先生、質問です!
実に素晴らしい、恋愛小説を読んだ。
読み終わった後も、私という意識体の中で、余韻が揺蕩っている。
私という存在の中に、恋愛小説が、染み込んでいる。
私という存在の中に、恋愛小説が、取り込まれている。
恋愛小説を読んでいなかった昨日の私と、恋愛小説を読んだ今日の私は別人だ。
物語の中の恋を知り、物語の中の恋に心を震わせ、物語の中の恋を見守り、物語の中の恋に満たされた。
満たされた目で見る世界はずいぶん華やかで、愛おしい。
満たされた心で感じる世界はずいぶん美しく、麗しい。
ああ、恋愛小説、実に素晴らしい。
恋愛小説よ、永遠なれ。
今日はいい夢を見られるに違いない。
―――、―――・・・
―――も~、先生ってば、背、高すぎ!
―――便利でしょ?はい、これあげる。
―――幸せそうだね!先生と一緒に掲示板係!
―――べ、別に?!
―――顔、にやけてるけど!
―――先生、質問です!
―――おお、なんだ?何でも聞いて良いぞ!
―――誕生日、いつですか?
―――センセー、さよーならー!
―――おう、気を付けて帰るんだぞ!また明日なー!
……また明日は、来ないってね。
……ふふ、甘酸っぱい、なあ。
……先生の事、好きなくせに。
……今日は先生の夢見るんだって、思ってるくせに。
ああ、夢が。
……幸せな夢が、さめてゆく。
夢の余韻に浸る私は、目を、閉じる。
夢の余韻に浸りたい私は、目を、閉じたまま、夢を自分の中に刻み込む。
忘れたくない、夢を、自分に刻み込む。
幸せな記憶として、夢を、自分に、刻み込む。
私が女子高生だった時など、もう何億年も昔の事だ。
私が女子高生であった時は、先生と気さくに話した日など存在しなかった。
私が女子高生であった時に、誰かを愛おしいと思った瞬間など訪れたことはない。
夢の中では、普通の女子高生だった。
夢の中では、普通に女子高生でいられた。
目が覚めてしまえば、私は普通の女子高生を経験しなかった、ただの老いた者。
目が覚めてしまえば、私は普通に恋を経験することができなかった、ただの孤独な者。
目を開けてしまえば。
寂しい、現実が。
……大丈夫。
……夢は、心に、刻み込んだ。
……幸せな記憶を、また一つ、得た。
さあ、目を開けて。
ステキな記憶を、綴りましょう。
ぱちりと、目を、開け。
「……こら。授業中に居眠りとか、ダメだろ。」
「……はへっ?!」
「お前は、個人授業だな。……覚悟しとけよ?」
「ご、ごめんなさい……。」
ポン、ポン……。
先生の、大きな手が。
私の、頭を、優しく……撫でる。
……胸の、高鳴る、鼓動。
……顔が、ずいぶん、熱い。
……心が、少し、切ない。
……二度寝、したのかも、知れない。
これは夢だと、自分の中で警告する、意識。
……夢と、現実の切り替わりが、不要になったのかもしれない。
これは現実ではないと、自分の中で警告する、意識。
夢か、現実かなんて……知る必要は、ない。
さめる夢なのか、さめない夢なのか……知る必要は、ない。
今、私は、先生に、恋をしている。
それだけが……事実。
今、恋をしている自分がいる。
それだけが……真実。
……でも。
「センセー!質問でーす!!!」
「おお、なんだ?」
「これは、現実ですか?それとも……」
「はは……、こ こ は




