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 私は蓮見に言われたことがショックで、なにを言っていいのかわからなくなった。


「…………」

「黙ってないで、なにか言ったらどう?」

「わたし……」

「無理やり、言わせてあげようか?」

「蓮見様……?」


 蓮見が私に近づく。私はとっさに逃げようと後ろに下がろうと足を動かすが、先ほど捻った足が痛み逃げれない。

 あっという間に蓮見に距離を詰められ、蓮見の綺麗な整った顔が間近に迫る。

 蓮見の瞳がゆらゆらと揺らめく。こんな状況だけど、私は蓮見の瞳が綺麗だと思った。


「なんで、拒否しないの、君は」


 蓮見の顔が苦しそうに歪む。そんな蓮見に私は微笑んでみせた。


「蓮見様は、酷い事をするような方ではありませんもの」

「……なんで君は……」

「まだ蓮見様と知り合って半年しか経ってませんが、蓮見様が優しい人だということくらい、知ってます。蓮見様が作るお菓子はとても優しい味がしますもの」

「…………と思ったのに……」

「蓮見様?」


 蓮見は何かを呟いたが私は聞き取れず、聞き返すが蓮見は言ってくれなかった。

 私は聞き返すのを諦めることにする。

 蓮見は少し考え込んで、口を開く。


「ねえ、君はあの日、飛鳥となんの話をしていたの?」

「あぁ……あの日、私は飛鳥くんと……」


 蓮見は痛みを堪えるように視線を下に向ける。


「和菓子の話をしていました」

「ーーーは?和菓子?」

「ええ。飛鳥くんのお家は和菓子屋さんで、飛鳥くんも和菓子を作るのですって。だからその和菓子を食べて意見を聞かせてほしいと……蓮見様?どうかされました?」


 蓮見様は片手で顔を覆って座り込んだ。

 どうしたんだろう。急に具合が悪くなったとか?


「……なんだ、ただの俺の勘違いじゃないか……勘違いで八つ当たりとか……俺最低……」


 座り込んで何かをぶつぶつ呟いている蓮見が心配になって、私も座り込もうとするが、捻った足が痛んでバランスを崩す。


「ひゃっ」


 私は倒れると思って目をつむって痛みに備えたが、いっこうに痛みは訪れない。私が恐る恐る目を開けると、私は蓮見に抱き止められていた。


「大丈夫?」

「へ、平気です。ありがとうございます」


 私は慌てて退こうとするが、足が痛くて動けない。

 やばい。倒れた時に余計に悪くしたようだ。


「足、どうかしたの?」

「いえあの……ちょっと捻っただけですのでご心配なく」

「大丈夫なようには見えないけど……」

「本当に大したことありませんから」

「……じゃあ、歩ける?」

「………………アハッ?」


 秘技笑って誤魔化す。私の必殺技が炸裂した。

 しかし蓮見には効果がなかったようで、ただ呆れた顔をされた。


「大したことあるだろ……どう考えても」

「……はい、すみません」

「はぁ……しょうがないな。ここじゃ暗いし、別のところに移動しようか。しっかり、掴まって」

「え?」


 私は蓮見に抱えられた。横抱き、つまり、お姫様だっこである。


「あ、あの、蓮見様……」

「なに?」

「……重くないですか……?」

「そう?軽い方なんじゃない」

「……その……ありがとうございます」

「べつに……」


 私は蓮見に抱えられて、蓮見って以外と筋肉ついてるんだなぁ、と思った。

 抱えられてて不安じゃない。むしろしっかりとした安定感がある。

 私は肩の力を抜き、蓮見に寄りかかる。当たり前だけど蓮見の匂いがする。


「蓮見様」

「なに?」

「仲直り、して頂けますか?私、自分で思ってる以上に蓮見様のこと……」

「俺のこと……?」


 蓮見の目が何かを期待するように揺れる。

 そんな目を見つめながら私は言う。


「良いお友達だと思ってるみたいなんですの」

「……………………そう。お友達、ね……」

「はい」


 私はにっこり笑顔で頷くと、蓮見は苦笑した。


「うん、まあ、君だからね……仕方ないか」

「?」

「今回は、全面的に俺が悪かった。君に八つ当たりしてた。これからも前と同じように接してほしい」

「はい……!もちろんですわ」


 私が頷くと蓮見も微笑む。ずっとそんな顔をしてればいいのに、と私は思った。蓮見の微笑んだ顔が私は好きだ。

 蓮見に抱えられて私はどこかの部屋のソファにそっと下ろされた。

 蓮見は部屋の何処かから救急箱を持ってきて、足を見せるように、と言う。

 私が大人しく捻った方の足を見せる。

 蓮見は慎重な手付きで私の足を触り、患部を見る。

 熱を持っているようで、ひんやりとした蓮見の手が心地よく感じた。


「腫れてる……たぶん、捻挫だろうけど、念のため医師に診て貰った方がいい。応急措置だけしたいけど……」

「ああ、ストッキング……えっと、脱ぐので目を閉じててもらっても良いですか?」

「あ、ああ」


 蓮見は少し顔を赤くして私に背を向けた。私はできるだけ早くストッキングを脱ぐ。

 脱いだストッキングは鞄に仕舞い、蓮見にもういいですよ、と声を掛ける。

 蓮見は振り向くと早速応急措置を施してくれた。

 慣れた手つきで包帯を巻いていく蓮見に、本当に蓮見はなんでもできるなあ、と感心した。


「ありがとうございます、蓮見様」

「いや……俺のせいだし、これくらい当然だろ」


 蓮見は照れたように何処かを向いて言う。

 蓮見って意外と照れ屋さんだ。

 私の両親に声を掛けてくる、と蓮見は部屋を出ていこうとする前に、何かを思い出したかのように私の方を振り向く。


「言い忘れてたけど……そのドレス、似合ってるよ」


 そう言い残して蓮見は足早に去っていく。

 部屋に残された私は、呆然とドアを見つめる。

 きっと私、顔が真っ赤になっている。

 不意打ちなんてずるい。


 私はソファに置いてあったクッションに顔を押し付けて、顔の熱を冷ました。




捕捉

「…………と思ったのに……」は「諦めようと思ったのに」が当てはまります。

蓮見は飛鳥と凛花が良い雰囲気で両思いだと勘違いして、それに嫉妬して凛花に八つ当たりをした、ということです。気まずいのと2人を見ているのが辛いのが合わさって今まで凛花を避けてた感じです。大人げないね蓮見さん!


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