50
後半部分、一部改稿しました。
蓮見と王子から告白されて、2人と一緒にいることが多くなった。いや、私は全力で逃げようとしているのだが、最終的に捕まるのだ。
その分、周りからの目が厳しくなった気がする。
2人は、イケメンなのだ。東條派、蓮見派という派閥ができるくらい、人気なのだ。
今は表立ってなにかされることはないが、それも時間の問題かもしれない。
そんな悩みを抱えつつ、中間テストの日が近づいてきた。
いくら悩みがあろうと、手は抜かない。
去年は蓮見がずっと1位をキープし続けていた。
目立ちたくないからあまり上位に入りたくなかった去年とは違い、今年はもう目立ってしまっているので、堂々と1位を狙おうと思う。
生徒会活動の前に私が勉強をしていると、飛鳥が生徒会室に入ってきた。
飛鳥は私が勉強している姿に目を丸くした。
「珍しいな、君がここで勉強するなんて」
「今年はテスト順位で1位を狙おうと思いますの。飛鳥くんも一緒に狙いませんか?」
目指せ打倒蓮見だ。
そんな私に飛鳥は苦笑する。
「そうだな。それくらいの気概を持っていないとな」
「ええ。目指せ、打倒蓮見!ですわ」
「俺がなんだって?」
突然涼やかな声が乱入してきて、私はびくりと肩を揺らす。
振り返れば魔王みたいなダークな笑みを浮かべた蓮見が入り口で立っていた。
私はその姿に冷や汗がたれる。
「は、蓮見様……」
「打倒蓮見って聞こえたんだけど?」
「それはその……」
「神楽木はテストで1位を目指してるらしいぞ」
飛鳥ぁ!裏切ったなぁ!!
「ふーん……1位ね。まあ、頑張りなよ」
蓮見は余裕の笑みを浮かべ、自分の席に座った。
くそう……!あいつ、絶対無理だと思ってるな……。
見てろ。私の本気を見せてやる!
私はその日から怒濤の勢いで勉強をした。
そして中間テストの順位発表の日。結果は―――
「う、嘘でしょ……」
私の結果は、2位だった。
1位は当然のごとく蓮見だ。
あと1点。あと1点で蓮見と並んだのに。
あんなに必死に勉強したのに、なぜ勝てない。
スペックの違いか!?そんなの認めない!
「その……惜しかったな」
飛鳥が励ますように私の肩を叩く。
私はただ、目の前の結果に呆然とすることしかできない。
そこに蓮見がやって来て、結果を一瞥すると、私を見て胡散臭……清々しい笑みを浮かべた。
「惜しかったね?次は1位をとれるといいね」
……この野郎。いつか絶対、ギャフンと言わせてやる!
中間テストが終わると、今度は体育祭がやってくる。
中間テストが終わったあと、生徒会は体育祭の運営に関する細かい仕事が入り、忙しくなった。
とは、言ってもほとんど体育祭の実行委員会で段取りを決めるため、そんなに大変な仕事はない。
ちょっと確認したりするだけだ。
開会式や閉会式の進行は生徒会で行うので、その打ち合わせをする。
それ以外は実行委員会にお任せだ。
もっと忙しいのかなぁと思っていたけど、わりと余裕はあった。
そして迎えた体育祭当日。
私は来賓の方々の接待をしたり、実行委員のお手伝いをしたりして、わりと忙しく過ごしている。
しかしそれも午前中だけで、午後からはゆっくりできる。
午前中で私の出る競技は終わってしまったので、午後からはクラスの応援に専念する。
ちなみに今年の私の参加競技は二人三脚と大玉転がしだ。大玉転がしは大玉が迷走して大変だった。
今年はクラスに蓮見がいるので、私のクラスは体育祭にかなり熱を入れている。
総合優勝を狙っているらしい。うん、がんばれ。
午後の競技が始まる前にお昼だ。
私は2人分のお弁当を抱え、1年生の場所に向かう。
近くにいる子に弟の居場所を訊ねていると、弟が走って私の方にやって来た。
「姉さん」
「悠斗。ちょうど良かった、探してたの。お弁当、食べましょう?」
「あ、うん」
弟は少し恥ずかしそうにはにかむ。
可愛いな。さすが私の弟だ。
弟が周りのお友達からなにか言われていたが、弟がひと睨みすると静かになった。
……うん、なんだかお姉ちゃんは、君の将来が心配になってきたよ。お父様みたくなりそうだ。
私と弟が仲良くお弁当を食べていると、みんななぜか暖かい笑顔を浮かべて去っていく。
なんだろ。まあ、気にしてもしょうがないか。
「悠斗、これ食べる?」
「……姉さん、ちょっと恥ずかしいんだけど……」
「まあ。なにを言うの。ただの姉と弟のスキンシップじゃない。恥ずかしがる必要はないわ」
「いや……この歳で食べさせてもらうのはさすがに恥ずかしいよ……」
え?聞こえないなぁ。
だって、こういう時じゃないと、できないではないか。
弟にお弁当を食べさせて、何が悪い。
周りの目なんて気にしませんとも。
ブラコンなのは自覚してるから今さら気にしないもんね!
私はホクホク顔で弟と別れ、自分のクラスの応援をする体勢に入る。
順調に点数を稼いでいるようだ。この調子なら本当に優勝できるかもしれない。
そして迎えた一番大盛り上がりをする、混合リレー。
うちのクラスは当然のごとく、アンカーは蓮見だ。
隣のクラスのアンカーはもちろん王子である。
私は遠くで見守ることにする。しかしリレーの始まる前にお手洗いに行っておこう。
リレーが終わったらすぐに閉会式になる。閉会式は長いのだ。途中でトイレに行きたくなったら困る。
私がトイレから出て、少し歩いたところで王子と蓮見に遭遇した。げぇっ。
「蓮見様、リレーで優勝すれば私たちのクラスが総合優勝できますので、絶対優勝してくださいね」
私はにっこりと笑顔を作って蓮見に話し掛ける。
激励くらいはするべきだと思ったのだ。だって同じクラスの仲間なのだから。
しかし私はすぐに立ち去る体勢をとるのを忘れない。
「ああ。任せて」
蓮見は力強く頷いた。これなら大丈夫そうだ。
「僕には?頑張ってって言ってくれないの?」
「東條様はクラスが違うので」
私は笑顔を保ったまま、王子に言う。
なぜ私が違うクラスの人を応援しなければならないのだ。
「え~。僕と神楽木さんの仲でしょ?」
「それはいったい、どんな仲でしょうか?」
「質問に質問で返すのはずるいよ」
「申シ訳アリマセン」
面倒臭くなってきた私は棒読みで答える。
そんな様子の私を見て、王子は楽しそうに笑う。
え?どこに笑える要素がありました?
「あー、楽しい。あ、そうだ。僕が優勝したらお茶に付き合ってよ」
「なぜ私が?」
「奏祐と僕がお茶してもご褒美になんないでしょ?」
「……ある一部の方にはご褒美になるかと思いますが……」
そう、2人があらぬ仲だと想像して楽しんでる方たちとかね。
「僕にとってはご褒美にならないから。それに楽しみがある方が頑張れるでしょ?」
「……そうかもしれませんが、それとこれとは別」
「あ、もう行かないと。じゃあ、神楽木さん、お茶楽しみにしてるからね」
そう言って王子は走り去っていく。
ちょっと待って!私、お茶に付き合うなんて一言も言ってないよ!?なに勝手に決めてるの!!
人の話を聞け!
「……蓮見様」
「わかってる。優勝すればいいんだろ?」
「絶対ですよ!優勝したら、つばき屋のプリンをご馳走しますわ」
「……君じゃないし、食べ物じゃやる気でないよ」
蓮見は呆れたような顔をして言った。
食べ物じゃやる気でない?じゃあ、なにすればいいの?
「では、なにをすればいいですか?」
「そうだな……1回だけ、俺の言うことを聞いてくれればいいよ」
「……変なこと以外なら」
「それでいいよ。じゃあ、俺も行ってくる。応援、よろしく」
「ええ。頑張ってください」
蓮見は柔らかい笑顔を浮かべ、走り去った。
私はその後ろ姿を見送る。
私たちの様子をこっそり見ていた人影があったことに、私は気づくことはなかった。
そしてリレーが始まる。
私は、どきどきしている。あまり良い意味じゃなく。
お願い!どうか蓮見が勝って!
私は胸の前で手を組みながら必死に蓮見の優勝を祈り、リレーを見守る。
バトンはアンカーに渡った。
今のところ、蓮見と王子が同率1位だ。
私は神にも祈る気持ちで見守った。
そして優勝をしたのは―――
「なっ……!」
「嘘だろ……?」
私は目を見開いて、優勝者を見つめた。
そう、優勝したのは。
「悠斗~~!!」
私は思わず弟に駆け寄り飛び付いた。
「わっ。姉さん、驚かさないでよ……」
弟はしっかりと私を受け止めて、呆れた声をする。
そう、リレーで優勝したのは、王子でも蓮見でもなく、弟だったのだ。
「すごい!さすが私の弟だわ!すごく格好良かったよ!」
私は弟に抱きついたまま、笑顔で話しかける。
弟は照れくさそうにしていた。
「悠斗、優勝おめでとう!」
私は興奮したテンションのまま、弟の頬にちゅっとキスをした。
「ちょっ、姉さん。みんな見てるんだけど……」
弟は少し顔を赤らめて、眉をしかめて言う。
しかし、興奮している私はどこ吹く風だった。
弟は困ったように私を見たあと、呆然と私と弟を見つめる王子と蓮見を見つけ、にっこりと笑って言った。
「残念でしたね?東條さん、蓮見さん」
「悠斗君……」
「悠斗……」
「言っておきますけど、姉にちょっかいを出すなら、容赦しません」
そして弟はそれはもう、いい笑顔で言い放った。
「姉に手を出すなら、オレが相手になりますよ?」
「(姉にキスして貰えなくて)残念でしたね?東條さん、蓮見さん。(オレはして貰ったけど)」
シスコン弟参戦の回。
1話分遅れて、次は弟視点になります。




