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 もうすぐ美咲様の誕生日だ。

 大好きな美咲様のため、私は美咲様にぴったりなプレゼントをしたいと思う。

 いろいろ美咲様には迷惑をかけているし、そのお詫びを含めて、なにかプレゼントしたい。

 でも、何がいいかなぁ。


「……さすがにそれは俺では答えられないな。そういうのは自分で考えるものだろう」

「ですよねえ……」


 さすがの飛鳥でもこの難問には答えられないようだ。

 まあ、当たり前だよね。


 でも本当に困った。私はプレゼントやお土産を即決して買えない優柔不断な人間なのだ。

 うーん……弟に買い物付き合って貰おうかな。

 うん、それがいい。そうしよう。

 そう私が結論づけた時、タイミングよく弟がやってきた。

 弟が生徒会室に来るなんて珍しいな。どうしたんだろう。


「あら、悠斗、どうしたの?」

「彼が君の弟か?似ているな」

「ええ、そうなんです。悠斗、こちらは飛鳥冬磨くんよ。よく私の相談に乗って貰っているの」

「初めまして。姉がいつもお世話になっています」


 悠斗がきれいなお辞儀をする。

 そのお辞儀の美しさに私はにっこりとする。

 完璧なお辞儀だわ。さすがは私の弟。


「ああ、初めまして。しっかりした弟だな」

「ふふ。でしょう?それで、何の用かしら?」


 弟を誉められて上機嫌な私は、弟が私に用があって来たのだと信じて疑わない。


「いや、姉さんじゃなくて。朝斐兄さんはどこ?」

「朝斐…さん……?」


 え?私に用じゃなかったの?

 密かにショックを受けている私を差し置いて、飛鳥が答えた。


「相模さんなら、もう少ししたらここに来ると思うぞ。それまでここで待っているといい」

「ありがとうございます。では、遠慮なく」


 弟は当然のように私の隣に座った。

 あ、そこ蓮見の席……。

 私がそう注意しようとしたとき、蓮見が入ってきた。

 蓮見は一瞬固まり、すぐに涼しい顔をして弟に言う。


「そこ、俺の席なんだけど」

「ああ、そうでしたか。すみません。でも困ったな……オレの座るところがないから、姉さんと一緒に座ってもいい?」

「え?いいけど、椅子ならそこに……」

「ありがとう、姉さん」


 弟はどこかで見たことのあるような笑顔を浮かべて、私の椅子に半分腰かける。

 そんな弟を蓮見が凍えそうな目で見た。


「悠斗。そこに椅子があるから、その椅子を持ってきたら?それだと神楽木が仕事をしづらい」

「それは蓮見さんが決めることじゃないでしょう。ねえ、姉さん。オレ、姉さんと一緒に座っていたら邪魔?」


 少し瞳を揺らし、不安そうに私を見る弟に、私の心はいっきに弟に傾く。


「邪魔なんかじゃ、ないわ」


 気づいたらそう口にしていた。私は弟に弱すぎる。わかっていてもそれを直す気にはなれないのだ。

 弟は嬉しそうににこっと笑ってありがとうと言う。

 その隣で舌打ちが聞こえた。

 弟と蓮見の間に見えない火花が散る。


 ……これって私のせい?

 そう思って飛鳥を見ると、飛鳥は神妙な顔をして頷いた。

 まじか。私のせいか。

 これは、あれだろうか。少女漫画とかでよくある台詞、『やめて、私のために争わないで!』を言うところなのだろうか。


 やめておこう。痛い人みたいだ。


「ねえ、悠斗。今度の休みに買い物に行きたいのだけど、付き合ってくれない?」

「あ……ごめん、姉さん。オレ、今度の休みは朝斐兄さんと約束してるんだ……」

「そうだったの。それじゃあ、仕方ないわね」

「買い物に行きたいの?」


 私と弟との会話に、蓮見が乱入してくる。


「ええ。もうすぐ美咲さんのお誕生日でしょう?プレゼントを買いに行きたいのです」

「ちょうど良かった。俺も買いに行こうと思っていたから、一緒にどう?」

「蓮見様と一緒に、ですか……」


 それは、どうなんだろうか?

 蓮見と美咲様は幼馴染みだし、蓮見は美咲様の好みをよく熟知しているだろうから、プレゼント選びの良いアドバイザーになるだろう。

 でも、蓮見と2人で買い物してるところを見られたらまずいんじゃないだろうか。

 ただでさえ、周りの目が厳しくなってきてるのに。


「嫌なの?」

「嫌というわけでは……」


 言ってしまってから、私は慌てて手で口を塞ぐ。

 嫌って言えば良かったのに。私の口は正直だ。

 プレゼントのアドバイスをしてもらえることが思いの外私の中で重大だったらしい。


「じゃあ、今度の土曜日に行こうか」


 蓮見は嬉しそうに言う。

 蓮見の嬉しそうな顔なんて初めて見たかも……。そんなに買い物行きたかったんだろうか。


 私の隣で弟が不満そうな顔を、飛鳥が呆れた顔をして私を見ていた。

 うん、わかってる。わかってますよ。

 口は災いのもとって、こういうことか。

 私は1つ賢くなった。賢くなったかわりに、私は蓮見と買い物をすることになった。なぜだ。




 土曜日がやって来た。蓮見との買い物の日だ。私は真面目なので、ドタキャンも無視もできない。

 蓮見と買い物だし、適当な服でいいか、とクローゼットを開いたところで、私はふと思い出す。

 蓮見って、なに着てもかっこいいんだよね……。

 悔しいことに、蓮見はジャージを着ていても格好良く見えるのだ。本当に美形って得だ。


 そんな蓮見と一緒に買い物をするのだ。

 適当なもっさい服を着ていったら、周りから嘲笑をかうんじゃないだろうか。

 それは私のプライドが許さない。

 私は母から常々ファッションには気を使いなさいと言われている。

 周りから見ても恥ずかしくない格好をしなさい、という教えは私の中に根づいている。

 私は気合いを入れ直し、真剣にクローゼットを吟味する。


 よし、決めた。

 私は選んだ服を手に取り、着替えをした。

 そして姿見の前に立って、チェックをする。


 白いフリルのついた半袖ブラウスに黒い花柄のキュロット。二の腕が気になるのでクリーム色の薄手の七分袖のカーディガンも羽織っておく。

 シンプルながらも可愛い。これなら蓮見と一緒にいても笑われることはないだろう。

 よし。完璧だ。


 私は白い革の小さめの肩掛けバックに財布とポーチと携帯を入れて、手には細めの腕時計をし、最後にカンカン帽を被った。


 準備はばっちり。

 さあ、気合いを入れて買い物にレッツゴーだ!



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