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(8/23)水着の描写を変更しました。

 美咲様の別荘に到着したのは、お昼過ぎだった。

 部屋は美咲様と菜緒と一緒の部屋で、夜はたくさんおしゃべりしましょうね、と笑い合う。

 荷物を整理したあと、遅めのランチをとった。

 そのあと、海に行こうということになって、私たちは部屋に戻る。


 そこで私は、ごねた。


「凛花、観念して着替えなさい」

「いやよ!」


 菜緒が仁王立ちをして私を睨む。

 菜緒も美咲様ももう水着に着替え終えていて、2人は困ったように顔を見合わせた。

 2人はとてもスタイルが良い。

 締まるところは締まっていて、出るところはちゃんと出ている。


「凛花……」

「だって……東條様と蓮見様が来るだなんて知らなかったのだもの……知ってたらあんな水着にしなかったのに……」

「大丈夫よ。あれ、すごく似合ってたから」

「……ほんとうに?」

「なぁに、私が信じられないの?」


 からかうような口調で言う菜緒に、私は静かに首を横に振る。

 うん、菜緒を信じよう。

 私だって、海で遊びたいのだ。

 王子と蓮見は魚だと思うことにしよう。そうすれば恥ずかしくない。

 私は水着を掴むと、着替えるために別室に行った。


 そして着替え終わって出てきた私を、菜緒と美咲様は笑顔で出迎えて「とっても似合ってる」と言ってくれた。

 それでも恥ずかしい私は持ってきた太股まである長めのパーカーをしっかり着込んだ。

 そんな私を見て、美咲様と菜緒は顔を見合わせて笑った。


 海に行くともうすでに、3人は着替え終えて談笑していた。

 3人とも、しっかりと引き締まった体をしている。

 弟もだ。弟も大きくなったのだなぁ、と私は感慨深く思った。


「昴、奏祐、悠斗君、お待たせ」


 美咲様が笑顔で3人に近付く。

 美咲様は白いビキニの水着だ。本当に白いだけで、飾りはほとんどない。だからこそ、美咲様のスタイルの良さが際立つ。

 菜緒は黒と白のストライプのビキニに、ショートパンツを合わせた格好だ。これがまた菜緒によく似合っている。

 そして私は、今年の流行りの花のビキニを買った。まあ、それだけならいいのだが、そのビキニ、パンツが紐タイプになっているのだ。

 女の子同士だからいいよね、と軽い気持ちで買ったのが仇になった。

 紐、ほどけたらどうしよう。


「揃ったね。僕と奏祐は、ジェットスキーの免許を持ってるんだ。ジェットに乗らない?」

「楽しそうね」


 みんな乗り気だ。確かに楽しそうではある。

 でも私は泳げないのだ。

 だから、私は待っていると言おうとしたのに、なぜか乗ることになっていた。

 トーイングするらしい。私はいつの間にかボートに乗せられていた。

 気づいたらライフジャケットも装着してた。本当にいつの間に。

 なんか弟に着せられた気がするけど、弟に着せてもらうとか、ね?

 だって私、16歳ですよ?16歳なのに弟に着せてもらうとか、ねぇ?

 ハハ、情けない姉でごめんね……。


 ジェットの運転は王子が担当する。

 ところでそのジェットどこから持ってきたのだろうと思っていると、なんと王子の所有物で自宅から持ってきたらしい。用意のよろしいことで。


 王子がジェットを操縦する。

 けっこう速い。私はボートに必死に掴まる。

 しかし私以外のみんなは余裕な表情で楽しんでいた。

 なんだ、その余裕。

 そう思って気を抜いた瞬間、私はボードから投げ出された。

 バシャンと衝撃を受けたあと、しょっぱい海水が少し口の中に入る。私は慌てて水上に上がる。

 ボードから弟と蓮見が私を引き上げてくれた。

 た、助かったぁ……。


 しかしパーカーが早くもびしょ濡れだ。

 あぁ……諦めて脱がなきゃ……。

 少ししょんぼりとしていると弟が顔を覗いてきた。


「姉さん、大丈夫?」

「大丈夫よ」


 パーカーがぐしょ濡れになった以外は。

 他のみんなも「大丈夫?」と心配してくれた。

 王子もジェットからこちらを心配そうに見ている。

 私は大丈夫という意味を込めて、王子に手を振った。

 王子も私の気持ちが伝わったらしく、安心するように微笑んだ。

 そうしたやり取りをし終えたあと、私はのろのろとパーカーを脱ぐ。

 さようなら私の防波堤……。



 パーカーを脱いで絞る。

 びしょびしょのままでいるわけにはいかない。

 ある程度絞れたところで私はパーカーをたたむ。

 ふと顔を上げると蓮見と目があった。

 そして蓮見はふいっと目をそらす。その顔は少し赤い気がする。


「蓮見さん、厭らしい目で姉を見ないでもらえませんか」

「……厭らしい目で見てない」

「いいえ、見てました」

「見てない」


 その後も見てた、見てない、と二人の言い合いは平行線だ。

 菜緒は呆れた顔をし、美咲様は楽しそうに笑っている。

 王子がゆっくりとジェットを操縦して、陸地に戻るまでその言い合いは続いた。

 止めるべきなのだろうか?

 いや、めんどくさいからやめておこう。


 ジェットから降りて、パーカーを脱いだ私を見て、王子は爽やかな笑顔で言った。


「その水着、似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます……」


 私は顔が赤くなるのを自覚する。

 弟も蓮見も私の方を見ようとしないから、実は似合ってないんじゃないかと、不安に思っていたのだ。

 だから、王子に似合ってると言って貰えてほっとした。


 弟と蓮見がはっとしたように私たちを見た。

 それから少しだけ悔しそうに王子を見て、王子はドヤ顔で二人を見返した。

 会話なしで通じ合えるくらい、弟と王子たちは仲良くなれたのか。

 最近言い合いをしている場面ばかり見ていたから、少し心配だったのだが、それも杞憂だったようだ。

 良かった。


 それからは、定番の浜辺でビーチバレーをしたり、海で泳いだりして遊んだ。

 ビーチバレーで私は、レシーブをしようとして、顔面レシーブをするという醜態をさらしてしまった。

 弟と菜緒は呆れた顔をして、美咲様は心配そうにしてくれ、王子は目を見開いて驚き、蓮見にいたっては肩を震わせて笑っていた。


 ……穴があったら、埋まりたい。

 自分の運動神経の無さに絶望を覚えた。

 私は少し赤くなった鼻を押さえて、まだ笑っている蓮見を睨む。

 そして近くに転がっていたボールを思いっきり投げつけた。

 しかし、さっと避けられてしまう。


 大人しく当てられるっていう可愛らしさを見せてくれればいいのに。

 誠に遺憾である。



少し加筆しました

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