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文化祭が無事に終わり、その半月後、形ばかりの生徒会選挙が行われ、見事に朝斐さんが生徒会長に当選した。生徒会には興味ない人たちばかりなので、立候補すれば大抵当選する。
新しい生徒会執行部の発足は1ヶ月後だが、前生徒会の皆さんは受験に忙しく、現在は新生徒会執行部メンバーで細かい仕事を担っている。
とは言っても特にイベントはないのでそんなに忙しくはない。
忙しくはないのになぜか毎日放課後に集まっている。解せぬ。
「神楽木、そっちは終わったか?」
「ええ、終わりました」
「朝斐さん、ここなんですが……」
「どれどれ……あぁ、それな。それは……」
淡々と仕事を進める私たち。2年の先輩方は完全に沈黙して仕事をしている。
固い、固いよ。こういう雰囲気嫌いじゃないけど、毎日こうだと肩凝る。
わいわいとまではいかずとも、もっと和やかに談笑しながら仕事をするものだと思ってた。私の思い込みだったようだ。
「じゃあ、お先に」
「あ、お疲れ様でした」
「おーおつかれー」
先輩方は自分の担当分の仕事が終わるとすぐに帰宅してしまう。私としては1年間一緒に仕事をするのだから、先輩方と仲良くなりたい。
しかしそれすら許されず先輩方は帰宅してしまう。
勿論、わからないことは聞けば丁寧に教えてくれるのだが、壁を感じる。どうしたらいいかなぁ。
「あ、やっべ。もうこんな時間か……オレ、これから用事があるから帰るわ。おまえたちはどうする?」
「もう少しで終わりそうなので、残ります」
「私も」
「……俺も」
「そっか。あんまり、遅くならないようにな?鍵だけは頼む。じゃ、お先」
「わかりました。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
「早く帰……お疲れ様でした」
「凛花、ちゃんと聞こえてるからな」
朝斐さんは私を睨むと足早に去っていった。
またもや私たちに重い沈黙が訪れる。
室内に響くのはペンの音だけ。
私は自分の分の仕事を終わらせ、ペンを置く。疲れた、甘い物が食べたい。
「それだ!!!」
突然叫んだ私を蓮見は不審そうに、飛鳥は驚いたように見る。
「……突然なに?」
「驚いたぞ……急に大声を出すな」
「ごめんなさい……つい」
内心では舌を出してテヘペロっ☆とするが、実際にはやらない。何故なら私はお嬢様だから。
「で、突然なんなの?」
「私、先輩方と仲良くなる秘策を思い付いたのです」
「仲良くなる……秘策?」
「ええ。ほら、先輩方とはなにかこう……壁みたいなものを感じませんか?」
「そう?俺は気にしてないけど」
「蓮見様が鈍感なだけでは?」
「ふぅん……?言うようになったね?」
蓮見が冷たい笑みを浮かべる。
ひぃっ。すみません、調子乗りました!
飛鳥はそんな私たちのやり取りを見て苦笑する。
「先輩たちから壁を感じるのは、君たちに遠慮してかもしれないな」
「私たちに……遠慮?」
「なんで先輩たちが俺たちに遠慮するわけ?」
「……君たちは、知らないのか?」
「なんのことでしょう?」
「いや、俺も少し前に聞いた話なんだが……君たち、見回りの最中に乗馬をしたそうだな?」
私はびくりとして、思わず蓮見を睨む。
だから言ったじゃないですか、という抗議の意味を込めて。
蓮見は私の視線を受け止めて、そ知らぬ顔で飛鳥を見た。
「それが、なにか問題でも?」
いや、大いに問題でしょうが!仕事中に遊ぶやつがあるか!
と私は内心突っ込むが、口には出さない。私のハートはチキンの形をしているから。
「別に咎めているわけじゃないんだ。まあ、来年はやめてほしいが。過ぎたことを言ってもしょうがない」
飛鳥は苦笑したままそう言った。飛鳥は真面目で正義感も強い。だからてっきり怒られると思っていた私は拍子抜けした。以外と融通が利くな。
それは蓮見も同じだったようで、表情自体は変わっていないが、目が戸惑ったように揺れていた。
なんか最近、蓮見の表情を読み取るスキルが向上している気がする。そんなスキルいらないのに。
「ーーともかく、君たちは2人一緒の馬に乗ったそうだな。それで、噂が広がっている。蓮見と神楽木が付き合っているのでは、とな」
「……………はい?」
「……………」
私は飛鳥の言葉に完全にフリーズした。
頭が真っ白でなにも思いつかない。
蓮見も驚いたように目を見開いている。
それはそうだよね。蓮見も迷惑だよね。美咲様に勘違いされちゃうしね。
そうだとも。蓮見が好きなのは美咲様なのだ。だから私と蓮見が付き合うことなんてありえない。
なのに、なにを勘違いしているのだ。
私は頭に一気に血が上るのを感じる。
ガタン、と勢いよく私は立ち上がり、目の前の机を思いっきり叩く。めっちゃ痛い。
「ありえませんわ!私と蓮見様が付き合うなんて、天と地がひっくり返ってもありえません!」
「そうなのか?」
飛鳥は私の勢いに引いたように答えた。
私は「ありえませんよね!?」と蓮見を見て言うと、蓮見も私の勢いに引いたのか「あ、ああ……」と呆然としたように答えた。
しかし飛鳥はまだ納得できないようで、腕を組んで眉間に皺を寄せいる。
「しかし、こうして生徒会活動を通して君たちを見ているが、とても仲が良いように感じたが……」
「気のせいです。私たちの関係は顔見知り以上友達未満なのです」
「……とてもそうは見えないが」
「では、ただの友達で」
「わかった、それで納得しよう」
「……………」
蓮見は頭を抱えて俯いている。
あれ。友達もだめだった?そんなに嫌だった?
「……勝手に納得しないでくんない……っていうか友達未満だったのか俺……」
蓮見がぶつぶつ何かを言っているが私たちの耳には入らない。
安心してくれ、蓮見。君の疑惑は私が晴らしてあげよう!
だからそれまでは私の友達ってことにしておいてね?
蓮見さんが可哀想なのはお約束です。




