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今日は美咲様との定期的に行っているお茶の日だ。
夏休み中はお互いに都合がつかずに会えなかったので、今日は久しぶりに美咲様と会う。
学校でも会ってはいるのだが、美咲様の周りが怖すぎて話なんてとてもできない。私のハートはチキンの形をしているのだ。
今日の待ち合わせはお洒落なカフェだ。パフェが美味しいらしい。
私たちはさっそくパフェを頼む。
美咲様はいちごのパフェ、私はチョコレートのパフェだ。
パフェが来るまでの間、私は美咲様の報告を受けた。
「まぁ、夏休みは屋形船を貸し切って東條様と花火を眺められたのですか」
「そうなの。船の上で見る花火はまた格別だったわ」
ごめんなさい、美咲様。それ、私の思い描いていた花火大会デートではありません……。
私が思い描いていたのは、普通の高校生がやるようなやつなのだ。女の子は頑張って浴衣着て、出店を見て回って、花火を一緒に見て、良い雰囲気になって、下駄の鼻緒が切れて男の子にしょうがないなと言われながらおんぶをされちゃう甘酸っぱい青春デートを思い描いていたのだ。やっぱりお金持ちのご子息とご令嬢ともなると感覚が違うのか。お金持ち舐めてた。
でも、まあ、いいか。美咲様嬉しそうだし。美咲様が楽しかったならそれでいい。
美咲様は花火大会以外のイベントには行けなかったようだ。王子と都合がなかなか合わなかったようだ。残念だ。
しかし、美咲様。もうすぐ文化祭があるのですよ!ここでは王子と一緒に見て回って周りを牽制しましょう!
と私が言うと美咲様は恥ずかしそうにしながらも、そうね、と頷いてくれた。
私が早めに約束を取り付けるように、と言ったところでパフェがきた。
うおお……意外とボリュームあるな……。私は平気だけど、美咲様は大丈夫かな。
ちらりと美咲様を見ると、美咲様は目を輝かせてパフェを食べようとしていた。
……うん。大丈夫そうだな、これは。
私も美咲様に続いて食べる。
美味しい!もっと甘いかと思っていてたけど、ビターチョコレートを使っているようで、チョコの苦味とバニラの甘さがミックスされてちょうど良い甘さになっている。いやもう、幸せだ。
私と美咲様はパフェを堪能し、お腹いっぱいになった。
パフェを食べ終わったあとは、今度は美咲様に私の話を聞いてもらう。もちろん、菜緒と朝斐さんが付き合っていた件だ。
私があの日のエピソードを一通り話し終えると、美咲様は目を丸くしていた。
「そうなの……菜緒と相模様が……お似合いの2人ね」
「……そうですね。悔しいけど、お似合いだと思いますわ」
「あらあら。凛花さんったら、菜緒を取られたと妬いているのかしら」
「……はい」
「ふふっ。凛花さん、かわいいわ」
「えっ!?いえ、そんなことありませんわ」
美咲様に可愛いと言われて私はとても動揺した。頭の中で美咲様の、凛花さんかわいいわ、がこだまのように繰り返し再生される。
これでしばらく私は生きていける。
「それにしても、生徒会に誘われるなんて凄いわ、凛花さん」
「そ、そうですか?」
「ええ、そうよ。昴も誘われたみたいだけど、断ったらしいわ。良かったわね?凛花さん」
「は、はい……」
王子も誘われたのか……!危なかった。王子が断ってくれて助かった。
「奏祐も一回断ったそうだけど、やっぱり引き受けることにしたらしいわ」
「ソ、ソウナンデスカ……」
私は蓮見の名前に挙動不審になる。
あの日以来、私は蓮見を避けている。蓮見を目の前にすると平常心ではいられなくなるのだ。
蓮見を見るとぶん殴りたい衝動にかられる。私は根に持つ方ではないはずなのだが、あの日のことはどうも許しがたい。乙女心を踏みにじりやがって。
「奏祐となにかあったの?」
「ナ、ナニモアリマセンヨ……?」
「本当に?」
首を傾げて訊ねる美咲様は、とても可愛らしい。だがその魅力に屈するわけにはいかないのだ。負けるな私。
「凛花さん、なにがあったの?教えて?」
ごめんなさい、美咲様相手に私が黙っていられるわけがなかった。
私はぼそぼそとあの日あったことを話す。
私の話を聞いていた美咲様の顔色が変わっていく。あの、美咲様?こわい顔になってますよ?
私の話を聞き終えた美咲様は、にっこりと美しいがこわい笑顔を浮かべた。
「――そう。奏祐が、そんなことを……」
「あの、美咲さん……?」
「安心なさって、凛花さん。私が奏祐によぉく、言い聞かせておくから、ね?」
「は、はあ……」
「ふふ……必ず奏祐を謝らせるわ。この私の名に懸けて」
いや、そんなことで名前を懸けてくださらなくて結構ですよ?
その後日、青い顔をした蓮見が私のところにロールケーキを持ってやって来た。
「すまなかった」と悲壮感を漂わせて謝る蓮見が段々可哀想に思えてきたので、私は許してあげることにした。
それにしても、蓮見をこんなにした美咲様って一体……。
美咲様は一体蓮見になにをしたんだろう?知りたいけど知るのがこわい……。
とにかく、こんな状態になった蓮見を見て私は誓った。
―――美咲様だけは絶対怒らせない、と。




