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私がどこで彼女を見掛けたんだったかなぁ、とモヤモヤしていると、蓮見は驚いた顔で目の前の美少女を見つめた。
親しいのかな?
「姫樺……」
「奏祐様、こんなところで会うだなんて、奇遇ですね。私、とても嬉しいですわ!」
「あぁ、本当にね」
「奏祐様は買い物ですか?」
「そう。もうすぐ美咲の誕生日だから」
「ああ。美咲様の」
私は完全に空気と化した。
この美少女さんは蓮見のことが好きみたいだ。
その表情も目線も恋をしている人特有の熱がある。
声音もとても甘いし。
蓮見は彼女の好意に気づいているのかなぁ。
「……ところで、そちらの方は奏祐様とどういったご関係ですの?」
「ああ。彼女は俺のクラスメイトなんだ」
「初めてまして。神楽木凛花と申します」
私は空気から人へと戻ることができたようだ。
自己紹介をさせて貰うことができた。
でも美少女さん、敵意丸出しで私を睨み付けるのやめてくれませんかね?
迫力あるから心臓に悪いよ……。
「神楽木、彼女は俺の幼馴」
「奏祐様の婚約者の、橘姫樺です」
「婚、約者……?」
あれ。蓮見に婚約者なんて居たっけ?
でも美少女……橘さんは自信たっぷりな表情で言った。
「ええ、そうなんですの」
「……婚約者候補でしょ」
「まあ。そんなつれないことをおっしゃらないで」
橘さんはあざとい表情を浮かべた。
蓮見はそんな橘さんを困ったような顔をして見つめる。
仲良いな。
それはそうだよね。婚約者なんだし。仲が良くても不思議はない。
折角、婚約者と会えたんだし、私は退散した方がいいよね。
お茶を奢るのはまたの機会にさせてもらおう。
「ふふ。とても仲が宜しいようで。私はお邪魔でしょうから、これで失礼しますわ」
ごきげんよう、と私は一礼をするとくるりと回れ右をして2人に背を向けて歩き出す。
なんだかモヤモヤする。なんだろう、これ。
蓮見ってあんなに可愛い婚約者がいたんだな。
漫画ではそんな設定なかったはずだけど。
ん?漫画……?
私が何か閃きそうになったとき、私の腕を誰かがきつく握った。
「痛っ……」
「神楽木」
「蓮見様……」
私は振り向いたすぐそこに、蓮見の整った顔があることに動揺した。
「待ってって、何度も言ったのに」
「申し訳ありません。聞こえませんでした。痛いので、腕、離してください」
「あ、ごめん」
蓮見は慌てて手を離す。
私は蓮見に捕まれた腕をさする。馬鹿力め。
「橘さんはどうされたのですか?婚約者なのでしょう?」
「姫樺は、なんか用事があるみたいで、さっき別れた。それに、姫樺は婚約者じゃないよ。婚約者候補だ」
「候補?」
「そう。たくさんいる、俺の婚約者候補の一人で、俺の幼馴染みで従妹でもある」
「そうだったんですか……」
橘さんが婚約者じゃないと聞いて、ほっとしてしまった自分に私は戸惑った。
あれ?なんでほっとしてるの、私?
動揺した私は誤魔化すように口を開く。
「とても可愛らしい方でしたわね。蓮見様と並んだところはとてもお似合いでしたわ」
「……君が、それを言うの?」
蓮見が低く小さな声で呟いた。
私は聞き取れず、蓮見に聞き返すと蓮見はなんでもないと首を振った。
「……でも、正直に言いますと、橘さんが蓮見様の婚約者ではないと知って、ほっとしましたわ」
「……え?」
「だって、蓮見様に婚約者が居られたら、こうして蓮見様と一緒にいることに罪悪感を感じますもの。それに、婚約者のいらっしゃる方にお菓子をねだることもできませんし……」
私は自分で口にして、その内容に納得した。
そうだ。蓮見に婚約者がいたら、気軽にお菓子を作って貰うわけにはいかない。婚約者の方にいらぬ誤解をしてもらっては困るのだ。
だから、蓮見に婚約者がいなくてほっとしたのだ。
うん、納得だ。
「……あぁ、そっちか……まあ、そうだよね……」
蓮見はぶつぶつとなにか呟いている。
私が首を傾げていると、蓮見は苦笑を浮かべ、どこか甘い物を食べに入ろうか、と言った。
私はもちろん頷く。甘い物!スイーツ!
私たちは適当なお店に入り、甘味を堪能した。
そして私はなんとか奢ることに成功した。蓮見は不満そうだったが、私は満足だ。
今日の借りは返したぞ。
そして美咲様の誕生日の日。その日は平日だったので、放課後に美咲様と待ち合わせをして、プレゼントを渡す。
生徒会はおやすみです。今日は奇跡的になにも仕事がなかったのだ。
「お誕生日、おめでとうございます、美咲さん」
「まあ……わざわざありがとう」
美咲様は嬉しそうにプレゼントを受け取ってくれた。
気に入ってもらえるといいな。
私は美咲様にこのプレゼントを蓮見と一緒に買いに行ったと伝えた。
そこで蓮見の婚約者を名乗る美少女に会ったことを告げると、美咲様が珍しく眉をしかめた。
「姫樺さんに、会ったの……」
「ええ、そうなんです。やはり、お知り合いですか?」
「えぇ……あまり話したことはないのだけど……。凛花さん、彼女になにかされなかった?」
「はい。あ、でもすごく睨まれました。彼女、蓮見様に好意を寄せているのですね」
「ああ……やっぱり。そうなの。彼女、奏祐が大好きなの。私もよく睨まれたわ」
美咲様は困ったように肩をすくめた。
美咲様は睨まれる以外にも色々と嫌がらせをされたようだ。
それを「倍にして返してあげたけれど」と言う美咲様は転んでもただで起き上がるタイプではないようだ。
さすが漫画のライバルキャラ。笑顔が黒いです。そんなところも好きだけど!
でも、恐くて、どう仕返したのかは聞けなかった。
知らなくていいこともあるよね。うん。
そして私は美咲様に、「姫樺さんには気を付けるように」と言われた。
気を付けるもなにも、もう会うこともないと思うけどなあ。
と思っていたら、彼女の襲撃に遭った。
「お待ちしておりましたわ」
そう言ってにっこり笑う彼女に、私は嫌な予感しか感じなかった。




