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 最近、疑問に思うことがある。

 私は王子と蓮見に告白された。

 そう、告白されたのだ。


 あれから確かに2人はよく私に話しかけてくる。

 私はそれを、いかに華麗にスルーし、いかにはやく立ち去るかを考えつつ、躱そうと努力している。

 うん。努力してるだけで、躱しきれてないのが現状だけど。


 王子は、私の気を惹こうとしているのがわかる。

 会話の隅々から伝わる。

 だけど、蓮見は告白する前と態度がまったく変わらないのだ。

 相変わらず皮肉ばかりだし、人を馬鹿にしてくる。

 こいつ、本当に私のこと好きなの?

 と、常々、疑問に思うのだ。それとも、あの時の蓮見は偽者だったのだろうか?



「どう思います?飛鳥くん」

「どうって言われてもな……」


 飛鳥はお茶を飲みながら苦笑する。

 飛鳥にはお茶がよく似合う。

 王子や蓮見は洋風なイメージだが、飛鳥は和風だ。浴衣や甚平が似合いそう。

 やはり和菓子屋に生まれるとそういうのが似合うようになるのだろうか。


 ちなみに今は飛鳥の新作和菓子の試食会を実施中です。

 青柳という、青い大福みたいな見た目のお菓子だ。

 ひんやりとしていて、美味しい。

 もっちりしたお餅と、しっとり甘いこし餡。

 うまい。もう1個。


 私はもう1個青柳を手に取り食べる。

 そして渋いお茶を飲む。至福のひとときだ。


「蓮見は、蓮見なりに気を遣ってるんじゃないか?君が気まずくならないように」

「そうでしょうか……でも、それでは私の心証よくなりませんよね?本末転倒では?」

「俺に言われてもな……」


 飛鳥は困ったような顔をする。

 最近、私は飛鳥に相談に乗ってもらうことが増えた。

 さすが次期生徒会長なだけはあって、親身に相談に乗ってくれるし、そのアドバイスは的確だ。

 飛鳥は私の良い相談相手になっている。


 もちろん、好かれても困るので、前々からちくちくと「私を好きにならないで下さいね」と釘をさしてる。

 すると飛鳥は毎回、真顔で答えるのだ。「それは絶対ない」と。

 どういう意味だろうか?

 いや、好かれても困るんですけどね?



「神楽木は、蓮見にどうして欲しいんだ?」

「どうして欲しい……と言われましても……」

「今の蓮見の態度に不満があるのだろう?だから俺にこうして話をしている。違うか?」

「不満……と言いますか、態度があまりにも変わらなすぎて、あの日のアレは夢だったんじゃないかと不安になってきますの」

「つまり、だ」


 飛鳥は真剣な顔をして、湯飲みを置きながら言った。


「神楽木は、蓮見にちゃんと好意を行動で示して欲しいってことだろう?」

「―――はい?」


 え?そうなっちゃう?

 でも、そうなるのかなぁ。

 別に今の蓮見の態度が嫌なわけではないのだ。

 今のままの方が気楽だし、できればずっとこのままでいたい。

 でもずっとこのままでいたら、蓮見が告白してくれたことを無かったことにしてしまう気がする。

 蓮見の告白をなかったことにしたいわけじゃない。

 きちんと気持ちを込めて言ってくれたのだ。無かったことにはできない。例え私に応える気がなくても。



「神楽木は色々考え過ぎなんじゃないか。蓮見が君のことを本当に好きなら、それなりに考えて行動するだろう。君は受け身でいいんだ。蓮見のことは気にするな。それではまるで期待しているようだぞ」

「……期待している……そんな風に見えますか」

「少なくとも、俺の目には」


 期待なんてしていない。

 でもそういう風に周りからは見えるのだとしたら、気を付けなければならない。

 受け身でいい、か。

 確かに私は色々考えすぎなのかもしれない。


「さすが飛鳥くんね。いいアドバイスをありがとう」

「……俺もまさか女子に恋愛相談をされるとは思わなかったぞ……」

「仕方ないじゃありませんか。周りの友達にそんなこと相談したら大変なことになりそうですし、気軽に相談できそうなのは飛鳥くんくらいしか思いつきませんでしたの」

「そうだろうとは思ってたさ」


 飛鳥は、爽やかに笑う。

 本当に助かった。幾分かスッキリした気がする。

 やっぱり次期生徒会長は頼りになるな。


「飛鳥くん、将来はカウンセラーになったらいかがですか?」

「……誉め言葉として受け取っておく」


 誉め言葉ですよ?




 それから私は、受け身でいることを心がけた。

 蓮見ににこやかに挨拶をし、すぐに逃げる。

 話し掛けられたらにこやかに対応し、すばやく立ち去る。

 どうだ、私の受け身!


「それは受け身ではなく、逃げ腰だ」


 あ、やっぱり?


 今日の試食は団子だ。餡子がたっぷり乗った串団子だ。

 しかし、ただの串団子ではない。

 お茶が練り込まれたお茶団子なのだ。

 お茶の風味と餡子の甘さを同時に味わえる優れ物である。

 しかし、お茶は必須だ。喉に詰まったら困る。


「神楽木、なにもしようとするな。普通にしてればいいんだ」

「はあ……普通に、ですか」

「そうだ。いつもみたいに言い争いをしてればいいんだ」


 言い争いなんてしてるつもりないけどなあ。

 普通の会話ですよ?



「……なにしてるの?また試食会?」

「は、蓮見様……なんてタイミング……」

「俺が来たらまずかったわけ?」


 蓮見の声音が低くなる。コワッ!


「ぜ、全然まずくないぞ。良かったら蓮見も食べてくれないか?」

「頂く」


 そう言って蓮見は私の隣に座る。

 そして私の手に持っていた団子をパクリと食べた。

 私は蓮見の行動に唖然とした。


 だって、まだお皿の上にたくさんあるのに。

 なんでわざわざ私の団子を食べちゃうの!食べかけなのに!


 ……ん?食べ、かけ?


「ご馳走さま。美味しかったよ」


 蓮見はニヤリと笑う。

 私はがたん、と音を立てて椅子ごと後ずさる。

 飛鳥を見ると、飛鳥も目を見開いて蓮見を見ていた。

 私は我に返って蓮見を睨む。


「な、なにを……!」

「最近、俺のこと避けてたでしょ?その罰」

「罰ですって……?」

「そう。それに、態度に出した方がいいんでしょ?」


 私はすぐさま飛鳥を見ると、飛鳥は不自然に目をそらした。

 裏切ったな、飛鳥め……!

 あとで足が吊る呪いをかけてやる……!

 憤怒の形相で飛鳥を睨む私を蓮見は楽しそうに見る。


「お望みなら本気で口説いてあげようか?」

「え、遠慮しますわ!」

「遠慮しなくてもいいのに」


 こいつ、私をからかって遊んでるな?

 私は初心なんだぞ!自慢じゃないけど、今までなぜか男っ気なかったんだからな!


 ああもう!普段は態度変わらないのに、たまにこうされると本当に困る!



 言い合う私たちを黙って見ていた飛鳥が呆れた声で呟いた。


「そういうのは2人きりの時にやってくれ……先輩方が入りにくそうだぞ」


 私がハッと扉の方を見ると、ニヤニヤと笑っている朝斐さんを筆頭に、先輩方が扉で立ち止まっていた。

 みんな揃ってにやにやしてる気がするが、これはきっと私の被害妄想に違いない。



「仲良いなぁ、おまえら」

「仲良くありません!」


 からかう朝斐さんに私は全力で否定する。

 ああ、顔があつい。

 そもそもの原因の蓮見を見ると、奴は涼しい顔をしていた。

 私ばっかり慌ててバカみたいじゃないか!


 私は恥ずかしさのあまり、机に顔を伏せる。

 飛鳥がぼそりと呟いた。



「……神楽木も蓮見も、どっちもどっちもだな……」






男っ気がなかった原因は、弟です。弟が裏でやらかしてました。

そしてたぶん、一番かわいそうな人は飛鳥。

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