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 冬休みに入った。

 特に予定も入っていなかった私はひたすらほんやりと過ごした。

 寝ても覚めても考えるのは蓮見のことばかり。

 クリスマスパーティーのことを思い出してはため息をつく。

 あぁ、これが恋する乙女なのか……。


 って。私はこんなキャラだったか?

 あれ?こんな乙女ちっくなキャラだっか?

 答えはノーだ。

 私はそんなに乙女ではない。

 だから、こんなのは私ではない。

 そう私はもっと……あれ?

 私ってどういう人間だっけ?

 考えがどんどん迷走していくので、自分のキャラについては考えるのはやめておこう。


 私はごろんとベットに仰向けに寝転ぶ。

 そしてぼんやりと天井を眺める。

 そしてまた思考は蓮見のことに戻る。


 もし、もし。私が蓮見に自分の気持ちを伝えたら?

 そうしたら、付き合っちゃったりするのだろうか?

 付き合って、なにするの?

 キスしたり……その先も、しちゃうのだろうか。

 え、待って。そんな、心の準備が……!


 いや落ち着け、落ち着くんだ私。

 まだ付き合ってすらないし、そもそも付き合うかどうかもわからない。

 そうだ。蓮見は前に私を好きだと言ってくれたけど、散々アホな行動をしている私に呆れて愛想を尽かせてしまったかもしれない。

 その可能性だって十分にあるのだ。


「……はぁ……」


 私は枕を顔に当てる。

 本当に、らしくない。

 考えたってしょうがないのに。


「ちゃお!リンちゃん!」


 いきなり明るい声が部屋に響く。

 私がガバッと起きてみると、何故かそこにカイトがいる。

 カイトの後ろにはカイトを必死に止めていた様子の菜緒もいて、なんとなく状況を理解する。


「カイ?どうして私の部屋にいるの?」

「菜緒が帰ってきたから、久しぶりに3人で遊ぼうよ!って誘いに来たんだ」


 にこにこと笑ってカイトは言う。

 いくら幼馴染みとはいえ、勝手に部屋に入ってくるのは勘弁してほしい。


「ごめん、凛花……私じゃコイツを止められなかったわ……」

「菜緒……仕方ないわ。それよりも、お帰りなさい」

「ただいま」


 私と菜緒が笑い合う。


「二人とも遊びに行こー?」


 カイトが空気を読まずに言う。

 ちょっとは空気読め!私と菜緒は感動の(?)再会をしているんだぞ!

 ……まぁ、カイトには無理か。諦めた。



「どこに?」

「そうだねぇ……遊園地とか?」

「却下」

「じゃあ、買い物しに行こうよ!そのあとご飯食べたりとか」

「まぁ、それなら……凛花もいいよね?」

「まぁ、それなら、ね」

「やったー!じゃあ、行こう!」


 こうして私たちは出掛けることになった。

 家にいても考え込むだけだし、いい気分転換になるよね。



 私たちはショッピングモールにやってきた。

 カイトはお洒落さんなので、私たちの買い物に的確なアドバイスをしてくれた。

 ファッションに関しては頼りになる奴だ。

 カイトは帽子が欲しかったらしく、帽子の有名ブランドのお店で試着を楽しんだ。

「これどお?」と言って私たちに感想を求めたり、逆に「これ似合いそう」と選んでくれたり。

 あちらこちらをフラフラするカイトに振り回されながらも、私たちは楽しい時間を過ごした。



「あー楽しかったぁ」


 カイトは満足気に言った。

 私たちは近くにあったパスタ屋さんに入り、少し早めの夕食を食べることにした。

 パスタの他にピザもあり、ピザはみんなでシェアすることにした。

 うーん、なに食べようかな。

 トマトソース?ここはこってりカルボナーラ?

 いやそれともさっぱり和風ソース?

 うーん、どれも捨てがたい。どうしよう。

 散々悩んだすえ、私はトマトソースのパスタを選んだ。

 トマトソースは服についたら目立つから、食べる時は気を付けよう。


「久しぶりに3人で遊んだね」

「そうねぇ……何年ぶり?」

「5年ぶりくらい、かな?」

「わぁ……なんか時代の流れを感じるわ」

「菜緒、婆くさいよ」

「うるさいっ!」


 久しぶりに聞く菜緒とカイトの漫才みたいなやり取りに私はクスリと笑いをこぼす。

 この二人のやり取りは、昔と変わらないなぁ。

 本当に懐かしい。


 昔と同じように談笑し合える私たちの幼馴染みという絆は、5年離れたくらいでは揺るぎないものなんだと思う。

 きっと何年、何十年経っても私たちは今と変わらずお喋りができるだろう。

 本当に、幼馴染みという絆は素晴らしいものだ。

 ずっと大切にしたい。



 私たちは料理を食べ終わり、店を出た。

 そのまま家路につこうとしたが、菜緒が店の中になにか忘れ物をしてしまったらしい。

 取りに行ってくるという菜緒を見送り、私とカイトはそのまま菜緒を待つ。

 街はすっかり年末の雰囲気に包まれていて、行き交う人々は皆忙しなく動いている。

 今年も、もう終わりなのかと思うと、なんだかとても寂しいような気がした。


「今年ももう終わりだねぇ、リンちゃん」

「そうね。あっという間だったわ」

「来年は受験生だね、おれたち」

「そうね……もう、そんな年なのね」


 受験、かぁ。

 私はそのまま桜丘学園の大学部に進むつもりだけれど、他のみんなはどうするのだろう?

 そういえば、そういう話をしたことがなかったな。


「カイは?大学どうするの?」

「おれ?うーん……まだわかんないけど、一応大学には行くつもりだよ」

「そう……他のみんなは、どうするのかしら……」


 美咲様やヘタレ、飛鳥はどうするのだろう?

 それに、蓮見は?

 蓮見は、どこの大学に行くのだろう?

 たぶん、みんな私と同じでそのまま大学部に進学するとは思うけど。


 できれば、みんなと一緒の大学がいいな。

 今のようにわいわいとみんなではしゃぎたい。

 私は、みんなとはしゃぐ時間が大好きだ。

 あと1年ちょっとでみんなとお別れになるのは、さみしい。


 それに、蓮見と離れたくない。

 ずっと今のままでいたい。


 それが、叶わない願いだとは、わかっているけれど。



「リンちゃん?」

「あ……なに?」

「どうしたの、ぼんやりしちゃって」

「なんでもないわ。今年ももう終わりかと思ったらちょっと寂しくなっちゃっただけなの」

「ふーん」


 あまり納得してなさそうにカイトは頷く。

 私は困った顔でカイトを見つめていると、いきなり風が吹いて、私の目に痛みが走る。


「いたっ……」

「リンちゃん?どうしたの?」

「目にゴミが入ったみたいなの」

「ちょっと見せて?」


 カイトが私の頬に手を当て、私の目を覗きこむ。

 私はカイトにされるがままにしていると、視線を感じた。

 やがてカイトの手と顔が離れて、「もう大丈夫だよ」と言うと、私は視線の感じた方を振り向いてみたが、そこには誰もいなかった。

 あの視線は、私の気のせいだった?

 私は首を傾げていると、菜緒が戻ってきた。

 そして私たちは家に向かい、歩き出す。

 お喋りをしながら歩いていると、私は見知った顔とすれ違ったような気がして振り向いてみるが、見知った顔は見当たらない。

 変なの。


 そして再び歩き出し、お喋りをしていくうちに、今日感じた視線のことは私の頭の中からすっかり消えていた。



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