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 修学旅行の荷解きをしていると、蓮見から貰ったオルゴールが出てきた。

 これ、帰ってから開けてと言っていたけど……。

 なんか、開けるのこわいな。

 荷解きが終わってから開けよう。

 とりあえず、オルゴールを机の上に置いて、私は荷解きを続けた。



 荷解きが終わって落ち着いたところで、私はオルゴールを手に取る。

 小さめの箱を解くと出てきたのは、水色の可愛らしい楕円形の形をしたオルゴール。

 大きいスワロフスキーが目を惹く。

 これを蓮見が買っている姿を思い浮かべると、微笑ましい。

 そっとオルゴールを開くと、星に願いを、が流れた。

 しばらくオルゴールの音色に耳を傾けたあと、オルゴールの中を見てみる。

 どうやらこのオルゴール、ジュエリーボックスにもなるようだ。

 あれ?何か入っている……。


 黄緑色の石……これはペリドットだろうか?

 私の誕生石である。そのペリドットを使ったブレスレットが入っている。

 ペリドット以外にも、アクアマリンやブルーグリーンのアパタイトも使われているみたいだ。とても綺麗なパワーストーンのブレスレットである。

 でも、どうしてこれが?

 もしかして、蓮見が間違えて入れちゃったとか?

 それにしても間違えて入れた物に私の誕生石が入っているなんてことあるのだろうか?

 私がブレスレットを手に取ると、ブレスレットの下に小さいメモ用紙が入っていた。


『早すぎるけど、誕生日プレゼント。

 来年はきちんと君の誕生日にプレゼントできますように』


 蓮見の几帳面な字で書かれたメモに私の胸が高鳴った。

 蓮見らしくない、サプライズプレゼント。

 本当に……早すぎるよ。私の誕生日、8月なのに。

 もう……ばか。嬉しいじゃないか……。

 ほろり、と私の目から涙がこぼれた。

 嬉しくて泣くなんていつ以来だろう……?

 あ、蓮見が美咲様に会わせてくれると言った時以来か。

 本当に、嬉しすぎても泣けるものなのだと改めて実感する。


 でも、ね。

 これって蓮見のアイディアじゃないよね?

 だってこういうのやる人じゃないもの。

 誰の入れ知恵だろう?


 私が考えて思いつくのは、二人しかいない。




 美咲様を問い詰めると、美咲様はペロッと白状した。


「奏祐がね、誕生日プレゼントを用意しているって、知っていたのよ。本当は去年渡したかったそうだけど、中々機会がなくて渡せずに困っていたみたいだから、じゃあ、修学旅行で渡せばいいじゃない、と言ったのよ」

「……それで、オルゴールの中に?」

「ええ。小樽にはオルゴールのお店があるものね。ジュエリーボックスになるオルゴールを買ってプレゼントしなさいって言ったの」

「そうなの……」

「それにね、昴も協力したくれたのよ。あの日、二人きりで小樽を回れたでしょう?」


 ふふ、と楽しそうに笑う美咲様はとてもかわいらしい。

 しかし、私の美咲様の話に笑いかけた表情が固まる。


 あのヘタレ……!私と蓮見をダシに使いやがったな……!

 美咲様とヘタレと合流したあと、ヘタレに「ごめんね」と言われてなんのことだかサッパリわからなかったけど、これのことだったのか……!


 でもまあ、美咲様も楽しかったみたいだし、いいか。

 蓮見が罰の悪そうな顔をしていたのも、普段と様子が違ったのも、美咲様とヘタレのせい。

 なるほど、な。これで謎はすべて解けた。

 あースッキリした。


「そのブレスレット、とても良く似合っているわ」


 にやり、と美咲様は笑って、私がしているブレスレットを褒める。

 蓮見にもらった物をさっそくつけてみたのだ。

 きっと美咲様もこれが蓮見からのプレゼントだと知っていて、褒めてくれたのだろう。

 だけど少し照れくさい。


「……ありがとう」


 私は蚊の鳴くような声でお礼を言うのが精一杯だった。




 修学旅行が終わればすぐに中間テストである。

 私は地道に勉強をしていたので、大して順位を落とさずに済んだけれど、修学旅行で浮かれすぎて順位を落とし、顔を青くしている生徒がちらほら見受けられる。

 そんな中で、一躍順位を上げた人物がいる。


「……へえ。奏祐、なんか絶好調みたいだね?」

「まあね」


 フッと余裕の笑みの蓮見に、ヘタレは引きつり笑いを浮かべた。

 ヘタレは浮かれに浮かれて順位を落としたくち。

 それでも20位内にはいるのだけど。

 蓮見はこの間の7位から一気に順位を上げ、1位に返り咲きした。

 2位はカイト。カイトも浮かれまくっていたのにそんなに順位は落としていない。

 ヘタレとのこの差はいったいなんなのだろう。

 ちなみに私は3位である。

 まあ、日頃勉強してますし?

 打倒蓮見の目標は変わらないので、順位を落とすわけにはいかないのである。

 私はあと1年で蓮見に勝つことができるのだろうか。

 いや、やってやる。絶対、「残念でしたわね、蓮見様?」と言ってやるのだ!

 私は、変なところで根に持つタイプです。




 中間テストが終われば次は体育祭だ。

 今年はヘタレと蓮見が同じクラスになってしまったので、恒例だったヘタレと蓮見のリレー対決が見られない。

 そのうえ、どちらをアンカーにするかでクラスは大揉めした。

 どっちでもいいんじゃないですかね~。

 と私は思うのだけど、どうも他の人たちはそうではないらしい。

 主に、ヘタレファンと蓮見ファンの人たちが。


「ぜったい、東條様をアンカーにするべきですわ!」

「いいえ。蓮見様こそアンカーに相応しいわ」


 クラスを二つに分けて対決する彼女たち。

 はっきり言って、クラスの男子はドン引きしている。

 男子ではないけど、私と美咲様もドン引きしている。


 このままでは決まらない―――

 そう誰もが諦めたそのとき、本人たちが重い腰をあげた。


「いい加減にしなよ、君たち」

「そうそう。君たちが言い争う必要はないよ。だって、僕たちはリレーに出ないから」


 ほわい?

 クラス中が驚いた顔をしてヘタレと蓮見を見つめた。

 私も驚いた。

 まさか、二人ともリレーに出ないとは。


「僕たちは今年、100メートル走に出るつもりだから。そこで奏祐と決着をつけるよ」

「そういうことだから。俺たちが原因でリレーの順番が決まらないのも悪いし、俺たちがリレーに出るのはやめることにする」

「ええ!?そんなぁ!二人が出ないと優勝がぁ……!」


 体育会系の男子生徒が嘆きの声を発する。

 そうだよね。二人がいればリレーの優勝は間違いないもんね。

 でも残念だったな。二人の決意は固いようだぞ。


「じゃあ、おれがリレーに出る~!アスカも一緒に出よ?」

「まぁ、人がいないならしょうがないな……」

「ユウも今年もリレー出るのかなぁ?ユウとの対決楽しみ~!」

「……君がアンカーをやるのか?」

「おれ、短距離自信があるんだー!任せてよ!」

「そ、そうか……」


 ここで救世主カイトが現れ、リレーのアンカー問題は解決した。

 うん、めでたしめでたし。



 その日の夜、私は弟に体育祭で出る種目を聞いてみた。


「オレ?100メートルとリレー。リレー出るつもりなかったんだけど、どうしてもって頼まれちゃってさ……」

「そうなの……。ちなみに私のクラスでは、100メートルは東條様と蓮見様、リレーはカイと飛鳥くんが出るのよ。負けないように頑張ってね?」

「えっ……?うわぁ……勝てる気がしない……。……カイ兄がアンカーだったらオレ……」

「…………」

「まさか……?」

「……なんというか……頑張ってね、悠斗。お姉ちゃんは応援しているわ」

「嘘だろ……?」


 弟が絶望のあまりに頭を抱えだした。

 どれだけ苦手なんだよ、カイトのこと。

 まあ、カイトは本当に足が速いし、弟との勝負はいい勝負になるだろう。

 ヘタレと蓮見がいなくても今年も盛り上がることは間違いない。

 体育祭のために犠牲になりたまえ、弟よ。





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