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蓮見に遭遇した次の日、私は大人しく家にいることにした。
また下手に出掛けて王子や蓮見に遭遇したくない。
でも、おかしいな。
漫画では凛花が休日に出掛けて王子に遭遇する話なんてなかったはずだ。
凛花と弟が買い物に出掛ける話はあったが、そこで王子とは遭遇していない。
展開が変わってきている?私が避け続けた成果だろうか?
「うーん……わかんない……」
考えてもわかるわけがない。
私が王子とまだ出会ってない時点で漫画とはズレがあるのだ。
それがどういう風な展開になるのかはわからないが、とにかく私は王子を避けれるだけ避け続けるだけだ。
とりあえず、今週の授業の復習と来週の予習でもしよう。
私はきちんと予習復習をする人だ。真面目なのだ。
私は机に向かい、ノートを開いた。
月曜日は憂鬱だ。
昨日の休みの気分がまだ残っている月曜日の朝は特に憂鬱だ。
そして私はかつてない程に憂鬱だった。
学校サボろうかと真剣に悩むくらいに憂鬱だった。
だがしかし私は真面目なので学校をサボれなかった。真面目が憎い。
なぜ私がこんなに憂鬱なのかと言うと、今日は蓮見と会議の約束をしている日だ。
先日の百貨店での蓮見との会話を思い出すと憂鬱になるのに、その本人と会議をしなくてはならないのだ。学校もサボりたくなる。
はあ、とため息をつきながら登校する。
車から降りて教室に向かっている最中に、周りがざわざわしだして、みんな窓を覗いている。
どうしたんだろうか。
私はお友達を発見したので、どうしたのか聞いてみることにした。
「おはようございます。どうなさったの?みんなして窓を覗いて」
「あ、おはようございます、凛花さん。今、東條様が登校なさって……それだけならいつもと変わらないのですが、今日は美咲様と一緒に登校されたのですわ」
「まあ、東條様と美咲様が?」
なんだと!?どこだその素敵イベントが起こっている場所は!?
私は内心の興奮を押さえつつ、何気なく窓を覗く。
窓からはちょうど王子と美咲様が二人並んで校舎に入ってくるところだった。
絵に描いたようにお似合いな二人に私はうっとりとした。
ああ、素敵。二人が素敵すぎて憂鬱がどっかに行ってしまったわ。
そう思っているのは私だけじゃなかったようで、あちこちで「素敵」「お似合いの二人だわ」と言った声が聞こえる。
そうだろう、そうだろう。
だって私イチオシの二人だからね!
二人の様子を眺めて満足した私が二人から目をそらした先にいたのは、蓮見だった。
蓮見はいつもと変わらない表情で二人を見ていた。
だけど、その瞳は複雑な感情が揺れ動いているようで、私はなんだか切なくなった。
蓮見は二人から目線をそらすと、私に気づくことなく背を向けて立ち去った。
そうだ、蓮見は美咲様のことが好きなのだ。
でも美咲様は王子が好きで。
二人のことを想って身を引いて、でもやっぱり諦められなくて苦しくて。
誰にも相談できずに彼は苦しんでいる。
辛いのに、それを表に出すことはできない。
私にとってはただの鬼畜腹黒クソ野郎だが、蓮見は基本的に優しい人なのだ。
自分の想いを美咲様に伝えることもできたのに、自分の気持ちは美咲様にとって負担になると、王子に迷惑が掛かると思って、自分の気持ちに蓋をした。
蓮見は、強い人だ。
私は彼にとって部外者だ。
だからこそ、彼の心を軽くすることができるかもしれない。
誰にも言えなかったことを、なんの関係もない私になら言えるかもしれない。
ハッキリ言って私は彼が苦手だ。でも、嫌いでもないのだ。
彼の力になってあげよう。
なにも力になれないかもしれないけど、話くらいは聞いてあげることができる。
苦しんでいる人がいたら救いの手を差しのべる。
それは人として当たり前のことだと思うから。
蓮見から連絡があった指定された場所に私は向かった。
携帯を握りしめ、ひとつひとつ目印を確認していく。
そしてついたのは、小さな喫茶店だった。
素朴でほっとする内装。
とてもじゃないがお金持ちのお坊っちゃんが来るような場所に見えない。私は好きだけど。
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれたのは優しそうなおじいさんだった。
たぶん、店主だろう。
おじいさんは私を見てにっこり笑うと「どうぞこちらへ」と席へ案内してくれた。
一番奥の席に案内された。案内された席はちょうど入り口から見えにくい位置にあって尚且つこちらからは入り口がばっちり見えるようになっていた。
先に席に座っていた人に私はにっこり微笑んで、令嬢らしく挨拶をした。
「ごきげんよう、蓮見様。お待たせしてしまいましたか?」
「いや。そんなに待ってない」
蓮見は目で座るようにと私に指示をする。
私はそれに従い、向かい合わせに座った。
私は彼の力になれるのだろうか?
先に謝っておきます。
あげ直してたらごめんなさい……←




