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スポーツ施設を出た私たちは、少し早めの昼食をとったあと、ぶらぶらと歩いていた。
たわいのない話をして歩いていると、小動物とのふれあいコーナーという看板が目に入った。
気になったので行きたいと提案すると、美咲様は笑顔で乗ってくれたが、あとの2人の顔はイマイチだった。
私と美咲様は王子と蓮見を置いて、ふれあいコーナーに行くことにした。
ふれあいコーナーでは、定番のウサギと、カピバラがいた。アルパカもいたが、私の目はカピバラに釘付けになった。
私は恐る恐る近づき、カピバラを撫でる。
つぶらな瞳で私をきょとんと見つめるカピバラに私はメロメロになった。可愛い。お持ち帰りしたい。
美咲様もウサギやアルパカに触れあい、慈悲深い笑みを浮かべていた。まるで女神のような美咲様の姿に私は倒れそうになる。
天国だ。天国はここにあったのか……!
私は理性を総動員させ、なんとかふれあいコーナーから離れた。
名残惜しげに何回も振り返ってしまったのは仕方ない。あそこは癒しの空間なのだ。オアシスなのだ。
美咲様と可愛かったですね、と和やかに会話をしていると、キャーという悲鳴が聞こえてきた。
辺りを見ると、どうやら遊園地の方に入っていたらしく、近くにジェットコースターがあるようだ。
それを知った王子が乗りたいと言い出し、美咲様も乗りたいと言うので私は仕方なくジェットコースターに乗ることになった。
ジェットコースターの先頭に乗せられそうになったが、私は全力で断り、2番目の席に座る。
先頭の席にはジェットコースターが好きらしい王子と美咲様が座り、私の隣には涼しい顔をした蓮見が座った。
こんな状況でなければ、目の前に座っている2人の観察をするのだが、今の私にそんな余裕はとてもなかった。
「ぎゃああああ!!こわいムリもうやめてぇええぇえええ!!」
私はお嬢様の嗜みも忘れて、絶叫した。
私はガクガクする膝に鞭を打ち、よろよろとジェットコースターから降りる。
肩を震わせて笑いを堪えている蓮見の手を借りてなんとか立つことができた。くそう……。
私はジェットコースターが苦手なのだ。
両手を上げてキャーと笑える人の気持ちがわからない。
私は安全装置に必死にしがみつき、ギャアと絶叫するか、これ落ちたらどうなるかなと現実逃避をするか、目をつむるかしかできない。笑うなんて余裕が私にはないのだ。
じゃあなんで乗ったのか、と突っ込まれたら、空気を読んでみました、と答える。私は空気を読める子なのだ。たぶん。
苦手なだけで酔うわけでもないし、目をつむっていれば大丈夫だと思ったのだ。
甘かった。どれくらい甘かったかと言うと、チョコレートケーキにたっぷりの生クリームを塗って砂糖と蜂蜜と黒糖をぶっかけたくらい、甘かった。
目をつむる間もなくジェットコースターは進んでいった。気付いたら、ジェットコースターが下に落ちていった。
蓮見は笑いが収まらないようで、未だにうつむき、肩を震わせている。
僅かに笑い声も漏れている。
もういっそ笑いを堪えずに大笑いしてくれ。
我慢されてる方がつらい。恥ずかしい。
なんとか膝の震えが収まった私は、まだ笑っている蓮見を置いて出た。
もう蓮見なんて知らない!
私が怒っている気配を察したのか、蓮見は私を追いかけて、ごめんと謝った。
まだ声震えてるじゃないか。そんなに面白かったか?!
私は余計にむくれる。
段々と笑いの発作が収まってきた蓮見が真剣に謝ってきた。しょうがない、許してやろう。
まあ、私が蓮見の立場でもきっと爆笑しただろうし。
ジェットコースターの外に行くと、先に降りてた美咲様たちが待ってくれていた。
美咲様は私に「大丈夫?」と言ってくれた。美咲様は優しい。どっかの誰かさんとは大違いだ。
王子は「すごい悲鳴だったね。ジェットコースター苦手なのに無理に乗せてしまってごめん」と謝ってくれた。
王子への好感度がちょっぴりあがった。ちょっとだけ。
しかしよく見ると王子の目が笑っていたので、王子の好感度が下がった。くそう、王子め。
ご機嫌斜めな私に蓮見と王子がソフトクリームを買ってきてくれた。
私はバニラのソフトクリームをむくれたまま受け取り、無言で食べる。
冷たくて美味しい。最近は気温が上がってきて午後になると暑いくらいなので、冷たいアイスが余計に美味しく感じる。私の頬が緩む。
「本当に機嫌直ってる……」
「だから言っただろ。甘い物で機嫌直るって」
「ふふ。そこが凛花さんの可愛いところよね」
……聞こえてますからね?特に男子2人、あとで覚えてろ!
まあ、事実なんですけれども……。
そのあと、遊園地の定番アトラクションに乗って回った。
メリーゴーランド、コーヒーカップ、おばけやしき。
なんと蓮見もおばけやしきに入ったのだ。
4人で一緒に入ったのだが、正直あんまり怖くなかった。
しかし、蓮見のビビり具合が面白かったので入ったかいはあったと思う。
私たち3人はニヤニヤして蓮見を見る。
蓮見は恥ずかしそうにそっぽを向いた。




