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30 親友

蓮見視点です


「俺と、恋人になってみる?」


 なに言ってんの、俺?

 自分で自分の言ったことが信じられない。

 この俺が、女を口説くだなんて。


 いや、これは彼女をからかっているだけだ。そうだとも。

 でも、この衝動はなんなのだろうか?間近に迫った彼女の唇に触れてみたい、というこの気持ちは?

 あともう少し、あともう少しで彼女の唇に触れられる―――



 あと数センチ、というところで俺は我に返った。何してるんだ、俺!

 彼女を見れば、彼女は俺を凝視して固まっていた。

 普通の女なら少しは嬉しそうにするのに、彼女は少しも嬉しそうじゃない。俺のことなんか眼中にないのだろう。

 そう考えた時、ずきり、と胸が痛んだ。なんだ、この痛みは。

 俺は胸の痛みを無視して、意地の悪い笑みを浮かべ、彼女から顔を離す。その時に彼女の唇を名残惜しく思ったりなんてしていない。していないのだ。


「冗談だよ。本気にした?」


 俺がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にして怒った。

 そんな彼女が可愛く見えてしまう俺はどうかしている。

 なんだか彼女を見ていられなくなって、立ち去ろうとした時、彼女の言葉を思い出した。


『私、生徒会に入ることになりましたの』

『朝斐さんに食事に誘われたのですわ』


 聞いた時はなんとも思わなかったが、今になって胸がモヤモヤしてきた。なんなんだ、これ。

 そして気付いたら俺は彼女に言っていた。


「あぁ、そうそう。俺も生徒会に入ることになってるから」


 なに言ってんの、俺?生徒会なんて面倒くさいものお断りだろ?


「なんですって……?」


 彼女が驚いたように俺を見る。なぜだか、その様子に満足感した俺はにっこりと笑う。


「よろしくね」


 呆然と俺を見る彼女に気を良くした俺はそのまま立ち去ったあと生徒会顧問の所へ行き、生徒会に入ると言うと泣いて喜ばれて、少しウザかった。

 彼女が一緒なら、生徒会も悪くないかもしれない。なぜかそんな風に思ったのだ。




「奏祐、少しよろしいかしら?」


 にっこりと笑顔を武装した美咲に俺は呼び止められた。

 特に用事も無かった俺は頷いたが、なにか嫌な予感がする。今日の美咲の笑顔は完璧過ぎて少し怖く感じた。

 美咲と2人きりになると、美咲は笑顔のまま、俺に言った。


「聞いたわよ、奏祐。凛花さんに、あなた、とんでもないことをしたそうね?」


 美咲になにを言ったんだ、彼女は。

 美咲は彼女を好いている。 もしかしたら、俺よりも彼女の方が好きなんじゃないんだろうか。


「恋人になってみる?なんて言って、キスまで迫ったんですってね?あらやだ。私の幼馴染みはいつから狼になったのかしら?」

「………あれは、その……」


 美咲が恐い。笑顔なのに恐い。

 俺が言い訳をしようとすると「言い訳なんて聞きたくなくってよ」とピシャリと言われた。言い訳も許されないようだ。


「あなたは乙女心を踏みにじったのよ。それがどれほど罪深いか……わかってるわよね?」

「……ご、ごめん……」

「私に謝ってどうするの。謝る相手は私ではないでしょう。凛花さんに土下座でもすることね」


 美咲の言い方がいつになくキツい。普段はおっとりしている美咲だが、怒ると恐い。容赦なく心を抉るようなことを言うのだ。

 笑いながら心を抉る言葉を放つ美咲はまるで氷の花のようだ。悪役がよく似合う。


「……ふぅ。いくら嫉妬したからって急に迫るのはよくないわ。凛花さん相手にはじっくりといかなくては」

「は……?嫉妬?」


 誰が誰に嫉妬したと言うのだろう。

 俺がおうむ返しに聞き返すと、美咲は何を言ってるのというような冷たい目で俺を見た。


「相模様に嫉妬したのでしょう?」

「なんで、俺が」

「凛花さんと仲が良いからではなくって?」

「だから、なんで俺が神楽木と相模さんが仲良くしてると嫉妬しなきゃならない?」


 今度こそ美咲は呆れた顔をした。

 なんなんだよ。


「だって、奏祐は凛花さんが好きなのでしょう?」

「―――――は?」


 俺は美咲の言っていることが理解できない。いや、理解するのを拒む。

 俺が、この俺が、あんな変な女を好きだって?


「そんな馬鹿な……そんなことあるわけないだろ」

「あら。奏祐は好きでもない女の子に無理矢理キスをするような人だったかしら?」

「…………」


 そんなことは、ないと思いたい。

 向こうから迫ってきたのならともかく、俺からキスを迫るようなことはない。断じてない。

 しかしそうなると、俺はあいつのことが好きということになるわけで……。


「……嘘…だろ……?」

「まぁ、自覚なかったの?呆れた……」


 俺はらしくもなく、顔が赤くなるのを自覚した。

 そんな俺を美咲は楽しそうに見ている。他人事だと思って。

 片手で顔を押さえる。ちょっと落ち着こう、俺。

 きっとなにかの間違いだ。あんな変な女を俺が好きになるわけがない。

 色々葛藤している俺に、美咲は涼しい声で言う。


「とにかく、早めに凛花さんに謝ることね。奏祐の愛情込めて作ったお菓子を持っていけばきっと許してくれるわ」


 美咲、からかってるな?



 後日、美咲のアドバイス通りに作った菓子を持って彼女に謝った。

 どうしてだろう。前まで意識していなかったのに、彼女が可愛く見える。重傷だ。

 美咲の言った通りだった。信じられないことに、いや、今でも信じたくはないが、俺は彼女が好きらしい。

 これまで無意識にしてきたことを思い出して、顔が青ざめる。どうしよう。俺、彼女に結構酷いこと言ってる……。

 そんな俺を見て同情したらしい彼女は、俺を許してくれた。


「犬に嘗められそうになったとでも思っておきますわ。私は気にしてませんので、蓮見様もお気になさらぬよう」


 犬……俺は犬と同列なのか。少しは気にしてくれ。

 俺は彼女にバレないようにこっそり肩を落とした。




 もう少し彼女に優しく接しよう―――

 そう思っていたのに、彼女を前にするとダメだった。

 生徒会の仕事を彼女と手伝うことになって、さりげなく彼女を気遣おうと思っていたのに、一緒に仕事をしていた飛鳥に先を越される。

 それに彼女も嬉しそうにいちいちお礼を言うのだ。

 正直、俺の心境としては面白くない。

 飛鳥より一歩リードしようと然り気無く張り合っているうちに1日はあっという間に終わった。

 なにやってるんだろうか、俺は。

 明日の文化祭の見回りこそは、彼女を完璧に気遣ってみせる。そう決意を固めた。



すみません、蓮見視点もう1話だけ続きます……

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