何か変でした??」
「普通は結構多めに入れないといけなくて、くちどけのいい食感にならないんだよね。
でもそういう技術があるなら、今後は夏向けのゼリーに合うフルーツはマストだよなぁ。それもさわやかな感じの。
まだまだ貴族の間でだけ食べられているムースも、そろそろ平民にも広がるかも。
参考になったよ、ありがとう」
え、これ、役に立つ情報…だったのかしら?
よくわからないけど……遊んだり娯楽を楽しんだりすることも、仕事で役に立ったりするのね。
今度王都に出ることがあったら、流行とかしっかり見てこよう、むしろしっかり遊んでこよう、と重々反省したのでした。
――――その時。
耳のいいリュドミラさんが何かに気づいたらしく、窓の外を見る。
にやっと笑って、「フランカ、フランカ」と私を手招きする。
「なんです? どうしました?」
「ほら、見な?」
リュドミラさんが指さす外を、私は見た。
その意味を理解した途端、私は厨房から飛び出していた。
◇ ◇ ◇




