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今回長いです……。
誤字の指摘等、ありがとうございました!
やってきました、遠足の日!
班はお友達グループと一緒の班分けになった。
遠足楽しみ!
バスの中で友達ときゃっきゃっ騒いで、博物館内では静かにはしゃいだ。
友達と一緒に遠足に行くというのは、どんなところであれテンションが上がるものだ。
博物館の中庭でお友達と楽しくお弁当を食べていると、私の視界の端に見覚えのある人物が映った。
その人物は一人で植物園の方に向かっているようだ。
気になった私は友達に断って、その人物を追う。
私の勘が告げている。美味しいシーンが見れると!
私が追っている人物は、私の大好きなライバルキャラである、水無瀬美咲様だ。
いつもはお友達と一緒にいることの多い彼女が一人で植物園に向かった。
これは、あれだろ。王子との逢い引きだろ。
そんな重要なイベント見逃すわけにはいかない!
二人の、いや、美咲様の幸せを願う会のメンバーとして!
ちなみに美咲様の幸せを願う会のメンバーは二人のみだ。私と、蓮見。随時メンバーは募集中である。あなたも二人を陰からこっそり見守りませんか。
いや、そんなことよりも今は目の前のイベントである。
私はストーカーよろしくこそこそと美咲様の後に続き、植物園内に入った。
しばらく進んだところで、予想通りの人物が待っていた。
「昴!ごめんね、待ったでしょう?」
「いや、僕もさっき来たばかりだから」
気にしない、と軽く美咲様のあたまをつつく王子。
それに嬉しそうに微笑む美咲様。
そんな二人を陰からこっそり見守る私。
嗚呼、なんて幸せな光景でしょう。鼻血が出ないか、それだけが心配である。制服白いから汚れたら目立つんだよね。
二人が何か話しているのを屈みながら、植木に隠れてニヤニヤして眺めていた私に冷たい声が掛けられた。
「君、なにしてんの?」
ハッと振り返ると私の背後には蓮見が冷たい目をして私を見ていた。
私の隠れている植木はそんなに背が高くない。私の身長と変わらないくらいだ。
蓮見は背が高いので、植木よりも頭1つ分くらい飛び出ている。
まずい。王子たちにバレてしまう。
「しっ!隠れて!」
私は蓮見をとっさに押さえつけた。
またおまえか!いいとこなんだぞ!邪魔すんなよ!と私の怒りを込めて思いっきり押し倒した。
「あれ……?」
「どうしたの?」
「いや、今、奏祐の姿を見掛けた気がしたんだけど、気のせいだったみたいだ。奥に行ってみようか、美咲」
「え、ええ」
私は王子たちが奥に行ったのを確認して、ふぅ、と息を吐いた。
危なかった。危うくバレるところだった。
まったく、美咲様の幸せを願う会メンバーとしての自覚が蓮見には足りないのだ。
バレたら折角のデートを台無しにしてしまうではないか。
ぷんぷん怒りながら私は蓮見を見下ろす。
ん?見下ろす?蓮見は私より背が高いのに、なんで私は蓮見を見下ろしてるんだ?
「……ねえ、君、誘ってんの?そういうの、嫌いじゃないけど」
蓮見は私を上目遣いで睨む。
うおお、色っぽい!男なのに、色気が!!
私は慌ててたせいで、蓮見の上に馬乗り状態で乗っていた。これじゃあ、私が誘ってるように見えるよね。誘ってないけどな!
私は顔を青ざめながら、慌てて蓮見の上からどく。
こんなの誰かに見られたらまずい。
私の評判は勿論、神楽木家の評判も落ちてしまう。
やばい、どうしよう。
頭が真っ白になってなにも思いつかない。
とりあえず、謝んなきゃ!
「ご、ごめんなさい。わざとじゃないの……ただ私は」
「昴と美咲の様子を眺めてどうする気なの?君、前から昴を熱心に見てたよね?」
二人の邪魔をするなら容赦しねえぞオーラを蓮見は出している。
ちょっと待って!
誰が誰を熱心に見てたって!?
「誤解ですわ!私は東條様なんか熱心に眺めてません!」
「じゃあどうして二人の様子を見てたの?」
「それは……」
どうする、なんて答える私!?
ええい、ままよ!どうにでもなれ!
「私、東條様と美咲様が許嫁だと聞いて、とてもお似合いな二人だと憧れてますの。先ほど美咲様が一人でこちらに向かっているのを見掛けたので、もしかしたら、と思って後をつけたのです。いけないことだとはわかってますわ。でも、どうしても気になって……。そうしたら案の定、幸せそうなお二人を見れて、胸がいっぱいになっていましたの……」
幸せをお裾分けして貰っていたのですわ、とちょっと涙ぐみながら言う。
嘘はついてない。全部本当のことだ。
そんな私を蓮見は胡散臭げに見ている。
む。失礼な!美咲様の幸せを願う気持ちは本物だぞ!
「……君は昴が好きなんじゃないの?」
「私が、おう……東條様を?まさか。話したこともありませんし、私は東條様のお名前を知っているだけですもの、好きになるなんて、ありえませんわ」
「……本当に?」
「ええ。私、嘘はついてません」
私は真っ直ぐ蓮見の顔を見て頷いた。
信じてほしい。私がこの先、王子を好きになることなんてあり得ないのだから。
「わかった、信じよう」
「ありがとうございます、蓮見様……!」
どうやら信じて貰えたようだ。良かった。
ほっと胸を撫で下ろしていると、蓮見が不審そうに私を見ていた。
なんだ。私なんかおかしなことをしたか?
「そういえば、君、なんで俺たちの名前知ってるの?」
はあ?なに今さら言ってんだこいつ。
「なんでもなにも……東條様をはじめ、美咲様と蓮見様は有名でしてよ?東條様は新入生代表でしたし、東條様と蓮見様の名前を聞かない日はありません」
「そうか……それもそうか。ところで、君、名前は?」
「私の名前、ですか……」
言いたくない。でもこれで言わないと不審がられる。
折角信じて貰えたのだから、この信用を無くすわけにはいかない。信用第一!
「神楽木凛花と申します」
「神楽木……ね。覚えた」
名前覚えられちゃったよ……これなんのフラグだ?
そうだ、ここで凛花は王子に名前を聞かれるんだった。ちょっと興奮し過ぎて忘れてたよ、そんなイベントがあることを。
実際に名乗ったのは王子に、じゃなくて蓮見に、だったけど。
「君、入学式の時に寝てた子だったよね?」
うぐっ。
忘れかけていた古傷を抉られた。
私が顔を強張らせたのを肯定ととったらしい蓮見はにやりと笑った。
「どうやら俺は、君の知られたくない場面を見たようだね?」
「……そのようですわね」
私は苦虫を100匹くらい噛み潰した気持ちで答えた。
「それを言いふらされたくなかったら、俺に協力してよ」
「協力、ですか?」
私は知らず知らずにジリジリと後ろに下がっていたようで、壁に背中が当たった。
なんだろう、この追い詰められてる感じ。
私、もしかして脅されてます?
「そう。俺は昴と美咲がこのまま上手くいってほしいと思っている。だから、それに協力してほしい」
してくれるよね?
と笑顔で蓮見が迫ってくる。リアル壁ドンだ。ときめく方じゃなくて脅されている方の。
まじで脅されてた……こ、こわいよぉ。
勿論、王子と美咲様がくっつくのは私の一番望んでいることだ。むしろ望んで協力したい。
だけど、蓮見に協力して大丈夫なのだろうか?
王子に私という存在を知らせることにならないだろうか?
「協力するのはいいのですが……私が変に東條様に近付いたりしたら美咲様に不審がられてしまいますし、東條様に憧れている方たちにも反感を買ってしまいます。ですから、陰でこっそり協力する程度のことなら、協力致します」
「もちろん、それで構わない。じゃあ、よろしく頼むね」
「は、はい……あの、それと、学校で私に話し掛けるのも控えて下さい。蓮見様に憧れている方もたくさんいらっしゃるので」
「わかった。とりあえず、携帯の番号を交換しようか」
わかった、わかったから、壁ドン態勢やめてくれ。
怖いから。
今、人がいなくて良かったと心底思った。
「あら、凛花さん、遅かったですね?」
「ええ……ちょっと怖い犬に襲われそうになって……ちょっと休んでから戻ってきましたの」
「まぁ!大丈夫ですか?バスに戻ります?」
「大丈夫ですわ。でも、そうね、私は先にバスに戻って休むので、皆さんは植物園に行ってらして。私なら大丈夫ですから」
「そうですか……?」
私は大丈夫だからと友達を植物園に送り出し、私は一人バスに戻る。
自分の座席に座ったとたん、どっと疲れが押し寄せた。
どうしてこうなった。私、なにを間違えた?
その時、携帯がピロリンと音を鳴らす。
『月曜日、作戦会議をする。場所は追って連絡するので、忘れないように』
腹黒野郎からのメールだった。
私の都合は?私の都合聞いてくれないの?
本当に、なんでこんなことになったんだろう……?




