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失敗した。完全に失敗した。
なんで失敗したのかよくわからないが、とにかく失敗した。
なんで結局蓮見の気持ちを再確認することになったの。まさか、蓮見が引いてくれないとは思わなかった。
私は頭を抱えて、ベットの上を転がる。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
なにも問題解決してない。
こうなったら。
「よし。寝よう」
逃げないという決意をどこか遠くに投げ捨てた私は夢の世界に逃げたのだった。
朝、目が覚めてたら問題がすべて解決していた―――
なんてことはもちろんなく。
私は憂鬱な気持ちで登校した。
できれば蓮見の顔を見ずに過ごしたいが、同じクラスなのでそれも叶わない。
体育の授業だけは男女別なので、蓮見の姿を見ずに済む、と思ったのに、体育の授業は自習になり、私はお友逹に付き合って、男子の体育を見学することになった。
体育は隣のクラスと共同で、隣のクラスには王子がいる。
男子はサッカーをやっているようで、今、ちょうど蓮見のチームと王子のチームが試合をしていた。
互角の争いをしているようで、たいへん盛り上がっている。
お友達が「蓮見様、すてき」とか「東條様かっこいい」と言っているのに適当な相槌をうちつつ、私は試合の様子をぼんやりと眺めていた。
気づけば私は蓮見を目で追っていた。
いつも無表情なのに、やっぱり蓮見も男の子だったのか、とても真剣ないきいきとした表情をしてサッカーをしている。
王子と張り合う時なんかは本当に楽しそう。
試合が終わり、チームメイトとなにか話していた蓮見がふいにこちらを向き、私と目が合った。
私は慌てて視線をそらすと、蓮見も何事もなかったかのようにチームメイトと話し出す。
私はそれに安堵の息を吐く。
ふいに隣から黄色い悲鳴があがり、私はそちらを向いた。
向いた先には王子が汗を拭きながら、笑顔でこちらに近づいてきた。
誰に用事だろう?私はキョロキョロと辺りを見渡すが、王子と親しくしているような人物は見当たらない。
もしかして、王子が用があるのって、私?
嫌な予感は当たるもので、王子は私の前に立った。
「神楽木さん、ちょっといいかな?」
よくないです。お帰りください。
そう思ったが、言えるはずもなく、私は渋々頷く。
王子にこっちに来てと言われてついていく時、あちらこちらから鋭い視線を感じた。
うう、視線が、痛い……。
私は人気のないところまで王子に連れられて来た。
王子は私に振り返り「美咲と話したよ」と言った。
ああ、あのことの報告か。
報連相は大事なことだけど、別に報告なんてしてくれなくても良かったのに。
「美咲に怒られたよ。『私の幸せを勝手に決めつけないで』ってね。君に言われた通りだった」
「そうですか」
「僕は美咲を大切に思ってる。でも美咲を大切に想う僕のこの気持ちは、妹に対して思う気持ちと似ていると思うんだ。一晩考えて、そう結論ついた」
「……そう、なのですか」
「それも美咲に言った。そしたら、知っていたって笑ってた。美咲には、僕の気持ちがお見通しだったみたいなんだ」
恥ずかしいけどね、と王子は苦笑した。
私も美咲様らしいと思って、つい、頬が緩む。
「美咲に言われたんだ。『私は絶対昴を振り向かせてみせるから、覚悟してなさい』って。僕の幼馴染みは僕より男前だったよ……」
「まぁ。美咲さんが?」
王子は情けない表情をして言った。
なんて男前!素敵。さすが美咲様である。
「ねえ、僕が、観覧車で言ったこと、覚えてる?」
「観覧車で言ったこと……?」
なんだろう。色々話をし過ぎてどれのことか、さっぱりわからない。
「わりと君に本気で惚れているって言ったこと」
「あぁ、アレですか……」
うっかり忘れてました。すみません。
そのあとの話の方が私にとってはインパクトが強かったのだ。
「あの日、一晩じっくり自分の気持ちと向き合ってみて、やっぱり同じ結論に至った」
あ、なんか、話の流れがまずい。
そういう空気を感じ取った私は急いでなにか言って王子の話の続きを遮ろうとするが、こういう時に限ってなにも思い浮かばない。
「やっぱり僕は君に惹かれてるみたいなんだ。君が僕のこと、苦手だと感じていることはなんとなくわかってる。だけど、僕にチャンスをほしい」
「チャンス……?」
「卒業するまでに君を振り向かせられなかったら、僕は君を諦める。でも、もし君が僕に好意を持ってくれたなら、僕と付き合ってほしいんだ」
「……美咲さんは?美咲さんは、どうされるのですか?」
「美咲も、了承済みだよ。卒業まで、というのは、美咲との約束の期間でもある。僕と美咲には婚約の話があるけど、美咲が僕を振り向かせられなかったらその話はなかったことにする。そうやって、美咲から言ってきたんだ。だから、僕も美咲と同じ期間で君を振り向かせる。これはね、僕と美咲の、初めての勝負なんだよ」
王子はイタズラを仕掛けた子どものような笑みを浮かべた。
これは、美咲様と王子の勝負。
なら、私が口を挟むべきではない。
「……わかりました。ですが、私は全力で美咲さんを応援しますわ。それでもよろしいですか?」
「もちろん。むしろ、燃えるね」
王子は挑戦的に笑う。
「ちょっと奏祐に先を越されちゃったけど、これで僕も同じ土俵だ」
「……ちょっと待ってください。なぜ、東條様が蓮見様の気持ちをご存じなのですか?」
ていうか、告白したことも知ってる風だよね?
私、まだ誰にも言ってないよ?なんで王子が知ってるの?
「……?見てればわかるでしょ?」
な、なんだと……!?
見ててもわかんなかった私はやっぱり鈍感なのか!
よし、決めた。私の当面の目標は『脱・鈍感』だ。
目を見開いて固まった私を王子は面白そうに見る。
「神楽木さんって、やっぱり面白いね」
面白いって言われても、嬉しくありませんからね?
しかしどうやら、私はますます凛花と同じ道を歩んでいるようだ。
これが漫画の力なのか?
いや、まだ負けない。誰にも惚れるものか!
漫画の通りになんか、なってあげないのだ。
いつも10話ごとに別視点の話にしていましたが、今回は1話分先伸ばしします。




