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51 弟

 姉と同じ桜丘学園に無事に入学をすることができてから、早くも一月が過ぎようとしている。

 姉はときどき、オレのクラスへやって来る。

 姉が来てくれること自体はいいのだが、クラスの男共の視線が気にくわない。

 姉は確かに容姿は整っている。可愛らしい美少女といった感じだ。

 そんな姉の見た目に騙されて「悠斗のお姉さん美人だね」なんて言ってくる奴には無言で制裁を加える。

 見た目は上等でも中身が残念なのが姉なのだ。

 見た目に騙されるな、と声に出して叫びたい。


 そんな姉の様子が、最近おかしい。

 姉がおかしくなったのと同時に、姉がよく東條さんと蓮見さんと一緒にいるところを見かけるようになった。

 彼らが原因なのだろうか。

 元気のない姉は見ていていられない。

 姉を困らせるのなら、例えお世話になった人だろうが容赦はしない。


 シスコンだとよく言われるが、それがどうした。

 オレにとって姉は守るべき存在で、そんじょそこらの男にくれてやれるような存在ではないのだ。

 そう、従兄の朝斐兄さんに言うと、兄さんは苦笑して「おまえたち姉弟は本当にお互いが大好きだなぁ」と言った。


 ある日、姉が靴箱のところで、東條さんと蓮見さんに挟まれているのを発見した。

 姉に声を掛けると、姉はオレの顔を見てほっとした顔をした。

 姉に事情を聞くと、大方予想通りの展開になっているようだ。

 あの、東條さんと蓮見さんが、姉に惚れているようだ。

 そして姉はそのことに気づいてない。

 いや、普通、気づくだろ。目の前で火花散らしてるのだから。


 どうしてこうなった、とつっこみたい。

 いや、蓮見さんに関しては前々からそうじゃないかとは思っていた。

 まさか、東條さんまでもが姉にやられるとは。

 油断した。

 これじゃあ、なんのために桜丘学園に入学したのかわからないではないか。

 姉に変な虫がつかないよう、監視するためにオレは入学したのだ。

 父からも厳命されていることだ。


 父は姉のことを目に入れても痛くないくらい可愛がっている。

 そんな父は、姉を半端な人間にくれてやる気はないと、オレに監視をするように言ってきた。

 まあ、蓮見さんや東條さんなら、父のお眼鏡には適うかもしれないが、オレは認めない。

 姉にはいつも笑っていてほしいのだ。

 姉がきちんと幸せになれると、オレが確信できない限りオレは認めない。



 ―――釘をささないと。



 姉を手に入れたいのなら、オレを認めさせろ。

 そう、あの2人に釘をささねば。




 遠足から帰ってきたあと、姉が部屋に引き籠った。

 遠足から帰ってきてすぐも様子がおかしかったし、これは異常事態だ。

 そう思ったオレは姉に付き添おうとしたが、大丈夫だからと拒否された。

 初めてだった。初めて、姉がオレを拒否したのだ。

 オレは思いもよらず、動揺した。

 少しして落ち着いたオレは部屋で静かに待機することにした。

 姉になにかあったらすぐに駆け付けられるように。


 しばらくして、姉の部屋から叫び声が聞こえた。

 オレは慌てて姉の部屋に駆け込む。

 姉の部屋に入ると、姉は青ざめた顔をして、オレを見た。

 なんだ。どうしたんだ?体調が悪いのか?それとも変な物でも見たんだろうか?

 オレは心配して姉に駆け寄ると、姉は震えた声で呟いた。


「悠斗……私、鈍感なの……」


 ………なんだって?

 何を今さら言っているんだろう、この人は。


「は?あ、うん……そうだね」


 オレが頷くと、姉はショックを受けたように、オレを見る。

 え?オレなんて言えば良かったの?

 否定した方が良かった?

 でも姉さんの鈍感ぶりを否定することは、とてもオレにはできないよ……。

 姉は少しの間だけ考えるように俯き、すぐに顔を上げて、決意を固めた目でオレを見た。


「あのね……私、鈍感をやめるわ」

「はぁ?」


 鈍感やめるって……どうやってやめる気なんだ?


「鈍感をやめて、察しの良い女になるの……!」


 いやいや、無理だろ。どう考えても。

 オレの呟きは姉の耳には入らなかったようで、姉は拳を握りしめて決意を固めている。


 ……どうやら姉は大丈夫そうだ。

 心配して損した。




 体育祭が近づいてきた。

 体育祭で出る種目を決める話し合いをぼんやり聞いていたオレはふと、思い付いた。

 体育祭の混合リレーでは、毎年東條さんと蓮見さんがアンカーを務めるという。そして2人のどちらかが優勝するのだ。

 それに番狂わせを起こしたら?

 オレがアンカーで走って、番狂わせを起こせば、2人にオレもいるとアピールできるんじゃないだろうか。

 オレは、走るのが得意だ。短距離走には自信がある。

 いけるかもしれない。

 そう考えたオレは、真っ先にリレーに立候補をした。


 リレーの練習をこなし、迎えた本番。

 体調はばっちりだし、体の調子もいい。

 これなら良いタイムが出せそうだと思っていた時、オレはよく知る3人組を見かけた。

 こっそり影から覗き様子を見ると、見間違いなんかじゃなく、その3人は姉と東條さんと蓮見さんだった。

 嫌な予感がしたオレは聞き耳を立てることにした。


「僕…優勝……ら………付き合ってよ」


 会話は途切れ途切れでよく聞こえなかったが、「付き合って」というワードだけはしっかり聞こえた。

 優勝したら付き合う?あの、姉が?

 そんなことさせてたまるか!


 東條さんは優勝する自信があるのだろう。

 いいじゃないか。その役、オレがぶんどって絶対に優勝してやる!姉は渡さない。

 オレは決意を新たにした。



 オレは、見事に優勝をした。自己ベストを出せたと思う。

 それでもギリギリだったが、なんとか東條さんと蓮見さんに勝ったのだ。


 オレは唖然とした顔でオレを見る2人に、姉との仲の良さをアピールするように姉を抱き締める。

 姉はオレが優勝したのをとても喜んでくれた。

 そして、オレの頬にキスをした。

 その場面を見た2人の顔が不愉快そうに歪む。


 オレは内心ざまぁみろ、と思った。

 姉にちょっかいを出すから悪いのだ。

 オレは2人を見て、にっこりと笑う。

 父譲りの、黒い笑顔で。


「姉に手を出すなら、オレが相手になりますよ?」


 オレたちの間に火花が散る。

 オレはあなたたちを認めてない。


 だから、あなたたちに、姉は渡さない。




シスコン弟、姉のために頑張るの回でした。

そして凛花は弟という、強力な盾を手に入れたのでした。

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