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 私が集合場所へ行くと、みんなもう集まっていた。

 来るのが少し遅かっただろうか?

 これでも余裕をもって来たつもりだったけど。


「ごきげんよう、皆さん。私、遅かったでしょうか?」

「ごきげんよう、凛花。いいえ。私たちが早く来すぎてしまっただけなのよ」

「……昴のせいでね」

「僕のせいなの?」

「そうだろ。朝早くから電話してきて……お蔭でこんなに早く来ちゃったじゃないか……」

「だって、楽しみだったんだもん……」

「もん、とか言わないでよ。気持ち悪い……」

「酷いっ!奏祐が酷い!助けて、神楽木さん!」

「……東條様、朝から元気ですね」

「うざいくらいにね」

「ふふ。昴はこういう行事になるとはしゃいでしまうのよね」


 小学生か!

 朝からこのテンションで疲れないのかな……?

 ずっとこのテンションでいられたら、付き合うこちらがたまらない。


 ヘタレにげんなりしつつ、私たちの修学旅行が、始まる。




 私たちが飛行機に乗り込んでしばらくすると、飛行機が動き出す。

 離陸する瞬間の気持ち悪さは慣れない。

 しばらくは暇だ。朝も早かったし寝てようかな……。


「神楽木さん、これ食べる?」

「リンちゃんこのチョコ美味しいよー?」


 ……私の睡眠の邪魔をする輩が現れた。

 しかも手に美味しそうなお菓子を持っているときた。

 嫌がらせですか。私は寝たいの!

 ……まあ、そのお菓子はいただくけどね?


 私はヘタレとカイトからお菓子をもらうと、すぐにアイマスクをして、私は寝ます!オーラを出す。

 ふっ。これで私の睡眠を邪魔をする者はいまい……。


「ねえ、神楽木さん。自由行動なんだけど……」

「ねえねえリンちゃん。ホテルってどんなとこかなぁ?温泉とかあるのかな?」


 いたよ。ここに二人いたよ。

 お前ら空気読めよ。私は寝たいんだってば!

 しかし真面目な私は律儀に「その話はあとでお願いします」「温泉はあると思うわ」と返事を返す。

 真面目な自分が憎い。

 今度こそ寝るぞー。


「神楽木さん」

「リンちゃん」


 プチッ。私の何かがキレる音がした。


「うるさい!!私は眠いの!寝させて!!」


 私が怒鳴ると、ヘタレとカイトは目を白黒させて私を見る。

 私はフン!と鼻を鳴らし、今度こそ寝る態勢に入る。

 どこかから、ぼそりと呟く声が聞こえる。


「君の声が一番うるさい……」

「しっ!言うな、蓮見……」


 ……悪かったですね。だってあいつらうるさいんだもん……。

 これから声のボリュームには気を付けよう……。




 北海道に到着すると、私たちは最初の目的地である牧場へ行く。

 そこで乳しぼり体験や乗馬体験をできるそうだ。

 乳しぼりで絞った牛乳を飲んでみたいな~。

 美味しいチーズもあるかな?ヨーグルトは?アイスは?

 私は食べ物のことばかり考えてしまう。

 北海道は食べ物が美味しいと言うし、食べ物のことばかり考えてしまうのは致し方のないことなのだ。



「君、食べ物のこと考えているだろ」

「な、なぜそのことを……?」


 もしかして、蓮見ってエスパー?

 超能力まで使えるの?どこまでハイスペックなんだ、蓮見は。


「……君の顔見ればわかるよ」

「え?そうですか?」

「確かに、わかりやすいよね」

「それが凛花の可愛いところだわ」


 ……どうやら蓮見が超能力を使ったわけではなく、私がわかりやすいだけだったようだ。

 誰か一人くらいは否定してくれると期待したのに、誰も否定してくれない悲しさ。

 そんなに私って考えていることが顔に出るかなぁ?



 修学旅行は、3泊4日だ。

 一日目の宿泊先は、登別温泉だった。

 うぉう……硫黄の匂いが……。

 でもこれって本当は硫黄の匂いじゃないんだよねえ~。

 硫黄自体に匂いがあるわけではなくて、温泉に含まれる硫化水素に匂いがあるんだそうな。

 ちょっとした温泉マメ知識である。

 いや、テレビでやってたのを見ただけなんだけれども。


 夕飯を食べたあと、温泉に入って満足をした私と美咲様は部屋に戻っておしゃべり大会を開催する。

 最近あった事、明日の事、恋の話……などなど、話は尽きないが、就寝時間になったので布団に入って寝ることにした。

 明日も早いし、なによりラフティングが待っている。

 ラフティングに備えて私たちは早めに就寝した。



 ラフティングの時間がやって参りましたー!

 私たちはウェットスーツに着替え、その上にさらにライフジャケットを着用し、ヘルメットを被る。

 そしてパドルを両手で持ち、ラフティングをする準備はオーケーだ。

 さあ、やるぞ!落ちないようにがんばるぞ!

 私は意気揚々とボートに乗り込む。

 インストラクターのお兄さんの操縦の腕前を信じているよ!


 そして始まったラフティング。

 始めはゆっくりと流れていく。

 そして川の流れが激しくなるとスピードも上がっていく。

 インストラクターのお兄さんの指示に従って私たちはパドルで漕ぐ。

 ラフティングは、なかなか楽しい。

 周りの景色を楽しめる。自然を感じられて、とても爽快な気分になった。

 途中で岩にぶつかったりしたけれど、ボートから落ちることなく私たちはゴールした。


 ふう、良かった。

 私が安心しきってボートから降りると、足を滑らせて転びそうになる。

 転ぶ!と思った時、私は蓮見、美咲様、ヘタレの三人に同時に支えられる。

 ふう……助かった。

 3人とも、ありがとうございます。と私がへこりと頭を下げる。


「凛花、大丈夫?」

「気を付けてよ。本当に君はドジなんだから……」

「まあ、そこが神楽木さんらしいよね」


 美咲様は相変わらず天使であるとして。

 蓮見とヘタレは相変わらず私に厳しい。

 しかし言っていることは正しいので、私は反論もできず、すみません、と小声で謝ることしかできなかった。



 ラフティングのあとは、シルバーアクセサリー作り体験だ。

 私は真剣な表情でシルバーアクセサリー作りに取り組む。

 私は指輪を作ることにした。

 あ、ああ!し、失敗した……。

 いや、ここをこうしてこうすれば……う、うん……なんとか誤魔化せた……かな?

 いや誤魔化せたと思っておこう。うん。

 できたものは後日郵送してくれるそうだ。

 仕上がりが楽しみなような、こわいような……。



 2日目のホテルは一人部屋なので、私はボディーケアをしつつ、まったりとする。

 あー。疲れたなぁ。でも楽しかったなぁ。

 お友達の部屋に遊びに行こうかと思っていたけど、疲れたから寝ちゃお。

 おやすみなさー……ん?


 私の携帯がブルブルと震えている。

 なんだろう。電話?

 私は恐る恐る出てみる。


「もしもし……?」

『あ、僕だよ、僕』

「あ、すみません。間に合っています。私は大丈夫ですので、お引き取り願えます?」

『なんの話?もしかして、電話、切ろうとしてる?』


 今、私の指は終了ボタンを押そうとしていた。

 危ない。あと1秒でも早かったら切っていた。

 電話を途中で切った日には、あとでヘタレからなにをされるかわからない。

 ああこわいこわい。


「まさか。ちょっとした冗談ですわ」

『そうだよねぇ。神楽木さんが僕からの電話を途中で切るなんてするわけないもんねぇ?』

「ええ、その通りです。私がそんなことするわけないでしょう?私とすばるんの仲だもんねっ☆」

『そうだね、りんちゃん?』


 うふふふ、と電話越しに笑い合う私たち。

 しかし私の背中には冷や汗が流れている。

 電話切らなくて、本当に良かった。


「それで、なんのご用でしょうか?」

『ああ、そうそう。明日の自由行動なんだけどね……』

「わかっていますわ。私がうっかり迷子(・・・・・・)になって、美咲と東條様から離れる。そして待ち合わせ時間に待ち合わせ場所に行く。でしたよね?」

『その通りだよ。よかった。ちゃんと覚えていたんだね?』

「これくらい覚えていられますわ」


 馬鹿にするな。

 勉強は、できるんだぞ。勉強は。


『じゃあ、明日は計画通りに。よろしく頼むよ』

「ええ、お任せください」

『じゃあ、おやすみ』

「おやすみなさい」


 ヘタレからの通話が途切れたのを確認して、私は携帯を置く。

 明日は自由行動日か……。

 小樽を回るときに美咲様たちとはぐれる予定になっている。

 チョコレート、美咲様と食べたかったんだけど、仕方ない。


 蓮見と二人で、小樽を回る。

 そういう計画だけど、どきどきする。

 だって、ほら。これ、デートみたいじゃない?

 そう考えると、心拍数が急上昇する。


 ああ、緊張してきた……!

 明日に障りがでないように、早く寝なきゃ。


 そう思っても、興奮した私はなかなか眠りにつけなかった。

 考えないようにしていたのに、ヘタレの電話のせいでどうしても小樽についてからを考えてしまう。


 ……電話をしてきたヘタレを恨んでおこう。

 心の中で恨むくらいなら、なにも怖い目には遭わないはずだしね。




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